3 ジョブ格差
次の日から本格的な訓練が始まった。
午前中は全員で基礎訓練を行う。主にランニングと筋トレだ。不覚にも、近年運動不足の私は、嘔吐してしまった。
「うわっ!!汚ねえ・・・」
「オバさんには、きついだろうな・・・」
「ああは、なりたくないわね・・・」
「でも、かわいそう・・・」
四人は高校生だけあって、難なくこなしている。
ここでもカリエスは最後まで付き添ってくれる。
「年齢もそうだが、戦闘職のジョブにはステータス補正が掛かるんだ。ジョブのお蔭で格段に体力や魔力が上がる。アオイ殿のジョブは・・・」
「何にも補正が掛からないということでしょうか?」
「そうかもしれないが、地道な訓練を続ければ、きっと大丈夫だ」
そう言いながらも、カリエスは目を逸らした。多分この時点で、もう無理ではないかと思っているようだ。
そして午後からは、前衛組と後衛組に分かれて、スキルの習得をメインに訓練をする。
私は・・・もちろん別メニューだ。
高校生たちが激しい訓練をしている側で、鋼鉄化のスキルを発動させる。私としては、必死で動こうともがいているのだが、周りから見れば、訓練をサボって、ボケっと突っ立っているだけに見える。
それで訓練をしている高校生たちや騎士団員からは白い目で見られてしまう。
「あのオバさんは何をしてるんだ?」
「放っておけ。自分の訓練に集中しろ」
「でも、腹が立つわね。自分ばっかり楽してさ」
「そ、そうだね・・・」
私だって、頑張ってるんだよ!!
ただ、目に見えないだけで・・・
★★★
そんな日々が10日程続いた。
高校生たちはメキメキと実力をつけ、様々なスキルを習得する中、私は一向に「鋼鉄化」以外のスキルを習得できずにいる。
いつものように地獄の基礎訓練(一般的には、ごく普通のトレーニングメニュー)をこなした後にカリエスから相談された。
「午後からは、少し厳しい訓練をする予定だが、痛みを感じたりすれば、訓練を中止するから、すぐに申し出てくれ」
「は、はい・・・」
一体何をやらされるんだ?
見た目には、かなり激しいトレーニングに見える。
鋼鉄化した私をユリウスが、木剣で何度も殴り付けた。最初は怖かったが、全く痛みを感じないので、立っているだけに変わりはなかった。
高校生たちは噂する。
「騎士団長も、とうとうキレたな」
「そうね。あれだけサボっていればね」
「騎士団長としても、示しがつかないだろうしな」
「でもちょっと、かわいそう・・・」
どうやら、真面目に訓練をしない私を騎士団長のカリエスが、厳しく指導しているように映ったようだ。
1時間程、カリエスの指導が続いた。
他人事のように思うが、1時間も殴り続けるなんて、相当な体力だと思う。
「アオイ殿、どうだ?」
スキルを解除して、答える。
「全く痛くありません」
「そ、そうか・・・だったら真剣でやってみよう」
「えっ?真剣って、本物の剣ですか?」
「そのとおりだ・・・あまりしたくはないが・・・」
ここまでカリエスと接してきて、かなり真面目な人なのは分かった。
訓練が一通り終わると、実戦を経験しなければならない。なので、どうしても私に強くなってほしいのは、痛い程分かる。
「分かりました。一思いにやってください」
カリエスも最初は遠慮したように、私の左手に剣を当てて引くところから始めた。だんだんと強くしていく。20分位したところで、カリエスは魔導士たちを集めた。
「これから少し強めに攻撃する。何かあればすぐに回復魔法を掛けるように」
今までにない鋭い攻撃が飛んでくる。咄嗟に目を瞑ろうとしたが、スキルの所為で、それもできない。
カキーン!!
一昔前の金属バットのような音がした。
「信じられん。次は魔法だ」
次はファイヤーボールやウィンドカッターという魔法が飛んで来た。これも何のダメージも受けなかった。
「もしかすると、アオイ殿は凄いスキルを持っているのかもしれん」
特に何もしてないけど、少し誇らしい感じがする。
★★★
次の日からは、カリエスだけでなく、騎士団総出で私に攻撃を仕掛けてくる。
事情を知らない者が見れば、集団リンチに遭っているように見えるだろう。でも何も感じない。
カリエスたちが、ここまで一生懸命なのは、私の新たなスキルを期待してのことだ。
「きっと新たなスキルを得られれば、もの凄く強くなれるはずだ。辛いだろうが、それを信じて一緒に頑張ってほしい」
「は、はい・・・そんなに頑張っているわけではないのですが・・・」
それから一週間が経った。
訓練中、急に頭の中にイメージが湧いた。
「自動鋼鉄化」
呟いてみる。どうやら危険を感じたら、自動で鋼鉄化されるスキルのようだった。
カリエスに伝える。
「それは凄い。ちょっと木剣でやってみてもいいか?」
「多分、大丈夫です」
「では・・・」
カリエスは私の背後に回り、いきなり木剣を振り下ろす。
カキーン!!
自分では何も意識しなかったが、「鋼鉄化」のスキルが発動した。
「これは凄いぞ!!訓練が実を結んだな」
「そ、そうですか?私よりも騎士団の皆さんのほうが、お疲れでは?」
いつも訓練補助をしてくれている女性騎士が言う。
「それは確かに・・・何時間も打ち込みをさせられているからな。でもこっちも訓練になるし、これで魔族を退治できると思えば、どうということはない」
一日が終わり、宛がわれた宿舎に移動する。
そんな時、高校生四人が宿舎の裏で、話しているのが聞こえて来た。
「なんだよ。あのババア、調子に乗りやがって」
「本当よ、何であのオバさんだけ、特別扱いなのよ」
「訓練中に騎士団長に色目を使うなど、もってのほかだ」
「そういえば、ずっと見つめていたよね?」
ずっと見つめてるんじゃなくて、スキルで動けないんだよ!!
どうやら私は、高校生たちにかなり反感を持たれているようだった。
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