病気の妹の為にクビになる訳にはいかないんだって健気に頑張る荷物持ち、実は病気の妹なんておらず酒場通いに金を使ってるだけだった。
お前の頭を空っぽにしてやる。
「王太子ポンチコ!お前を悪役令嬢パーティから追放するですわ!」
ここは十五話の時に神様から職業を授かる世界。基礎ステータス・スキル・装備可能品・相性・弱点属性、全てにおいて最低と言われる王太子の職業を得てしまったポンチコは、病気の妹の為に金が要ると言って幼馴染のジャッカル率いる悪役令嬢パーティに荷物持ちとして加わらせて貰っていた。
だが、ある日ポンチコには妹なんて居ない事がジャッカルにバレてしまったのだ。
「俺は今世の記憶を思いだした!それによりお前が一人っ子だと判明したのですわ!よくも、五年間も俺達を騙して給料泥棒してくれましたわね!今までの迷惑料込みで、一生かけて賠償させてやりますわ!」
ポンチコ大ピンチ!ポンチコ大ピンチ!冒険者パーティを組む幼馴染は相手の家族構成を知らないという一般常識に甘え油断しまくっていたポンチコ。だが、ジャッカルが神様から得た悪役令嬢という職業はただ強いだけのものでは無かった。
悪役令嬢の本質、それは自分を騙し裏切っていた相手の嘘を見破り、倍返しのざまぁをする事にあったのだ!なので、五年間のレベルアップで悪役令嬢を極めたジャッカルは脳内に降って湧いた今世の記憶によってポンチコに騙されたのを知る事が出来たのである!
「…見事。王太子唯一のぶっ壊れ洗脳スキル『パラサイト』がこんな形で破れるとはな。貴様とは、いずれまた戦う事となるだろう。では、サラダバー!」
「スポーツマンシップに則り激闘繰り広げた武人のフリして逃げようとしてもダメですわ。私達が争うのは法廷ですわよ」
ポンチコ大ピンチ!ポンチコ大ピンチ!武人キャラのフリすれば大抵の罪は許されるという奥の手も、悪役令嬢の前では通じない。
だが、その時奇跡が起こった。
精神的に追い詰められたポンチコは前世の記憶を取り戻したのだ。
「悪役令嬢ジャッカルよ、貴様が今世の記憶を取り戻したのと同じ様に、ミーもたった今、前世の記憶を取り戻したぞ」
「それがどうしたですわ」
「前世の記憶を得た、それは別人に乗っ取られたのと同義!故に賠償の義務は発生しない!」
「なら、仲間の肉体を奪った悪霊として魂砕きしますわ」
ポンチコ大ピンチ!ポンチコ大ピンチ!
「待て、乗っ取られたのは嘘だ。ミーはミーのままだから、魂砕きバットは振り下ろさないでくれ」
「じゃあ行こっ、法廷」
「待て待て待て、ユーは今世の知識でミーを追い詰めた。なら、ミーも前世の知識で助かるチャンスをくれ!」
【説得(70)】→1クリティカル
「話を聞きますわ」
「しやぁっ!では話そう。ミーは前世ではゲーマーだった。そして、ミーがプレイしたとあるゲームにも病気の妹は存在した。だが、その妹は兄と血の繋がりは無く、本編開始までに面識も無く、年上で、兄を殺そうとしてくる、ブルマ履いたり魔法少女になったりゴリラになったりする病気の妹だったのだ」
「そんなのを病気の妹とは呼ばねえですわ。呼んだとしても、一部の人だけですわ」
「ところがどっこい、病気の妹である点についてはミー含め大多数のプレイヤーが受け入れたのだ。つまり、ゲーム世界においては、これぐらい無理目な設定でも病気の妹として通るのだ。そして、ここはゲーム的な世界であり、ミーが貢いでいた酒場の女スーザンは赤の他人で年上だが、持病があり『オニーサン手術代タリナイデス』とミーに泣きついてくるから病気の妹と呼べるのだ!」
「くっ、無茶苦茶な論理だが、説得判定でクリティカル出されたからには通すしかねえですわ!」
ポンチコ大逆転!ポンチコ大逆転!なんて事だ、悪役令嬢作品なのに王太子が勝ってしまう。このままだと、感想欄が荒れてしまうと思ったその時だった。
「号外ー!号外ー!酒場の人気ナンバーワンだったスーザン(28歳)が詐欺で逮捕されたよー!医者をしていた夫と組んで嘘の診断書を作り、何人もの客を騙してたぞー!もっと詳しく知りたきゃ新聞買ってねー!」
新聞屋がチャリをチリンチリン鳴らしながら通り過ぎると、ポンチコとジャッカルの顔色が一変した。
「ポンチコ、流石に病気じゃ無い奴を病気の妹とは呼ばないだろですわ?」
「スーザン結婚してたんだ…」
「これで法廷確定ですわね」
「スーザン、24歳って言ってたけど違ったんだ…」
「おーい、話、聞いてますの?」
こうして、詐欺に騙された事と元パーティへの賠償で完全に心が壊れたポンチコは、前世の自分に肉体を明け渡したのだった。
そして、これが切っ掛けでポンチコは王太子の隠れた強さに目覚め、世界を救う程の実力を手にしたのだが、
「あ、これマジで乗っ取られてますわね。魂砕き!」
「ぎゃー!」
その力を振るう機会は訪れ無かった。