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三題噺もどき3

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくろくじゅうさん。

 


 頭上には、心地のいい青空が広がっている。


 雲一つない、青々とした空。

 青―というけど、どちらかというと水色だよなぁなんてことをぼんやりと思う。

 まぁ、色なんて人によって感じ方は違うものだし、初めに青と誰かが言って、たくさんの人が納得したから当たり前になったんだろうし。

 いちいち、空の色を気にしている人なんていないだろう。

「……」

 しっかしまぁ、暑い。

 晴れるのはありがたいことだが、こう暑くてはなぁ。

 これがまだ6月に入ったばかりの体感なのだから、来月再来月はどうなる事やら……。今でさえ、軽く炎にでもあぶられているんじゃないかという感覚に慣れそうなほどに暑いのに……こんな中で揚げ物作っている人はすごい。

「……」

 そこまで言うなら、家に引きこもりでもしておけばいいんだけど……それは昨日したので今日は外出すると言い聞かせたのだ。

 昨日は起き抜けから散々で、出るに出られぬ状況だったのもあって、一日何もせずに過ごした。雨だったのもあるけれど。まぁ、その雨降りが午前中だけだったのが幸いして、夜にはいろいろと回復できたのがよかった。

 今朝にはむくりと起きて、朝食を食べて、出かけることができた。

「……」

 今日は、何とはなしに歩いて、久しぶりに近場の神社に来ていた。

 休日ではあるが、まぁ、人はまばらで、ご老人が多いように見える。

 たまに家族連れや、若者がいたりするが、写真を撮ってそそくさと帰っていく。

「……」

 そういえば、ついさっきすれ違った子はブーツを履いていたが、暑くないんだろうか……。ショート丈のものではあったが、今日はやめた方がよかったのではないか……それでなくとも、この砂利道は歩きづらいだろうに。まぁ、カップルっぽかったからなぁ。

「……」

 そういうものとは無縁の生活をしてきてはや数年。忘れてしまっていたが、着飾っていたいモノなんだろう。せめて彼女が私みたいにならないことを祈っておこう。何かを捨てた辺りから、色々と落としてしまったからなぁ。

「……」

 そんなことを考えながら、参道を歩いていく。

 すれ違うご老人に会釈を返しながら。

 こういうのは礼儀云々じゃなくて、人柄なのか。自然とこちらも返してしまうし、なぜだか気分がよくなる。私ごときには想像もつかないような経験をして、それでも尚、ああして人柄がいいと誰もが見ても思える人はそうそういないように思える。

 ああいう風になりたいと、思わなくもないが、もうかなり手遅れな気がする。

「……?」

 参道を歩きすすめ、ようやく本殿が見えたあたりで、外れの方から、にわかに声が上がった。

 そこには、もう一つ小さな社があるのだけど、普段は見ないような人だかりができていた。

 とは言え、そんなに大勢いるわけでもなく、まるで二つの家族を合わせたような……。

「……」

 あぁ、なるほど。

 彼らの視線の先に答えはあった。

「……」

 黒の羽織に灰色の袴をぴしりと合わせ、少し緊張しながらも、幸せに溢れた表情の花婿。

 白無垢に身を包み、うっすらと紅を刺した唇をほころばせ、差し伸べられた手に手を合わせて、ゆっくりと降りてくる花嫁。

「……」

 喜びあふれるその景色は、周囲にも伝わり、自然と拍手がこぼれていた。

 少し照れ臭そうに笑う二人に、これから幸あれと、この場にいた誰もが思った事だろう。

 これから数ある苦難をのりこえ、共に在ることを。

「……」

 まだ少し拍手の鳴りやまないそこから、視線を外し、本殿へと向き直る。

 まだ見えたばかりのはずなのに、気圧されるナニカがそこにはあった。

 それでも、心地のいいこの場所は、いつ来ても私を癒してくれていた。

「……」

 歩を進めながら、もう一度はずれの方を見る。

 各々が写真を撮ったり会話をしたり、朗らかな雰囲気が見て取れる。

 きっと式が終わったばかりなのだろう、緊張がほどけ、ようやく実感がわいたのか、彼らの両親らしき人や、花婿が目頭を押さえていた。

「……」

 向き合った本殿に手を合わせ、祈る。

 これからの、彼らの未来に、どうか祝福を。





 お題:炎・喜び・ブーツ

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