81 視察 2
山頂に到着した。
フェルスはというと、私たちの気も知らないで、世界樹の脇でのんびり昼寝をしていた。
ルージュの母親である竜王が眉間にしわを寄せて質問してきた。
「フェルスは、一体何をしているのですか?」
「えっと・・・フェルスには、世界樹を守るという大役を担ってもらっているのです。昼夜を問わず、世界樹の側で頑張ってくれているのです」
「そんな大役をフェルスが?信じられません」
フェルスの母親がフェルスに話し掛ける。
「フェルス、久しぶりですね」
「あっ!!母上!!」
私は心から、フェルスが余計なことを言わないようにと祈る。
「僕は頑張って、お仕事をしてるんだよ。人間たちがご飯やお風呂も用意してくれるし、こう見えて、僕は慕われているんだ」
「ああ・・・フェルス・・・立派になって・・・」
フェルスの母親は涙ぐんでいる。
竜王はというと未だに信じられないようで、近くに居た冒険者に話を聞いていた。
おい!!冒険者!!絶対にただゴロゴロしているだけだとか言うなよ!!
そう心の中で強く願う。
その願いが通じたのか、冒険者たちはフェルスに対して、好意的だった。
「フェルス様が居てくれるだけで、安心感が違います」
「偶にはぐれのボンバーロックの駆除を手伝ってもらったりしているんですよ」
「ボンバーロックの駆除ができるのは、聖女様とフェルス様くらいしかいませんから、助かっています」
竜王も満足そうに頷く。
「フェルスも仕事をしているようですね。安心しました」
私はボロが出ないようにと思い、二人を山頂から遠ざける作戦に出た。
「竜王様、グラウ様。折角ですから、ルージュとフェルスを連れて、町を観光してはどうでしょうか?ご案内させていただきますよ」
「そうですね・・・そうしましょうか?」
「竜王様、是非そうしましょう。町での生活も気になりますしね」
町に戻るとガイドを手配し、私も一緒に竜王たちに同行する。ついでに仕事が休みだったミウとダクラも誘う。こんなことでもなければ、最近はゆっくり食事もできないからね。
手配したガイドは、狐獣人の少女ボルペだった。若いが、評判のいいガイドだ。ボルペに事情を説明すると、すぐにコースを見繕ってくれた。
「事情は分かりました。長旅でお疲れでしょうから、まずは温泉に。それからレストランで食事した後に観光案内をしましょう。最後はお土産なんかを買っていただこうかと思います」
「ありがとう。それでお願いするわ」
ボルペのガイドは素晴らしかった。
温泉も料理も竜王様たちは絶賛していた。
「しばらく、ここで暮らしてもいいですね?」
「私もそう思います」
ルージュもフェルスも嬉しそうだ。
しかし、「聖女館」を訪れた時、空気が一変する。
「こ、これは・・・ノワールでは・・・」
「間違いありません。ノワールです」
ノワール?
えっと・・・もしかして・・・これってヤバいやつでは?
しかし、ガイドのボルペは、いつも通り解説を始めてしまう。
「こちらのドラゴンはミウ様の故郷である猫人族の村で猛威を振るっていたドラゴンです。聖女様とミウ様とダクラ様で討伐されたのです」
「つまり、ノワールを殺したのが、こちらの聖女殿ということですね?」
「そうなのです。詳しい話は、こちらの「聖女アオイ伝説」に書かれていますので、是非お買い求めください」
もう遅い・・・竜王の顔を見ると怒りに満ちていた。私はミウの村で討伐したドラゴンの最後の言葉を思い出した。
『我を殺したら大変なことになるぞ・・・ドラゴンが一斉に復讐にやってくるぞ』
あの時は、ただの脅しだと思っていたけど・・・
私は必死で取り繕う。
「これには事情がありまして・・・仕方なく・・・」
「竜核を見せなさい」
「竜核?」
「討伐した時に大きな魔石があったでしょ?」
あったような・・・なかったような・・・
ボルペが感心したように言う。
「あれは竜核というのですか?実は研究者の間でも解析できないことで有名な魔石だったのですよ。危険な物の可能性があるので、倉庫に厳重に保管していますよ。竜核について詳しく教えてください。研究者も喜びます」
事の重大さを知らないボルペは、嬉しそうに倉庫に案内した。
倉庫の中央には大きな黒色の魔石が保管されていた。今も研究者が解析をしているようだった。
竜王はその魔石に歩み寄り、手をかざした。
「貴方方が言っていることに間違いはないようです。ノワールがご迷惑をお掛けしました。ノワールの所為で、多くの命が・・・」
ミウが言う。
「そうニャ!!私の師匠もコイツに食われたニャ」
ミウ・・・気持ちは分かるけど、煽らないで!!
しかし、竜王は予想外の行動に出る。
「これは罪滅ぼしです。こんなことは、あまり褒められたことではありませんが・・・」
竜王の手が光り輝く。
すると子犬サイズの黒色のドラゴンと5人の猫人族の女性が出現し、魔石は消え去った。
どういうこと?
その内の一人の女性にミウが抱き着く。
「師匠!!会いたかったニャ!!」
「ミウ・・・貴方の活躍をずっと見ていたニャ・・・」
思考が追い付かない。
竜王が説明をしてくれた。
「これは再生の炎です。火竜に伝わる秘儀です。あまり個人的な理由で使うことは許されていませんが、ご迷惑をお掛けしましたからね」
詳しく聞くと、ドラゴンとはエネルギー体らしく、竜核が無事なら再生が可能だという。それに犠牲となった猫人族の女性たちは、まだ完全に竜核と同化していない状態だったようで、そちらも再生が可能だったみたいだ。
そこに空気の読めない子犬サイズのドラゴンが言う。
「我にこんなことをしおって、許さん!!竜王様、コイツを八つ裂きに・・・」
言い掛けたところで、子犬サイズのドラゴンは竜王に殴られた。
「ノワール!!貴方にはお仕置きが必要です。グラウ!!」
「はい!!ストーンケイジ!!」
子犬サイズのドラゴンは、石でできた檻に収監された。
「この馬鹿は連れて帰って、厳しく処罰致します」
イマイチよく分からない私は、ルージュに聞く。
「あの馬鹿はノワールという黒竜じゃ。実力がないのに横柄で、問題児として有名であった。掟を破り、不正に力を手に入れようとするなど、許すことはできん。それにドラゴンは弱肉強食、戦いに敗れたのだから、アオイが気にすることはないぞ」
何とかなったようだ。
その後の話だが、竜王とフェルスの母親はノワールを連れて帰った。
そして、残された猫人族の女性たちだが、この町で暮らすことになった。ミウの師匠はともかく、他の女性は既に家族は村に居ないからね。
まあ、そんなこんなで、竜王の視察は無事に終了したのであった。
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