10 冒険者活動 2
冒険者になり、2週間が経過した。
活動は順調だ。報酬もかなりいい。グラスウルフを1匹討伐すると平均して金貨1枚が貰える。出動する度に平均して30匹は討伐するから、三等分しても毎回金貨10枚の収入があるのだ。ギルド職員の給料が月に金貨10枚だから、1日で稼いでしまう。
それに仕事自体は楽だ。
草原を魔物を引き寄せるポーションを振り掛けて歩き、グラスウルフが襲ってきたら、鋼鉄化してミウとダクラが討伐するのを待つだけだからね。
「ウハウハだニャ!!」
「うむ。もう少しいい宿に引っ越してもいいかもしれんな」
冒険者ランクも上がった。ミウとダクラが元々Dランクだったこともあり、Cランクになった。
冒険者ランクはA~Fのランクに分かれていて、Cランクともなれば、この町では5組しかいない主力パーティーだ。なので、最近はパーティーに加入したい者が大勢やって来る。だが、すべて断っている。
「今更遅いニャ!!」
「そうだ。それに今のところ必要ないしな。むしろ足手まといになる」
過去のいざこざもあるが、彼女たちを生かせる前衛戦力が存在しないし、彼女たちよりも優秀な後衛はこの町に存在しない。私としても、分け前が減るし、必要ないと思っている。
ある日、ギルマスのジャンヌさんから呼び出しがあった。ギルマスルームで話を聞く。
内容は大規模なグラスウルフ討伐作戦を行うとのことだった。
「冒険者も頑張ってくれているのだが、グラスウルフの数は一向に減らない。領主様も頭を悩ませている。それで大規模な掃討作戦を行うことになったんだ」
グラスウルフの被害は深刻らしい。
放牧している家畜の被害は絶えず、草原を移動する行商の被害も多い。町としてもすぐに対応しなければならない案件だそうだ。
「君たちがやっている討伐方法は斬新で、画期的だ。それを冒険者と領兵合同でやろうと考えている」
私たちがやっている討伐方法は、かなり効率がいい。
私たちが一度に30匹程しか討伐しないのは、素材の値崩れを心配してのことだ。でも、多くの人が困っているのなら、協力してあげたい。
ミウとダクラが反対意見を言う。
「でも難しいと思うニャ。だって冒険者は集団行動に向いてないし、おまけに領兵と仲が悪い奴も多いニャ」
「私もそう思うな。冒険者も領兵も住民のために何とかしたい気持ちは同じだ。しかし、合同で作戦を遂行するのは無理だ。以前に合同訓練をした時には、大喧嘩になって訓練が中止になったのをギルマスも覚えているだろ?」
ギルマスのジャンヌさんは、不敵な笑みを浮かべながら言った。
「それについては考えがある。だから君たちを呼んだのだよ」
★★★
結局、ジャンヌさんの依頼を受けることになった。
破格の報酬を貰え、更に成功するとBランクにランクアップすることを確約してくれたからだ。Bランクとなると、一流冒険者の仲間入りとなり、ギルドから様々な特典が与えられる。現金なもので、あまり乗り気ではなかったミウとダクラも、ノリノリだ。
「困っている人たちのために依頼をこなすのが、冒険者の務めニャ」
「ここで断っては、冒険者の名折れだ」
二人の性格を熟知しているジャンヌさんならではの提案だった。
そして、作戦はというと・・・
私は冒険者活動をする時はいつも、神官服を着ている。
その所為か、冒険者の中には私のことをどこかの偉い宗教関係者だと勘違いしている者もいる。ミウとダクラが私とパーティーを組んでから急に活躍し始めたことも大きい。ジャンヌさんの作戦はこの噂を最大限利用することだった。
まず私たちのパーティー名を「鋼鉄の聖女団」にされた。
私が聖女で、ミウとダクラが護衛という設定だ。この世界では勇者と同じで、ジョブとしての「聖女」と役職としての聖女がある。正式な聖女はレイア教会が認定をするのだが、地域ごとで自称聖女は結構いるようで、私が聖女を名乗ったところで、どうとでもなるそうだ。
そして、冒険者に対して何回か演説を行った。
「今まで隠していてすみませんでした。私は使命を与えらているのです。それは世界を平和にすることです。そのためには皆さんのご協力が必要なのです。ずっといがみ合ってきた者と手をつなぐのは、嫌かもしれません。しかし、今回だけはお願いします。世界の危機を救うために!!」
自分で「私は聖女です」というのは気が引けた。なので、とにかくそれっぽいことを言った。内容のない、薄っぺらい話だったが、かなり効果があった。中には涙を流している冒険者もいた。
「俺はやるぞ!!町のために立ち上がる!!」
「俺もだ。こっちには聖女様がいるんだ」
「領兵の奴らは気に食わないが、今回だけは協力してやる」
領兵の前でも同じようなことを行い、戦力を集めることは成功した。
どの世界も肩書きとその場の雰囲気に流される人は多いようだ。
そして、いよいよ作戦決行日になった。
人が増えたところで、私のやることはあまり変わらない。草原をぶらつき、グラスウルフに襲われるのを待つ。しばらくして、グラスウルフの群れが襲って来た。いつもなら、ここでミウとダクラが攻撃して、グラスウルフを討伐するのだが、今回はミウとダクラは攻撃しない。
私はというと、「重量調整」のスキルで、かなり体重を軽くする。グラスウルフは獲物を狩るとすぐに巣に帰還する習性がある。それを利用して、私を巣に運ばせて、そこを大人数で襲撃して一網打尽にする作戦なのだ。
本来グラスウルフは、現場である程度バラバラにして巣に持って帰るのだが、バラバラにできないと判断したようで、そのまま巣に運ばれて行く。巣は草原にある小高い丘の上の洞窟だった。巣に入ると一番奥に運ばれ、しばらくして一際大きなグラスウルフが現れた。どうやらこの群れのリーダーのようだった。
今回の作戦の一番の目的はリーダーのグラスウルフの討伐だ。
リーダーさえ倒してしまえば、群れは瓦解する。ゼロにはならないだろうが、大量発生することはない。ここでリーダーを討伐し、グラスウルフの数を可能な限り減らせば、作戦は大成功だ。
後はみんなの助けを待つばかりだな・・・
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