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第15話:翼を広げる勇気

雲海に朝の爽やかな風が流れる頃、ノエルは治癒庁の高等訓練場でラファエル師匠との授業を待っていました。

今日は護衛飛行技術の応用訓練です。近侍として、ガブリエル嬢をお守りするために必要な高度な飛行技術を学ぶのです。


「おはようございます、ノエル君」

いつものように穏やかな声と共に、ラファエル師匠が現れました。


「おはようございます、師匠」

ノエルは真剣な表情で挨拶を返しました。


基本的な飛行技術は既に習得していますが、護衛飛行となると話は別です。守るべき対象がいる状況での高速機動、急降下からの立て直し、空中での瞬間的な方向転換。どれも高度な技術を要求される分野でした。


「そうですね〜、今日は高速護衛飛行から始めましょうか」

ラファエル師匠は、いつものようにのんびりとした調子で説明を始めました。


「焦らず、優しく、着実に。でも、護衛となると速度も重要ですからね」


この言葉を聞くだけで、ノエルは身が引き締まりました。師匠の指導方針は変わりませんが、護衛という責任の重さを改めて実感します。


「まず、私の動きを見てください」


ラファエル師匠の手本は、まさに職業的な美しさでした。

瞬時に加速し、急角度で降下、そして滑らかに水平飛行に移行します。すべての動作が無駄なく、効率的でありながら優雅でした。


「護衛飛行では、常に守るべき方の位置を意識する必要があります」

師匠の説明は的確でした。


「自分だけの飛行とは全く違う技術が必要なのです」


「今度はノエル君の番ですよ」

「はい」


ノエルは翼を大きく広げ、全力で加速しました。

風を切る感覚は爽快ですが、護衛対象を想定した位置取りを維持しながらの飛行は、思っている以上に困難でした。


高速での方向転換を試みた時、軌道が大きくずれてしまいました。


「護衛対象から離れすぎてしまいますね」

師匠の指摘は正確でした。


「自分の技術を披露するための飛行ではありません。常に守るべき方との距離とタイミングを考慮してください」


この教えは、技術以上に大切なことだとノエルは理解しました。


「大丈夫、大丈夫。最初から完璧にできる人はいませんから」

師匠の励ましの言葉に、ノエルは新たな決意を固めました。


「もう一度、挑戦してみます」


今度は師匠のアドバイスを思い出しながら、ノエルは慎重に飛行しました。

速度を抑えながらも、護衛対象を想定した位置を常に意識します。


すると、先ほどよりもずっと安定した護衛飛行ができました。


「良いですね。技術よりも意識が大切だということが分かってきましたね」

師匠の評価に、ノエルは手応えを感じました。


「あれ?今日は戦闘訓練でしたっけ?」

突然、師匠が首をかしげました。


「いえ、護衛飛行訓練です」

ノエルが答えると、師匠は「あっ」と声を上げました。


「そうでしたね〜。えっと……護衛でしたね」


この天然ぶりがあるからこそ、高度な訓練でも緊張しすぎることなく取り組めるのかもしれません。


「では、続けましょう。今度は急降下からの立て直しを練習してみてください」


午後の訓練では、より実戦的な内容に進みました。

想定される脅威に対しての回避機動、護衛対象を安全地帯に誘導するための誘導飛行。


「近侍として最も重要なのは、ガブリエル嬢の安全を最優先に考えることです」

師匠の言葉は、技術指導を超えた哲学でした。


「自分の技量を過信せず、しかし必要な時には勇気を持って行動する。そのバランスが大切なのです」


実際に護衛対象を想定した飛行訓練では、ノエルは新たな発見をしました。

自分一人の飛行では問題なくできることも、守るべき対象がいると全く違う技術が必要になるのです。


「護衛とは、相手に合わせる技術でもあります」

師匠の教えは深いものでした。


「ガブリエル嬢のお疲れ具合、天候、周囲の状況。すべてを総合的に判断して飛行する必要があります」


一日の訓練を終えた頃、ノエルは技術的な向上だけでなく、近侍としての責任についても深く考えていました。


「今日はありがとうございました」

「こちらこそ、真剣に取り組む姿勢が素晴らしいです」


師匠の言葉は、いつも率直で温かいものでした。


「次回は、悪天候下での護衛飛行に挑戦してみましょうか」

「はい、ぜひお願いします」


訓練場を後にする際、ノエルは今日学んだことの重要性を改めて感じていました。

単なる飛行技術ではなく、ガブリエル嬢をお守りするための専門的な技能。それは近侍としての使命に直結する、かけがえのないスキルでした。


「……尊い」

師匠への感謝の気持ちが、いつものように言葉となって表れました。


厳しくない指導でありながら、確実に専門技術を習得させてくださる師匠の手腕。そして、責任の重さを教えてくれる包容力。それらすべてが、ノエルにとってはかけがえのない学びでした。


夕方の雲海を歩きながら、ノエルは今日学んだことを振り返りました。

護衛という責任の重さ。技術以上に大切な意識の持ち方。そして、守るべき人への献身的な気持ちの重要性。


飛行技術の向上はもちろんですが、それ以上に近侍としての心構えを学んだ一日でした。


宿舎に戻る道すがら、ノエルはガブリエル嬢への想いを新たにしていました。

今日学んだ技術を活かして、必ずお守りしたい。その決意が、これまで以上に強くなっています。


夜が更け、雲海に星が瞬く頃、ノエルは新たな使命感を胸に眠りにつきました。

明日も師匠の教えを胸に、護衛としての技術を磨き続けようと。


遠くの治癒庁では、ラファエル師匠が明日の指導内容を考えているかもしれません。「えっと、明日は何の訓練でしたっけ?」と首をかしげながらも、弟子が立派な近侍になることを心から願っている優しい師匠の姿を思い浮かべながら。


翼を広げる勇気。それは技術的な成長だけでなく、大切な人を守るための勇気でもありました。師匠が教えてくれた、近侍として最も大切な勇気でした。

## あとがき


ラファエル師匠の指導のもと、護衛飛行という高度で専門的な技術を学ぶノエルの成長を描いた物語でした。単なる飛行技術を超えた、大切な人を守るための責任感と専門性をお届けしました。次回は、天使としての基本的な役割について、ノエルがどのような理解を深めるのでしょうか。

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