13 指名依頼
その日、私たち「鋼鉄の聖女団」は、ギルマスのジャンヌさんから、呼び出しを受けた。
ギルマスルームに案内されて、話を聞く。
「正式にギルドから「鋼鉄の聖女団」に指名依頼を出したい」
「指名依頼ですか?」
Cランク以上の冒険者パーティーには指名依頼という制度がある。
これはギルドや依頼者が特定のパーティーを指名して依頼を出す制度だ。もちろん普通の依頼よりも報酬は高い。
「依頼というのは、魔物の討伐依頼だ。ソール川に超巨大な魚型魔物のキラーピラルクが出現したのだ」
ミウが文句を言う。
「それなら、リザードマンやマーマンの冒険者を集めて討伐をすればいいニャ」
「それがそうもいかないんだ・・・」
ジャンヌさんが言うには、すでにリザードマンの冒険者に指名依頼を出して、討伐を試みたが、いい結果にはならなかったようだ。戦闘したリザードマンが言うには、いくら精鋭を集めても、水中では勝てないとのことだった。
「つまりだ。水中でなければ、討伐可能だ。魔物といっても魚は魚だ。釣りでもと考えている」
察しのいいダクラが言う。
「それはアオイに餌をやれと言っているのか?」
「言い方は悪いが、そうなるな・・・他に頼める奴もいないしな。もちろん報酬は弾む」
ミウが聞いてくる。
「どうするニャ?私は断ってもいいと思うニャ」
「そうだね・・・一度現場を見てから決めようか?」
「だったら、案内しよう。こちらも全面的に協力する」
★★★
キラーピラルクが出没した地点に到着した。
なんだか懐かしい感じがする。というのも、私がカナリマにやって来た時に流れ着いた場所だった。私に親切にしてくれた漁師のワーフさんたちも現場にいたのだが、途方に暮れていた。私を見付けたワーフさんが声を掛けて来た。
「今をときめく聖女様が助けに来てくれたのか?あの時は、アンタが偉い人だとは思わなかったよ。てっきり、男にフラれて身投げしたんだと思っていたぜ。考えてみると、あれは修行だったんだな?」
修行なんてしていたわけではないが、訂正すると色々と聞かれそうだったので、そのまま流すことにした。とりあえず、事情を聞く。
「1週間前に突然現れてな・・・船も3隻大破している。幸い死者は出ていないが、このままの状態が続けば、俺たちはみんな廃業だ。それでギルドに依頼を出したんだ」
親切にしてくれた漁師さんたちが被害に遭っているのなら、見過ごせない。
「分かりました。何とかしてみましょう」
それから作戦会議が始まった。
釣りのような要領で、キラーピラルクを引っ張り上げて討伐する案をジャンヌさんが出したのだが、ワーフさんは、いい顔をしない。
「餌とロープが問題だな。まず奴の胃酸は強力で、あっという間に餌を溶かしちまう。それにそこら辺のロープだとすぐに千切れてしまう。最初は本職の俺たちも、その方法で討伐しようとしたが、無理だったからな・・・」
「つまり、餌とロープさえ何とかなれば、釣り作戦は決行できるということだな?」
「それはそうだが・・・」
まず、餌は間違いなく私だ。
いくらキラーピラルクの胃酸が強力でも、私は溶かせないだろう。そして、ロープだが・・・
「ロープは私が何とかするニャ。魔力でロープを作るニャ。まず切れることはないニャ。引っ張るのは、別の人にやってもらえれば大丈夫ニャ」
これで、私を餌にした釣り作戦が決行されることになってしまった。
2時間後、作戦が始まる。
漁師や手の空いた力自慢の冒険者が大勢集結したところで、私はミウが出した魔力でできたロープを巻き付けて、ソール川に入った。漁師たちが騒ぎ出す。
「聖女様が餌って、そんな罰当たりなことをしていいのか?」
「もし聖女様に何かあったら・・・」
ワーフさんが一喝する。
「聖女様が体を張って、俺たちを助けようとしてくれてるんだ。余計なことを考えず、俺たちにできることをするぞ!!」
「「「オウ!!」」」
川に入るとすぐに鋼鉄化して、重量を軽くする。
水面に仰向けになり、流れに身を任せる。しばらくして、水面が盛り上がり、体長が10メートルはありそうな巨大な魚が大きな口を開けて、私を飲み込んだ。
丸のみされた私の視界には何も映らない。
耳を澄ますと、声だけが聞こえる。
「お前ら!!死ぬ気で引っ張れ!!」
「絶対に放すなよ!!」
魔力でできたロープの張り具合から、壮絶な綱引きが行われていることが分かる。
しばらくして、急に浮遊感に包まれ、すぐに落下して、何か硬い物の上に着地したのが分かった。私が不思議に思っていると、視界が明るくなる。
キラーピラルクのお腹の中から私は救出されたのだった。
ジャンヌさんから、戦闘状況を聞く。
「漁師と冒険者たちが必死に引っ張り上げたところをダクラが一撃で仕留めたんだ。それから、腹を掻っ捌いて、アオイを救出したというわけだ。グラスウルフといい、今回のキラーピラルクといい、アオイたちがいなかったらと思うとゾッとするよ」
「お役に立てて光栄です。それと報酬ですが・・・」
そんな話をしていたところ、漁師たちが群がって来た。
「聖女様、本当にありがとうございます」
「聖女様というよりは、神の御使い様かもしれんぞ」
ワーフさんが言う。
「最初に会ったときは、『何か困ったことがあれば声を掛けてくれ』と偉そうなことを言ったが、逆に助けられちまうとはな・・・」
「気にしないでください。右も左も分からなかった私に親切にしてくださったことは、本当に感謝していますよ」
「そ、そうか・・・おい!!みんな!!聖女様方には、1年間無料で魚を届けるってのはどうだ?」
「そ、そんな・・・悪いですよ」
「気にするな。それくらいしないと、気が済まないんだよ」
最終的には、無料は流石に悪いので、1年間半額にしてもらえることで話はついた。
ミウとダクラと帰りながら雑談をする。
「魚が毎日食べられることは嬉しいけど、それよりもあんなに感謝されたら、冒険者になってよかったと思うニャ」
「私もだ。自分の技能を高めるために冒険者になったのだがな・・・」
「じゃあ、もっと頑張って、多くの人を幸せにしようよ!!」
「そうだニャ」
「うむ」
ひょんなことから、始めた冒険者だが、意外に冒険者が向いているのかもしれない・・・
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!