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宇宙の果てに向かって

作者: 雉白書屋

 ついに、地球は滅びた……。しかし、人類は健在だった。

 もっとも、地球が滅びたと言ってもそれは人間が住むに値しなくなったという意味であり、人類は世代交代しつつ他の惑星へと移り住み、またそれを繰り返していた。そのたびに新たな発見をし、科学技術は磨かれていった。そして、ある時人類はついにある疑問、その解を求めた。

 

 宇宙の果てはどうなっているのか。

 

 これを知ること。それもまたここまで紡がれてきた人類の意志。挑戦の時が来たのだ。

 結成された調査団は盛大なセレモニーの後、大型宇宙船に乗り込み、星を発った。

 宇宙船に積んだ物資は十分であり、自給自足も可能で飢えの心配はない。自動制御装置により、小惑星と衝突することもない。船外での活動が可能な修理用のロボットもある。衣料品と医薬品も充実している。もっとも、彼らは遺伝子改良により病気の心配はなく、長寿である。

 これは現在の技術力を駆使して作った最高速の宇宙船だ。それでも、その旅は気が遠くなるほど長いものになるだろう。ゆえにこの船の中で何世代にも渡って渡航を続け、母星へ随時、報告していくことになる。母星との距離が開けば開くほど返答も遅く、やがて途絶えたように見えるだろう。それでも、いつかきっと答えを手に入れ、そしてそれを母星に届けることができると彼らは信じている。乗組員一同は志を一つにして暗き航路を進むのだった。


 

「おじーちゃん! あーそーぼっ」

「おお、おお、いいとも。何して遊ぼうかねぇ」


「んー、あ、じゃあ、お話して!」

「ああ、いいとも、いいとも」


 物資が豊富と言っても子供の遊び道具はそう多くはなかった。子供は壊しやすく、また飽きやすい。おもちゃを満足のいく量を積むのは無理だと考えたためだ。もっとも、大人でも暇をつぶせるもの、ゲームや映画などが充実していたし、何人か子供が集まれば勝手に遊び出し、笑い声が途絶えないものだ。大きな問題はなかったが、子供たちはこの船内の光景を見飽きていた。それに、ここにないものを求めるのは彼らの性だ。そう、新たな発見をすることを。

 老人は話を始めた。そばに集まった子供たちは床に寝そべり、犬が尻尾を振るように足をパタパタと動かした。

 子供たちは老人の話に大抵満足するが、老人は話のあとの質問攻めに困らされた。


「ねーねー、おじいちゃんが住んでいた星ってどんなところなのー?」


 特に、この質問に。老人は「知らないんだ」とは口にしたくなかった。代わりに出た言葉は「いつかわかるよ」


「ぼくたちはどうしてこの船に乗ってるのー? どこへいくのー?」


 これも「いつかわかるよ」お馴染みのやり取りだ。

 いつかわかる。いつかわかる。そう信じ、次の世代へとつなぐ。それを繰り返し、時にこの宇宙の暗闇と心に巣食う絶望の色を重ね合わせ、沈んだ顔をした。しかし、それでも彼らは前に進んだ。

 他にどうすることもできなかった。彼らクローンはそう作られたのだから。自殺という発想が彼らの頭に浮かばないこともなかったが、それを実行することはできなかった。

 何のために、誰の意志で。時々、糸で操られているような感覚がする。彼らはそんな時、こう思う。自分たちを縛るそれは呪いなのだろうか、と……。

 ただ唯一、彼らには心を燃やすような強い願望があった。それは『知る』ということ。その願望は世代を重ねても薄れることはなく、彼らは不変の日々を送り続けた。


 そしてある時、ついに大きな変化が訪れた。

 船内に警報が鳴り響き、ベッドに横になっていた者は身じろぎし、椅子に座っていた者は目を上に向けた。一同の反応は薄かった。

 この手の警報はたまにある。コンピューターが安全な航路を設定しているが、それでもまれに小惑星の類を見落とすことがある。だが、それもコンピューターが自動で回避するから問題はない。


『み、みんな、展望室に来てくれ!』


 しかし、この日は違った。船内スピーカーから聞こえてきたのはコンピューターによる機会音声ではなく、乗組員の慌ただしい声だった。疑問に思った全員が船内の前部である展望室へと向かった。


「しょ、正面に何かあるんだ」

 

 最初にそれを見つけ、そして船内放送をした乗組員は興奮した様子でそう言った。

 目を凝らせば確かにそれは目視できた。こちらがやや右に逸れると、向こうも同じだけ右に逸れる。どうやら意思があるようだ。


「おいおい、他惑星からのミサイルじゃないか?」

「あるいは宇宙船か」

「馬鹿な。知的生命体はこれまで一度も見かけたことはないぞ」

「いそうな星に接近したことがないだけで、いないと決まったわけではないだろう」

「では、その彼らの領域にいるというわけか」

「だが、近くに星などないぞ……」

「それに予告もなしに攻撃など……」

「それより、どうするんだ? このままではぶつかるぞ」

「大丈夫だ。コンピューターに任せておけばいい」

「そうだな」

「だが、コンピューターは警報を出したか? さっきの警報は彼だろう?」

「とりあえず、一度旋回して……」


 議論は自然と静まっていった。彼らが徐々に大きくなるそれを目にし、口を閉ざしたからだ。

 

「あれは、我々――」


 彼らが乗っていた宇宙船は正面からの衝突によるその衝撃で大破した。爆発により吹き飛んだ者、焼かれた者、そのまま宇宙空間に放り出され、瞬く間に凍り付いた者。しかし、その瞳には確かに映した。

 口を開け、驚きの表情を浮かべている自分の姿を。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 敷地の狭い店舗でも壁や柱を鏡張りにしておくとフロアが広く感じるように、 宇宙の果てが(とも限らないですが)鏡だったから宇宙船の乗組員達は気づかなかった、ってことですかね。 [気になる点]…
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