見えない占い師 →
占いとは古今東西、老若男女に愛されてきた一大コンテンツ…
今日もある占い屋が噂になっていた。
この日、私は同じ部活の仲間である2人の友達とぶらぶらと街中を歩いていた。
「来週試合あるし、シューズ買いに行こ」
と私の友達の1人が言い出したのが発端だった。
私は白のワンピースを着てきた。
私達は昼前に駅前で集まり、ショッピングモールで昼食を済ませ、軽く店を見て回った。
シューズを買い、次は何をするかと話していると、
「最近うわさの占い屋に行かない?」
前とは別の方の友達が提案するが、
「私、占いはあんまり好きじゃ無いなぁ」
別に私は占いが嫌いなわけでは無い、
だが、あんな胡散臭いものは信じられない
そんな風にして言い合いながら街を歩いていると、
ドスッと何かが崩れ落ちるような音と、
その周りの人の叫び声。
「通り魔だっ!」
注意を促す男の人の声が聞こえた。
人が切り裂かれ
押し除けられる音が
近づいてきた。
人混みから現れたナイフは
私の左腹部に…
「 …は… ぁ… ? 」
痛い…
通り魔は周囲の人に取り押さえられ、
ナイフから手を離した。
白いワンピースに黒くにごった赤に染まる
痛い怖い痛い痛い痛い痛い痛い痛い怖い痛い痛い痛い怖い痛い痛い痛い怖い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛
混乱と恐怖で
声が出せない
力が入らなくなった手足
私は崩れ落ちるように倒れた
私の周りには、いきなりの事で
混乱している2人が呆然としている…
私は死ぬのだろうか…?
だったら…
「…気に… しないで、…」
そうだ、私のせいでみんなの試合に影響が出てはいけない
私は声を絞り出すようにして伝える
人混みの中から白髪の男がこちらに歩み出す
通り魔はは人々に羽交締めにされている
白髪の男は私の前でしゃがみ込む
すると、目を合わせず、心配そうに言った
「あの、ばんそうこう要ります?」
「 …ばんそうこう? 」
あれ?
すごいふつうに声出た
白髪の男は続けて、
「すいません、俺カラーボール投げるの初めてで…」
カラーボール…?
あれ? これって血…
いや、よく見たらこれ全然違う!
カラーボールの塗料だ
落ち着いてみたら
ナイフもかすり傷程度で全然痛く無いし
気が動転して死ぬと思い込んでいたのか…
あ…遺言残しちゃった。
───私はしばらく手で顔を覆い、その場にうずくまった。
「さて、占いを始めようか」
私達は今、うわさの占い屋にいる。
この白髪男は自称『占い界のエース』らしい。
どうやら通り魔が来ることを予知しカラーボールで撃退に来たそうだ。
とても胡散臭い占い師のだが、助けてもらった身のため、何もいえない…
占い師というより予言者だと思うが…
彼の名前は はぐれ という。
「俺の占いは眼を見るんだ。あと、関節も見れるともっといいね。じゃぁ、今君が一番何が気になってることはないたい?」
気になっていること…?
「なるほど、未来のことか!さっき死ぬと思い込んで友達に遺言を残しちゃったから
明日からどんな顔して会えばいいのか、とか、広められないか心配、とか…」
と私が答える前に はぐれ が…
なんで分かった!?
「そ、それは言わないでください!後ろにその友達がいるんですから…」
私は背後でニヤニヤする友人達に視線を送ると、2人は顔を背けた。
はぐれがさらに、
「ちなみに、明日には部員中に広まっているみたいだね」
私は背後で肩を振るわしている友人達に視線で殺気を飛ばすと、2人は固まった。
「回避する方法は何がないんですか!?」
「無い」
え?
「俺は未来の事実を見ているんだ。俺が見た事実は変えられない。絶対に!」
「何してくれてるんですか!」
私が はぐれ に掴み掛かっていると、
「お前、いいもん持ってんじゃん」
突然チンピラみたいなことを言い出したはぐれ。
「ものすごい死相だね。死相の化身というか、『死』そのもの、というか…何やらかしたらそうなるんだよ」
「急に失礼ですね… どういうことですか?」
「君、明日にはきっと死んでるよ。いや、多分ここら辺の人は明日には死んでるよ」
サラッとそんなことを…
えぇ!?
「見ちゃったんですか!? 私の未来見ちゃったんですか!?」
「見ちゃった」
しかし、はぐれは落ち着いていて、
「俺は決して誰かが死ぬところを見たわけじゃない。俺が見ない限り、未来は変えられる。明日の昼、ここに来るといい」
はぐれは私の後ろで話す2人にも向けて
「君たちも死にそうだから、明日来な」
なぜそんなことを軽々と…
───翌日
「お!ここだっ!ここっ!」
「静かにしてください!仲間だと思われたく無いんですよ!」
「私としては、しっしょにいてもいいんだけどなぁ。イケメンだし」
顔が良くても中身で相殺っていうかマイナスなんだけれど…
私達は今、交差点に来ていた。
「いやー、仕事休んでまでここに来いと言われるとは…」
私の知らない人達もがそこにいた。
おそらく私達と同じように はぐれ に言われたのだろう。
はぐれは何故かこけし片手にバカみたいに騒いでいて、周囲からの視線がすごい。
足元の地面にこけしで大きく星を描くと、リュックサックをあさりだす。
リュックサックからヘルメットを取り出し私達に配り始めるはぐれ
「ヘルメット被って!あとは水と食料…」
準備を整えた はぐれ は
こけしの星の中央に立った
「じゃぁ、始めようか!」
「始めるって何を?」
「何するの?踊るの?」
「いや、怪しげな儀式をするのでは?」
「惜しい!怪しげなは余計」
その時、地面が割れ、何かが姿を表す。
「何ですかあれ?」
まるで人の手の塊のような生物とも言えない、本能が関わってはいけないと言う何か
それは、爆音と共に地面から飛び出し、近くのビルを破壊した。
はぐれはそれを見て
「俺は知ってる。この時、お前はこけしを破壊することを、俺を攻撃しないことを」
予言通り、ソレはこけしだけを粉砕する
しかし、これはまずい…
手の塊は私達の2メートルほど前にいた。
ソレは地面を砕き、私達の中で一番端にいたおじさんに向かって飛び出す。
「大丈夫なんですか?逃げた方が…」
「大丈夫、俺が見たあのおっさんの未来には時計があった。確か14時10分だった。
つまり、その時まであのおっさんは死なない!」
今は14時6分、あと4分か…
「そもそもあの手の塊は何なんですか?」
「あぁ、アレは化け物でも幽霊でも無い。
現象だっ!」
はぐれは避けながら答えた
現象?
「そう、現象…アレは人の本能がイメージする姿」
次々とソレに攻撃され
人数が減っていく
「生物が本能で恐る、抗うことのできない存在、アレは天災だ…」
天災、自然災害
つまり、
どうしようも無いのか。
───結局私も襲われ、気がつけばソレは消えていた。
どうやら はぐれ に関わった私達は全員無事なようだ。
怪我人もいるが、たいした怪我では無いらしい。
何故ここまでして助けたのか、何故私達だけを助けたのか、何故もっと多くの人を助けなかったのか。
そんな言葉が一瞬頭に浮かんだが、
今になって思えば、未来がすでに決まっている私達なら、怪我をするタイミングが決まっていて守りやすい。
建物の倒壊を見越してヘルメットを配りあらかじめ最も安全であることを確認した場所で戦闘を始める。
さらには、避難生活のために水と食料を用意していたのだろう。
こけしの星はちょうど地割れの起こった場所で、人が立ち入らないようにしていたようだ。
こうしてみると、私達を守るために尽くしてくれていたことがよくわかる。
はぐれ は手の届く範囲で守っていたのだ
そんな彼に文句を言うのはあんまりだろう
ここで私は気づいた
はぐれがいない…!
天災に巻き込まれた?
いや あの予言者に限ってそんなことは…
「おぉい!手伝ってくれぇ!」
瓦礫の山の向こうから、はぐれ の声が聞こえた!
「何やってんですか!バカなんですか!?
心配させないでください!」
「なんだよ、心配してたの?ツンデレめ」
よかった… いつも通りのはぐれだ
昨日会ったばかりだけれど、
…きっとそうだ。
私は瓦礫の山を回り込み、
一家と思われる3人を連れた はぐれ を見つける。
「いやぁ、余裕があるし、いけるかなって思ったんだけど…流石にキツイな」
大量の荷物を持ったはぐれが言った
「はぁ… 肩貸しますから、荷物下ろしてください」
あの後も、ギリギリまで人を助けていた
そんな彼を支え、荷物を受け取って
みんなの下へ
───数日後
あの後、私達は救助され、安全な街で過ごすことになった。
一段落ついた私達は、はぐれについて教えてもらうことにした。
幼少期、はぐれはうっかり親と目が合い親の未来… 一生を見てしまったという。
最期の瞬間を見たことが、はぐれにとってのトラウマとなったらしい。
それから人と目を合わせないようになり、
未来を見てしまうことも減ったそうだ。
目蛾の合わない はぐれ は気味悪がられ、
人とのの繋がりを持つことが嫌になった。
はぐれは未来を見る力を持ったがために
過去に縛られているのだ。
でも、今は違う。
未来を見ようとしなかった占い師は、
自ら未来を見て、
未来に進んだ。
楽しんで頂けたでしょうか?
今回は短編です。
はぐれ は占い師というより超能力者ですね
最後になりますが、
この物語読んでいただいた方に感謝!!