汚染水問題
「処理水は宇宙に放出する。地上から宇宙に向けて、まっすぐにホースをつなげていくのだ」
集まった科学者たちを前に博士は持論を述べる。
「宇宙に到達したら、あとはポンプでどんどん流す」
「しかし博士、そんなに空高くまで水を持ち上げることが出来るポンプはあるのですか」
「ない」そんなものは作れるはずがない。
「だが、心配はない。そのためにブラジルに土地を購入した」
研究室の壁には博士が描いたと思われる図面が貼られている。
中央に地球が描かれており、真上と真下にまっすぐ宇宙まで延びるホースが描いてある。
博士は、上に延びるホースの根元を指差し、
「ここが日本だ」と示すと、ホースの図を上にたどりながら、
「ここから上に向かって処理水を宇宙まで排出するのは不可能だ。そんなパワーのあるポンプは無い」
そう言うと次に、下に延びるホースの根元、ブラジルあたりを指し、
「しかし、この図をよく見たまえ」ホースの図を下にたどりながら、
「下向きなら水は自然落下だ。エネルギーは必要ない」と断言した。
「博士、舟の定員は5人です」
博士が購入したブラジルの土地へ向かう舟は、これしか無いようだ。
日本から派遣された科学者と技術者は10人、このままでは半分を残していくしかない。
「誰がここに残りますか」せっかくここまで来て、置いて行かれてはたまらない。誰も残るとは言わない。あと一時間あまりで到着できるというのに。
皆が諦めかけたとき、博士がひらめいた。
「心配ない。跳躍力を使えば何とかなる」
科学者たちに向かって博士は「5人ずつに分かれなさい」と指示をした。
「5人が舟上に立っている時は、残りの5人はジャンプ。着地と同時に立っていた5人がジャンプすればよい。それをひたすら繰り返す。半分が空中にいれば、舟の上を常に5人に保つことができる」
だがもし、
「もしタイミングが狂うと、全員ピラニアの餌食だぞ」科学者の一人が言う。
「それは困る」別の科学者が言い、
「まずは、陸で練習しましょう」と若い科学者が言った。
夕日に染まる広大な建設予定地を見ながら若い科学者は尋ねた。
「博士の斬新なアイデアはどこから生まれるのですか」
博士は少し考え、
「子供の頃、定期購読していた本があってね。さて、今もあるのかもしれないが、
そこに毎回色んな研究テーマが出題されていたのだよ。
私はいつも夢中になって同級の友人と議論を戦わせていた」と誇らしげに答えた。
「その頃の経験が、今の博士を作ったと」
「そうではない。あの頃から私は何も変わってはいないのだ」
博士の生い立ちに興味を抱いた若い科学者は、
「例えばどんな研究テーマだったのですか」と聞いてみた。
「1メートルしか弾の飛ばない銃で、10メートル先の的を撃ったら当たりましたなぜでしょう」
「・・・わかりません。10メートルの高さから、真下の的に向かって撃ったとか」
「答えは、銃身が9メートルあったから。でした」