12 幕間 聖女の憂鬱
~聖女クルミ視点~
私は小松久留実、17歳の高校2年生だ。同級生の平野蓮、西園寺沙羅、椿美鈴と一緒に勇者召喚によって、異世界にやって来た。
この世界にはジョブという概念があり、ジョブによって様々なスキルや魔法が使えたりする。レンは「勇者」、サラは「剣聖」、ミスズは「大魔導士」、そして私は「聖女」というジョブだった。もう一人、一条葵さんという30歳くらいの女性も勇者召喚されたのだけど、彼女は「鉄の女」という訳の分からないジョブだった。
私たち四人は、かなりのレアジョブだったようで、召喚したザマーズ王国の関係者は大喜びをしていた。それに私の「聖女」というジョブは特別な意味があるそうだ。勇者もそうだが、聖女にはジョブとしての「聖女」と役職としての聖女がある。私はザマーズ王国の公式の聖女にもされたので、品格も求められた。
レンやサラ、ミスズは強力なスキルや魔法が使えることに調子に乗ってしまっている。
私としては、もっと冷静になったほうがいいと思うのだが、引っ込み思案の私は意見することができない。みんなに流されるままだ。こんな自分が嫌になる。
というのも、ザマーズ王国のアオイさんに対する態度が酷いからだ。勝手に召喚しておいて、不遇なジョブだから、待遇を悪くするなんて、あんまりだ。もし私が、不遇と言われるジョブだったらと思うとゾッとする。
そんなアオイさんも、無実の罪をでっち上げられて追放された。明日は我が身だと思ってしまうが、三人はザマーズ王国の関係者に同調する。
レンは「勇者」というかなりのレアジョブを得て、傲慢になってきているし、サラは元々実力がない者に厳しい。サラは剣道部の主将で、実力のない部員たちを馬鹿にしていたしね。そしてミスズは、アオイさんのことを毛嫌いしていた。なんでも、年齢の離れたお姉さんに雰囲気がよく似ているからだという。チャラチャラしているミスズは、真面目で優秀なお姉さんと比べられて育ち、かなり恨みを持っているようだった。アオイさんにしてみたら、とばっちりもいいところだ。
それとザマーズ王国の国王もエルザ王女も信頼できない。
絶対に何かを隠していると思ってしまう。唯一信頼できるのは、騎士団長のカリエスさんくらいだ。不遇なジョブであるアオイさんにも分け隔てなく指導をしていたからね。私はアオイさんがいなくなってから、よくカリエスさんに相談するようになった。
「私は戦闘とか、センスがなくて・・・できれば後方で治療をメインに活動したいと思っているのですが・・・」
「クルミ殿のメイス捌きは一級品だと思うが・・・戦闘が好きではないのなら、仕方ないか・・・何とか希望に添えるようにする」
そうして、私は基礎訓練だけを受けるようになり、その後は国営の治療院で働くことになった。
正直、充実している。私はあの三人から離れたかった。サラとミスズはどこがいいのかは分からないけど、レンが好きだ。レンもそれが分かっていながら、弄んでいる。私も二人と話を合わせるために、レンを好きなフリをしているけど、いい加減疲れた。
サラとミスズは私のことを下に見ているし、私も三人に合わせているから、同じグループに入れてくれる。折角、異世界に来たのだから、こんな関係は切りたい。次第に私は、三人とは関わらなくなっていった。
そんなある日、治療院で仕事をしている私の元にカリエスさんがやって来た。
「アオイ殿が隣国のマダマシーズ王国にいるとの情報が入った。私は騎士団長を辞し、アオイ殿の捜索に向かう」
「そうなんですね・・・でもカリエスさんがいなくなると、三人はもっと調子に乗るでしょうね。抑えてくれる人がいなくなるわけですから・・・」
「そうかもしれんが、アオイ殿が心配だ。それに国の姿勢にも我慢できんからな。それでクルミ殿、もし無理やり任務に就かされそうになったら、教会を頼るといい。貴殿のジョブは「聖女」だから、きっとよくしてくれると思う」
雰囲気的に私たちの出動は近いのだろう。
教会関係者と何度か接したことがあるが、教会も教会であまり良い組織ではなさそうだった。ただ、戦闘をしなくていいと考えると、そちらのほうが、いくらかマシだと思うけどね・・・
能天気に訓練をする三人を遠巻きに見ながら、私は今後の計画を練るのであった。
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