1話 で、あるからにして
◇ガタルス王国。王都タンテーイ。タンテーイ王城。豪華なある一室。
何の為に時計を掛けて一定の時間に起きたいのか。自分の本能が欲するままに求めていくのは悪いのか。
そんなことを思いながら起きるはずの6時より前の5時55分に起きる。
「ア、」
「はい。ここに」
「アティー。名前を全て言い切る前に来るな」
そこから全身用鏡を前にアティーに服を着せてもらう。短く綺麗にまとめられた銀色の髪に黄金比の様に完璧な顔面のパーツの配置。だがそのパーツ達はおとなしいのでとびきりの美貌の持ち主という訳ではない。
これは僕、ガタルス王国、王位第一継承者、ニバー・ガタルスの話だ。
「今日も今日とて学校ですね。あーつまらない」
彼の名前はアティオン。アティーと呼んでいる。彼は確かに彼なのだが、何故か執事服ではなくメイド服を着ている。その光景に対して違和感よりも親和性を感じる。つまりメイド服の方が似合っているのだ。
彼の容姿は金色の髪をストレートのボブカットにして、彼を彼女と錯覚するような少女っぷりのある顔面。
幼少期から僕の世話をする同い年の執事だ。思うに、彼のおっとりした性格も容姿の錯覚を加速させている。彼は執事という立場だが一緒に育ったので気を許す仲。血で繋がる実の兄弟や姉妹よりも仲が良い。
「このまま悠長に学校に通っていて良いのだろうか。まあ学校に通うのを辞めたら何かできる訳でもないか」
◇ガタルス王国立高等学校ドゥーイング。
「見つめていて面白くない表情をしているわ。ニバー」
「その、人の顔を無言で見つめるという行動自体に面白味がないのだろう、フォート」
教師が教室に来て授業を始めるまでの数分。あってもなくても良いようなこの時間に楽しみを求めて皆会話を繰り広げる。その一つがここで起きた。
彼女の名前は、フォート・コンビューディー。僕ら王族の政治、主に内政を補助する公爵家の令嬢だ。
奇跡のようなバランスをした色彩の赤紫色の髪。髪の表面は短く、内側(頭皮に近づく)につれ長くカットするレイヤーカットのロングヘアー。小麦色の褐色系の肌が不思議で妖艶な魅力を引き立てる。自信に溢れた表情が主張の具現化のようなパーツたちを自然と魅せる位置に持っていく。
どの視点から見てもどの種族から見ても美女である、と評判されている。
「面白くないのは社会もだわ。最近、民衆の暴動が起きる回数の頻度が危険ね。ここ、王都ガタルスではまだ起きていないけど、他の都市では既に一回は起きている。お父様が嘆いていたわ。」
僕はそれに悩んでいる。
「耳が痛い話だ。王子としてこの状況に対してどこから解決していくべきか分からない。王である父上も何をしているのか、出来ているのか。それとも何もしていないのか、出来ないのか。血迷っていることは確かだろう」
「怖いねぇ。もう一人で夜中に買い物なんて行けないね」
アティーが口をすぼめて左手の拳を右手で被うように両手を握りながら眉を下げ、不安だという表情をする。
王による政治の限界なのだろうか。僕が生きている間に王の政治ではなくなるとしたらどんな政治になるのだろう。
タッタッタッタ。人が走ってこちらに来る音がする。廊下は走らない方が安全なのだが。
音が近づきその音の奏者が入って来る。
「どうしましたか先生?」
「皆様、校門前で暴動が起きています」
「おいまじかよ」 「まったく、めんどくさいわね」
「どうでもいいよ」 「荒れてるだろうなぁ~」 「大変なんだろうね」
「それでさ、前の試験で……」 「民はおとなしくしていればいいのにな」
教室内のクラスメイト達の感想が聞こえてくる。蛙の子は蛙なのだろう。ものぐさな言いぐさをした人の親はダメ貴族と民から言われている者たちばかりだ。
今、ここで、起きるのか。学校に暴動をしにくるのは珍しいな。
恐らく、今の貴族たちが行う政治に悲観をして次世代である僕たちを奮起させようとしているのだろう。そして子供である僕らから政治を行う親へ意識を変えるように仕向けろという思いだろう。
当代たちが民の声を聴かない事はもうわかりきっている事だ。
「先生。僕は次にこの国を背負う者です。怒る民の声を直接聞いてみたい。校門前まで行かせてください。もちろん変装か隠れるなどをして。心配しないでください。僕の成績を思い出してください。簡単に民から攻撃を食らうような能ではありません。適当にすれば良い。テキトーじゃなく」
「私も行きますわ。王家を一番に支え内政を仕る公爵家の令嬢として知りたいのです」
フォートも目を張って顔を引き締めて髪を手で靡かせそう言った。
「この先に闇があるというのならきっと君らが照らすでしょう。行きなさい」
「行くぞ、アティー」
「はい」
フォートと顔を合わせ、アティーに目くばせをして教室を出た。
「それでは皆さん授業を……」
◇校門前。
数十人の衛兵たちが民を抑えている。彼らはさすがに門の外には出られないだろう。パッと見で3000人はいると思える。後方へ太い列が続いている。異様だ。
そこでは門を挟んで魔術が飛んだり爆発したりと非常に危険。さらに鉄格子の門なので隙間がある事もその状態を悪化させている気がする。
変装や隠れれば良いと言ったがでまかせである。その手間をしなくても問題はない。アティーがいるからだ。
アティーの魔法も特殊だ。それは[未来予知]。1秒先が分かる。見れるじゃない。分かるのだ。未来予知を発動すると1秒先が記憶として流れてくる。だから分かる。
特殊と言ったが、では通常の魔法は何かと思うだろう。魔法は火、水、風、雷、土、草木の基礎魔法で構成されている。それは詠唱を行い発動をする。
よく、魔法と魔術を混同する人がいる。引っ掛け問題としてよく出されるが、魔法は国語や数学などと同様の学問の教科名。魔術は剣術や槍術などと同様、魔を使った武術の名称だ。
アティーの未来予知は戦闘に使えるがそれ単体で戦闘は出来ないので特殊魔法である。
僕の魔術は何だろうか。先ほど、もと言った。僕も特殊魔術を使うのである。
それは[共鳴魔術]。発動しようと意識した時に、口で言った擬音と頭で想像した事が魔術になる。例で見せた方が分かりやすい。
「ザーザー」
雨を想像してそう言った。
すると雲が、いきなり空に足跡が出来たかのように作り出されてザーザーと雨を降らす。火魔術で燃えている校庭の木や草花を鎮火する。だが民衆の心には焼け石に水のようだ。
目の前に風魔術の攻撃が来る。風魔法は見えにくい代わりに音が大きい。風魔術使いの戦闘するときは耳をすませるのが良い。まあ、こんなことを考えていないで避けるべきではある。
バキャッ。
木くずが飛び散る。これはアティーの草木魔術だ。風魔術の攻撃を防いだのだ。基本的に防御はアティーにしてもらう。未来予知が使えるのだから自分で守るよりもアティーに守ってもらう方が安全だ。全て任せるつもりはないがな。
民衆へと近づいて行く。喧噪であり耳に入る雑音であった音たちは次第に単語のつながりで出来た文ので声あるという認識が始まる。
「危ないですよ。ここはご令息様らが来るような綺麗な加工品だらけの場所ではありません」
衛兵が忠告をしてくる。
「仕事の邪魔をするようで悪いがすまない。学びたいのだ。自分らの身は自分らで守るから、君は仕事を果たしてくれ」
「はっ!わかりました。自然に親しまれるおつもりとは知りませんでした」
民衆の表情を見てみる。身体的に細い太いは関係なく全員が顔の筋肉に力が入り引き締まった表情をしている。目は攻撃的だ。まるでいじめっ子をいじめ返す時みたいに。復習を果たす時みたいに。バカにするように。子供に説教する親のように。
中には素性を隠すためにフードと仮面を被っている人もいる。その人は魔術を放ちこちらに攻撃することに一番貢献しているだろう。撃って、唱えてを繰り返すような動作をしている。
「おいおいなんだ~!貴族様らが眺めるためにのこのこ来たぞ」
その声が響くと僕の周りでは攻撃が止み、無数の視線が突き刺さる。
「ごきげんよう。お話を、と思いまして」
「じゃあ言ってやるよ。もうお前たちの時代は終わるのさ。考えるふりしてそこは無で、頑張ってるふりしてそれは楽で、一体どんな頭を働かせて俺たちに働けと言っているんだ!!」
なかなか重いな。僕はまだ17歳なのだが、こんな業を受け入れろと言うのか。分かっている。ここまで放置したのは僕達貴族である。そしてこれは僕に言っているのではない。父上に言って欲しいのだ。
民は王子である僕の顔を知らない。話でしか聞けない。僕はこの学校のどこかの貴族の令息だと思われているだろう。まさか王子がここに来るとは誰も思わない。それは先ほど話した衛兵も同様だ。
「今、僕らはあなた達民を救うために、幸福にするために、日常を楽しんでもらうために勉強に励んでおります」
「だろうな。こんなバカでけぇ土地の学校で設備は整って、国一番の教師を雇って。そこまですればきっと良い人間が育つだろうよ。でもそれは過去も同じだろ。お前らの親も同じような環境で育ってこうなったろ。じゃあまた繰り返しだよ。これはシステムの話さ」
「はい。僕たちが言えるのはそれを繰り返さないために励んでいる、努力している。これから一生懸命、未来で国を民にとって良いと思えるようにするために」
「口だけばかりだな。貴族様はよ。今が苦しいんだ」
フォートが身を乗り出し僕の前に出る。
「ええ。そうですわ。口だけですわよ。なぜって、今はあなた達と会話をして応答をしているからですわ。普段は国の為に行動をしていますわ。無駄口をたたかず、文句を言わず!それが生まれてからの使命だと」
「今の話じゃねえよ。いつもそんなことばかりしているって話だよ!!」
「それは!」
僕はフォートの肩に手を置く。
「フォート、確かに民たちのストレスを浴びせられて、僕たちの心もそれに近づいて行ってるが我慢だ」
フォートは顔を赤くさせて冷静ではなかったと、息を深く吸い深く吐いた。
「ありがとう。落ち着いたわ」
僕はフォートに頷き返す。
ふと見ると、アティーは涙目になって口を押えている。崩れる表情を見せないために。ここはアティーには厳しいな。君が苦しむ必要はないのに。だが我慢はしてもらう。僕の右腕だ。悲しいのなら耳を塞げば良いのに。だが貴族たちがそうした結果、こうなったのだ。
「あなた達はどうしてこの暴動を起こしているのですか?」
「お前たちが政治をする時代はないと伝えに来たのさ。スタントンさんがこれから変えてくれるのさ」
「スタントン?」
すると今まで会話をただ聞いていた横と後方の民たちが言ってくる。
「スタントンさんは希望だ」 「ジャコンバ=クラブのリーダーだぞ!!」
「民が意見を言える政治になるんだ」 「あの人が次の為政者だ」 「知らねぇのか!!」
「私達でも政治に関われるのよ!!」 「スタントンさんならやってくれる」
民でも政治に関わる事が出来るシステム。そうなれば僕たちは確実に不要だ。だがこの権力を保持したい訳ではない。では僕は何をしたいんだ。この、立場が無くなった時に。
民が政治に関われば民のして欲しい事がされて国は良くなっていく。そうじゃないか。国は民の集まりだ。それに本来は指導者が必要だから貴族という存在があるだけだったのだ。民が指導者になっても国が良い方向に行けば良い。民は民の気持ちが分かる。だとすれば民がそれになる、それをするべきなのか?
「それが理由。そしてそれは新しい政治なという訳ですね」
「ああ。そうさ。お前らみたいに有閑がないんでな。進んできた後ろの道がもう崩れてきてんだよ。前に進むしかねぇんだよ」
「なるほど。有意義なお話が出来て感謝します」
僕はそう言ってから2人に目くばせをして校舎に戻ることにした。もう2人は限界であろう。新しいことも学べたのだ。十分だ。
話している時に攻撃がなかったのは、なんとも人の矛盾や度し難い様を感じる。暴動を起こしてなお、貴族へ敬う気持ちと態度が染みついているのだ。だから出来なかった。
確かに民の目は攻撃的だったが、それは威嚇に近い気がした。まるで被捕食者が捕食者に食べられないようにするために。
◇校舎。中庭。
「私は何も答えられなかった。民が怖かった。アティーは泣いていたけれど、私は動揺した。次第に何も出来ない自分に怒りがやってきて、興奮のあまり涙を流しそうになったわ」
フォートは震えるより痙攣と言った方が良い振幅で、動く手を見つめるふりをしている。やはり恐らく、あの光景をフラッシュバックしているのだろう。視界一杯に自分に対し敵意を向けてくる表情しかなかったらこうなっても仕方がない。
僕は大丈夫だった。人前で演説する事に困難を思った事がない。だから群衆に耐性があるし慣れている。
「フォート、でも君はしっかり話したじゃないか。確かに会話としては理想ではなかった。だが民と話すのは時間の無駄、愚考が移るなどと言う貴族がいるのだ。その点、君は凄いよ」
「ありがとう。ニバー。微かに心が軽くなった。そうね。私はきっと成長して行き、いつの日か民に対して立派に話しかけることが出来るわ。今は成長途中ですもの。悲観することないわ」
気づいたらフォートは左目から感情の証拠を一粒流す。そして上を向き、地上とは対照的に清々しいほど綺麗で広く何もない空を見た。
「アティー。君も落ち着いたかい。刺激が強すぎたようだ。君にあれは耐えられない。だとしても経験はすべきだったろう」
「うん。ニバー。あの時僕は、未来予知を常に使っていた。君を守るために。すると1秒先の民のあの表情と声が確実に襲ってくることに恐怖したよ。1秒先が変わるわけないのに、民が僕たちに向けるものを変えてくれたらという期待と襲い掛かる現実に、耐えれなかった」
僕はそれが頭から抜けていたようだ。ああ、何てことをしたのだ。彼にしか背負えない苦しみを先ほど背負わせてしまっていた。そればかりか僕は自我を張り、アティーの成長の為だと温度もなく突き放したのだ。
「ごめんよ、アティー。君の事を全く理解できていなかった。共感ができず同調しかできないような状況に君を立たせてしまった」
「いいえ、大丈夫。君に付いて行くことが僕の人生だから。どんなものでもね。君も辛かっただろう。守るべき民に攻撃されたんだ。それはまるで皮膚に針が生えた赤子を抱く様に」
◇タンテーイ王城。食卓。
「そのような事が今日、起きたのです」
「……ふーむ。……なるほどそうか。夕食後、俺の部屋に来なさい」
と言って父は席を立ち、自室へ行った。機嫌が悪いようには見えなかった。他の理由があるのだろう。好物であるはずのステーキを半分ばかり食べ残し「んー」と唸りながら去っていく。
「分かりました。父上」
「兄上はそのような事をしたのですか。危機感がありませんね。兄上に何かあったらどうするのですか」
1歳下の弟が気に掛けるような声と表情の裏に、隠しきれない嫌味を持ちながら言う。
「体のケガや精神は大丈夫なのですか?お兄様」
5歳下の妹が不安と心配を隠しもせずに言う。
「うん。大丈夫だ、アティーも付いていたし。僕は何ともないよ」
「はあー、それなら良いのですが無茶はしないでくださいね」
「そうですよ」
姉上と母上がそう言ってくる。弟のみが孤立した食卓。前はもっと、弟と仲の良い兄弟や姉妹がいたのだがな。
◇王の一室。
「俺たちはこのまま時が流れていけば死ぬ」
部屋に入って顔を合わせて一言目。父上はそんなことを言う。
「はい。確かにそうでしょう。人も生命であり寿命があります。時には逆らえないでしょう」
「そうではない。殺されるのだ。民に」
民に!?いや、確かにそうだ。あの暴動がより大きくなればそうなる。
父上の曖昧な言葉を誤って解釈してしまった。という事はこの会話の題はこの国の行く末。
「革命が起きそうだ。そうなると俺たちは笑われながら、喜ばれながら首を斬られ死ぬか。火でじわじわと炙られながらゆっくりと苦しみを味わって、またその様を罵られながら死ぬかくらいしかない。どちらにしろ民の思うがままだ」
「そうかもしれませんね。今日で全都市で暴動が発生しました。それが不満の証拠。スタントンという人物が何か鍵を握っているかもしれません。先ほど言った通り、暴動でそのような事を言う民が大勢いました」
「ああ、俺も知っている。そこでだ。民を知るために、王国を存続させる為に、偉大な王になるために、ニバー、影になれ。今、国で起きている問題を、君が全て解決するのだ」
「!?」
「これから表では君は学校を辞めてエルフ族の国へ留学することになる。それで自由になる。まず手始めに都市ワグズモの魔人族問題を解決するのだ。」
都市ワグズモの魔人族問題。市中で魔人族が我ら人族の土地で何故だか幅を効かせて暴れている。多人数で喧嘩をしたり、人族に襲い掛かったりと治安が悪くなった。衛兵も何故だがそれを放置する。そうなる前は平和だった。
「そしてスタントン、彼が暴動の原因であるジャコンバ=クラブの指導者で、国家を転覆しようとしている事は間違いない。そして彼も、都市ワグズモにいる。探るのだ」
暴動の問題点。それは起こす側の方が被害が大きいのだ。暴動を起こすと社会が止まり、町が壊され、怪我人や死人がでる。意思を表示させる手段として余りにも大変だ。だがそこまでしてまで伝えたいことがあるのだ。目を向けなければならない。
民を知るために、民が苦しんでいる理由を除く。暴動の理由を知って、民の不満を受け入れて改善する。
生まれてからその為に生きてきたのだ。今更、どんな事になろうともそれを変えるつもりはない。最高の国を作るために。
「望むところです。この国を背負うために、やります」
「うむ。我らにそれ以外の選択肢はない。君にこれを断る択もなかったのだ。それではフォート、説明しろ」
「分かりました」
いきなり後ろからフォート、とアティーが現れる。そうだろう。俺は今から影になるのだ。
フォートの公爵家、コンビューディー。表では内政に尽力している。裏では諜報活動や暗殺などのスパイとして、影としても政治的に支えている。フォートもまたその1人。
「私たちはこれから王が説明されたように都市ワグズモに行って魔人族問題の原因とジャコンバ=クラブを探り、解決する。その時に素性がばれないようにこれを着けるわ」
と言ってフォートが出したのは、フェイスベール。なるほどこれで隠すのか。フォートは僕が着ける分を寄こしてきた。黒色だ。右下に草か花か分からないが赤色の模様が入っている。着けてみると顔全体を被える。
フォートの物は白色で目以外を隠している。アティーは青色で口以外を。
「そうだな。素性はバレても得がない。だから隠した方が良いだろう」
「ニバー、アティー、似合っているわ。これにより少数民族の文化的習性という名目で顔を隠して行動していくのよ」
フォートのフェイスベール姿は非常に物騒だ。自分の全てを見せたくなるような、意識が吸い込まれるような、その目だけが強調された、妖美だけが見える状況に、僕は変になる。
僕はいきなりどうしたのだ。いや悪い癖だ。
「あはは。なんか隠すってなると逆に恥ずかしいね」
アティーの少し潤い照ったピンク色の唇が強調されている。口が動く度に僕の心臓も速くなる。目のやり場が固定されてしまう。
ああ、表の表情では冷静でいるのにアティーよ、何故僕の劣情を作るのだ。フェイスベールをしていなかったら、フォートやアティーにこの表情を晒してしまっていたのだ。
男や女など関係ない。美しきものに僕は変になる。
ふむそう考えるとこれは顔を隠すのにも使えるが表情を見せずに声という情報しか見せずに相手と心理戦ができるな凄い代物だ冷静になるのだ僕よ。
「君たちは命の存在があやふやになるような危険の伴う事をしてもらう。だが民の怒りが我らの命に届いても同じ事だ。必要な支援は都度にしていく。頑張ってくれ」
◇駅。
黒く横に長い鉄の塊が、先頭の頭から怒りという感情がないはずだが、女性の怒号のような甲高い音を鳴らして煙を出す。これは蒸気機関車。
この魔法文明の力。魔式を利用してこの世界は発展してきた。
魔式とは数式のように魔法を組み立てる理論の事。主に魔法陣で使われる。数式は数字だが、魔式は文字で単語だけを使い組み立てる。魔式でも+-×÷を使い、数学とは違う意味で使用される。
例えば花を咲かすとする。その魔式は[花の名前÷平均=土+種=日光×空気×栄養×水÷適度=数=色]。
となる。蒸気機関車には、小さな魔法陣が至る所に描かれておりそれにより機能している。
因みに、魔法陣の動力源は魔石と言われる魔力が溜まっている石だ。
「都市ワグズモはここより寒いから、まずそこの気温に慣れないといけないわね」
「どんな事が起きるのか、不安だな」
アティーは手に息を吐いてこすり温める。手袋をすれば良いのに。それを忘れる程なのだろうか。
「心配ないさ。これくらいの不安、民は明日に対して毎日思っている。この経験も民を知ることの第一歩さ。これから成長と成功をすれば、国は存続して僕たちは最高の国を作る。停滞と失敗をすれば、国は変わって始まりと混沌の時代が生まれる。どちらが良いか分からない。だが僕たちのやる事は明白だ。今、苦しんでいる民を救う」
「ええ。そうね。明日なんてない。そこには希望か絶望しかないわ。そんな二択、つまらない。今という無限を楽しむのよ」
と言って、フォートは足音を少し大きく鳴らし機関車に乗る。アティーは小さい歩幅で小走りにその跡を追う。俺もゆったりと右足を前に出す。次は左だ。
もうすぐ出発だ。
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