15 指名依頼 3
今度はそう来たか・・・
それからしばらくして、ジャンヌさんが手配した冒険者が5人やって来た。いずれも斥候職の冒険者だった。メンバーが揃ったところで、ジャンヌさんが指示をする。
「それでは作戦決行だ。アオイ、やってくれ」
「は、はい・・・」
私はキラービーの死体を大量に引きずりながら、森の中を進む。
キラービーが私を襲って来なくなったのは、警戒してのことだ。だから、今度は仲間の死体を大量に用意して、挑発する作戦に出た。これなら、怒りに我を忘れて攻撃してくるという。
森に入ってしばらくすると、キラービーの大群が襲ってきた。数が増えようが、怒り狂っていようが、私には関係ない。いつもどおり、立ったままやり過ごすだけだ。
倒しても倒しても、キラービーはやって来る。
でもミウたちには、決して攻撃しない。ミウの魔法が私に結構当たるので、キラービーには私が攻撃しているように見えるからだ。
1時間くらいして、冒険者の一人がジャンヌさんに報告しているのを聞いた。
「キラービーの巣を発見しました」
「よくやった。ダクラは引き続き、ここでキラービーの討伐。ミウは私たちと来てくれ」
どうやら、これから巣を強襲するようだ。
それから、しばらくしてキラービーはやって来なくなった。
まだ、警戒は解いてないけど、ミウたちが巣に攻撃を加えているのだろう。
ドカーン!!という爆発音がした。
30分もすると、ミウたちが帰って来た。
「やっつけたニャ。女王も巣と一緒に木っ端微塵だニャ!!」
報告によると、ミウの特大爆裂魔法で一気に仕留めたそうだ。
ミウは自慢げに言う。
「威力だけなら、私は大陸一だニャ。コントロールは悪いけど・・・」
★★★
養蜂場には3日滞在した。
何匹かキラービーを討伐したが、後は一般冒険者だけでも何とかなるということで、私たちはカナリマの町に帰還した。
ギルドに顔を出すと、領主のクロフォード伯爵がいた。
「本当にありがとう。これで我が領も救われた。グラスウルフ、キラーピラルク、そして今回のキラービーの討伐と、お礼を言っても言い切れない。それで我から褒美を与える。それは爵位だ。貴殿ら三名を騎士爵とする」
ミウが驚きの声を上げる。
「わ、私たちが貴族?それは凄いニャ・・・」
「でもいいのか?アオイは別にして、私とミウは人間ではないぞ」
「この町ではそんなことは誰も気にしない。種族よりも功績が、我が領の信条だ」
二人は大喜びだ。
獣人や亜人が貴族になるなんて、獣人の国や亜人の国以外では、かなり稀らしい。まあ、私も元貴族なんだけどね。剥奪されたけど・・・
社会人経験の長い私は、素直に喜べない。
何か裏があるだろうと、勘ぐってしまう。
「爵位をいただくと、何か義務が発生するのでしょうか?」
クロフォード伯爵は、苦笑いを浮かべながら言った。
「特にはない。本当に感謝の気持ちと思ってもらって構わない。こちらから定期的な報酬は支払われない代わりに、面倒な仕事はないぞ。まあ、指名依頼といった形で依頼は出すがね」
「それなら・・・」
結局、この話は受けることになった。
甘かった・・・
クロフォード伯爵の言葉に嘘はなかった。
ただ、無言の圧力はある。指名依頼を断れなくなった。今日も私が必死で断ろうとしている依頼を受付嬢が、爵位を盾に説得してくる。
「そうは言われましても、お貴族様ですから、一般冒険者の模範になってもらわないといけませんよ」
「で、でも・・・そんなの私には無理です」
「大丈夫ですよ。聖女様」
★★★
私が嫌がった指名依頼は、聖女としての活動だ。
討伐依頼なんかだと、基本的に現場で立っているだけなのだが、聖女の活動は違う。愛想を振りまき、有難いお話をしなければならない。
以前から、聖女の仕事はちょくちょくあった。
しかし、爵位を得てから、それが増えた。爵位を得たということは、クロフォード伯爵が認定したということに等しい。また、以前はボランティア活動としてやっていたのだが、正式に仕事にもなってしまった。
仕事なので、結果を求められる。
話だけならまだ、何とか誤魔化せるが、今度の依頼は貴族間の領土紛争の仲裁だ。
体を固めるしか能のない私に一体どうしろと?
問題を詳しく聞いてみると、アルホフ男爵領とベルツ男爵領との間に30年以上に渡って領有権を主張し合っている土地があるという。特に資源なんかはないのだが、プライドから解決に至ってないという。
もうきっちりと半分ずつでいいんじゃないかと思ってしまう。
同行するクロフォード伯爵が言う。
「それはそうなんだが、境界線の引き方で、またもめているんだ」
とりあえず、アルホフ男爵とベルツ男爵の会談に私も出席することになった。開始早々、激しく罵り合っている。堪らず、クロフォード伯爵が仲裁に入る。
「落ち着け。喧嘩をしに来たわけではあるまい?」
何とか罵り合いは収まったが、議論は平行線のままだった。
そんなとき、いきなり私に話を振られる。
「ここは一つ、聖女殿の意見を聞こう」
ここで私かよ!?
丸投げもいいところだ・・・
仕方なく、何かの講演で聞いた話をする。
最近分かったのだが、それっぽく曖昧なことを言えば、勝手に聞いた人が有難がって、いいように解釈してくれる。現代日本でも同じだが、予言なんかが曖昧なのは、そのためだろう。
「それでは、欲張りな兄弟の話を致します。その兄弟は、何かにつけて争っていて・・・」
仲の悪い兄弟が、おやつのケーキの分配を巡って、いつものように喧嘩を始めた。堪り兼ねた母親は、「お兄ちゃんがケーキを切りなさい。そして、切らなかった貴方が、ケーキを選びなさい」と言った。ケーキを切る兄は、正確に二等分しないと自分の分け前が減ってしまうことから、奇麗に二等分したという。
クロフォード伯爵が言う。
「なるほど・・・東西で分けることはできんが、南北に分けてはどうだ?」
「聖女様が言われるのなら、こちらは構いません」
「我もです」
あっさり解決してしまった。
後で聞いた話だが、アルホフ男爵とベルツ男爵は、お互いにこの不毛な戦いに終止符を打ちたいと思っていたらしい。だが、30年以上争ってきた歴史があり、引くに引けない状況だった。聖女という私の言葉を言い訳に和解が進んだというわけだ。
今回の件で、破格の特別報酬を貰った。
「こ、こんなにいただけません」
「気にすることはない」
「でも、私は大したことはしてませんし・・・」
「大したことだ。理由はどうあれ、30年以上に渡る紛争を解決したのだからな。胸を張っていいぞ。それと、これからも頼む」
「は、はい・・・」
この世界では、現代日本よりも肩書きや面子が大切なようだ。
聖女なんて、本当は誰でもいいだろうけどね・・・
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