1 異世界転移
気が付くと、そこは見知らぬ部屋だった。
私は一条葵、33歳のごく普通のOLだ。
浮いた話は一つもなく、近年はお局様と化している。
バス停でバスを待っていたところで、突然魔法陣が現れて、意識がなくなった。そして、今に至っている。一緒にいるのは、同じくバスを待っていた男子高校生1人、女子高生3人だ。
「貴殿らは、勇者だ。憎き魔族や獣人たちを殲滅するために召喚したのだ。世界の危機を救ってくれ」
如何にも王様っぽい男が、偉そうな口調で言う。
私を含め、一緒にいた高校生たちもキョトンとしている。
微妙な空気になったところで、壮年の男性が話始めた。
「突然のことで、混乱されているようですね。驚かないで聞いてください。我がザマーズ王国は危機に瀕しているのです。このままでは、無辜の民が悪辣な魔族や獣人どもに蹂躙されてしまいます。それで禁忌とも言われる勇者召喚を・・・」
話を聞いたところ、今話しているのがザマーズ王国の宰相で、先程偉そうに話し掛けてきたのは、この国の国王らしい。宰相によると、異世界から勇者と呼ばれる存在を召喚すると、転移する際に優秀なジョブが得られるそうで、やむにやまれぬ事情で、私たちを召喚したようだった。因みにこの世界には、魔法やスキルといったものがあるようだ。
本当に勝手な奴らだ!!
「そういうわけだ。勇者としての使命を果たすように」
急に誘拐まがいのことをされて、「勇者だから、使命を果たせ」だって!?
馬鹿にするにも程があるわ。
「いきなりどういうことだよ!!」
「本当よ!!これは誘拐よ」
男子高校生と女子高生が騒ぎ出す。
収集がつかなくなったようで、宰相は国王陛下を退出させた。
「国王陛下、後の説明は私がやっておきます。勇者様方は、興奮されておりますので・・・」
「うむ」
国王が退出すると、宰相はいきなり土下座してきた。
「本当に申し訳ありません。私を含め、多くの者が反対したのですが、国王陛下は聞き入れてくれず・・・」
男子高校生が言う。
「もう謝らなくていいから、帰る方法があるなら教えてくれよ」
「そ、それが・・・今のところ、帰還方法は見付かってないのです」
これにはキレそうになった。
いきなり、訳の分からない所に連れて来られて、しかも帰れないって・・・
山積みの仕事はどうするのよ!?取引先への連絡は?
誰か代わりにやってくれるの?週末には重要な会議があるのよ!!
心の中で怒鳴ってみたものの、すべて仕事のことだったので、少し虚しくなった。
「ふざけるなよ!!」
「そうよ!!どうしてくれるのよ」
「これは犯罪ですよ」
そんなことを思っている間にも高校生たちの罵倒は続く。
「オバさんも何か言ってよ!!」
この部屋に女性は女子高生三人を除くと、私しかいない。
私がオバさんって・・・
自分たちに非があるとしても、自分の半分も生きていない高校生たちに罵倒され、平身低頭謝罪している宰相が少し可哀想になった。
「ちょっと怒鳴ってばかりじゃ、何も分からないわ。とりあえず、こちらの宰相さんの話を聞きましょう。怒るのはそれからでもできるから」
「ありがとうございます。ここではアレですから、別室にご案内します。おい!!お茶とお菓子の準備を!!」
別室に案内された私たちは、宰相の話を聞く。
「私も貴方たちと同じくらいの子供を持つ親です。親御さんのお気持ちを考えると大変心苦しいのですが、世界は危機的状況でして・・・」
本当のところはどうかは分からないが、悪辣な魔族に対抗するために私たちが召喚されたそうだ。この召喚には、かなりの経費が掛かっているようで、失敗が許されないプロジェクトのようだ。
「最初に勇者様には、ジョブ鑑定を行っていただきます。伝承ではかなりのレアジョブを持っているとのことでした。それでジョブの特性に合った訓練を受けていただき、ある程度実力がついた時点で、本格的に勇者として活動していただきます」
「報酬は?危険な任務に就くわけですから、それなりのものを用意してもらわないと困りますよ」
宰相が可哀想だと思ったが、言うべきことは言わないとね。
「もちろん、毎月大臣クラスの給料と騎士爵を授けます。功績によっては、爵位も給料もアップします」
この世界は、魔法とスキルがある以外は、中世ヨーロッパのような社会構造をしているようで、ほとんどの国が王様がいて、貴族がいる感じだった。こちらの一般的な相場を聞いたが、悪くない報酬だった。
男子高生が言う。
「報酬は悪くないんじゃないか?それと俺としてはジョブが気になるな」
「だったら、すぐにジョブ鑑定を致しましょう」
私としては、もっと情報を聞き出したかったのだが、ジョブや魔法という言葉に目をときめかせた男子高生には、つまらなく感じたのだろう。
仕方なく、ジョブ鑑定に応じた。
まず男子高生が鑑定を受けた。
4人は同じ高校に通う高校2年生で、男子高生は平野蓮。切れ長の目をしたイケメンだ。私も後10歳若ければ、放っておかなかったと思う。まあ、それでも犯罪か・・・
「こ、これは凄い!!レン様は「勇者」です。伝説に近いジョブですよ」
「やったあ!!凄いだろ?」
能天気なもんだ。これから死地に赴くというのに・・・
因みにこの世界では、称号としての勇者とジョブとしての「勇者」があるようで、レンはジョブが「勇者」で、私たち全員がザマーズ王国の勇者ということになる。ちょっとややこしい。
続いては黒髪のロング、凛とした雰囲気の西園寺沙羅。
「こちらも凄いですよ。サラ様は「剣聖」です。「剣士」の最上級職ですよ」
「一応、私は剣道部の主将だからな。剣術には興味がある」
この娘も嬉しそうだ。
次は茶髪でアイドルっぽい雰囲気の椿美鈴。私のことをオバさんと言った子だ。
「ミスズ様は「大魔導士」です。魔法系のジョブの最上級職です」
「魔法が使えるの?ちょっと嬉しいかも・・・」
黒髪のショート、お嬢様っぽい雰囲気の小松久留実。
「クルミ様は「聖女」です。回復魔法や補助魔法に特化したジョブで、こちらも大変珍しいです」
「戦闘とかは怖いから、回復とかを頑張るね」
そして最後は私だ。
「アオイ様は・・・えっと・・・「鉄の女」・・・何だこれは?見たこともないジョブです」
「鉄の女」!?
確かに社内ではそう呼ばれていたけど・・・
私はここ数年、仕事一筋だった。
浮いた話は一つもなく、仕事に打ち込む姿勢から、いつしかそう呼ばれるようになっていた。でもそれがジョブって、おかしくないか?
宰相のお付きの人たちも騒ぎ出す。
「一体なんのジョブなんだ?」
「ハズレのジョブっぽいな・・・」
「まあ、5人中4人が大当たりと考えれば、それはそれで・・・」
「勇者」や「剣聖」に比べると、見劣りするだろうけど、私の所為じゃないからね!!
気を取り直した宰相が言う。
「それでは、ジョブの詳しい説明とスキルについて、説明致しましょう」
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