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ターン1ー3:結城一馬


「おはよぉ……」

「おはよう。あーあー。朝のラッシュに負けた奴がまた1人ここに……」

「まけてねーし。先陣切って駅から全速前進で脱出したしな!」


 ザラついた音が耳に残る特徴的な声でめそめそと、いきなりわざとらしい仕草で俺の幼なじみがおちょくってくる。入室した講義室内でこの声が聞けるのは彼女だけだ。

 彼女は『現世うつしよ はるか』だ。3歳のときからずっとここまで一緒に仲良くしている幼馴染みだ。


「ふふん。あたしはあんたとは違って。ラッシュ時の混雑を避けるようにしてるの」

「へいへい。俺なんか遥みたいにすげー朝早くに起きれるやつなんかじゃないんですよー」


 言葉を返さずふふんと、遥は得意げな表情と態度で示し返してくる。


『黒く短いボブカットの髪型がよく似合う色白の女子大生』


 周囲の同級生が高く評価する可愛い奴だ。


――常に一緒にいる俺が言うのもアレな気もするが。最近の彼女は……なんか……すごく可愛いくなったな……。


 最近は一層になって服装やメイクなんかも洗練されていっているし。


――彼氏でもできたか?


 なんて俺でも気づいて思う始末だ。


「さて、こほん」


 という事で朝の日課のひとつが始まろうとしている。


「どう? 今日のコーデは?」


 中学の頃か、最初は自分でする着せ替え人形遊びの延長線だろと思っていたのだが。


「まず、一言で結論を表すとすればだな……」


 今となっては話が違ってきている。


「いいな。夏色の景色に溶け込む美少女といったところだな」

「あんたのその言葉。なんか評論家が言ってそうな口調で胡散臭いんだよねー。まっ、あんたがそう言ってくれるんだし。頑張った甲斐があったという事で満足かしら」

「ならよかった」


 笑っ、幼顔の表情が愛らしく感じる。


「よーし、もっと頑張って色んな服を着こなしたいわ!」

「朝から頑張りすぎだ。俺、今日のラッシュで身も心も消耗しきってるんだぞ……、ふぁ……」


 思わず遥の前で大きなあくびを掻いてしまった。


「情けない情けない。あんたって本当に男って感じがしないのよね。体力なさすぎでしょ」

「喋り方が俺のお袋みたいに聞こえて耳が痛くなるっぅの……。うぜぇって」

「ったく、いうじゃないの。でも……それもちょっとありかも……」

「勝手に俺のお袋になるな」


 と雑談を交えつつ、話題は彼女の就活の話になり。


「今日はね。会社の人から一足はやいけどインターンの予定について話し合いをするって連絡があったからお昼でバイバイね。あんたも早く就職先みつけなさいよね。路頭に迷うわよー」


 彼女の服のセンスが業界人の目に留まったそうで。そのまま淡々と就職試験を受けているようだ。


――てか、俺。スラムマジシャンになるわけねぇし。


 場所を変えて座席に隣同士で座り授業の開始を待つ間に。


「俺も来年くらいにはやろうか」

「私の女友達はね。既にいろんな企業の内定をもらってホクホクしてるのよ。あんたもその一員になってほしいの。でないと、大学生最期の1年が死ぬほど忙しいだけで終わってしまうわ」

「俺とお前で立っているスタートラインが違ったんだよ」

「そう。でもあんたって自分の得意な分野に関しては廃人になるまでやり込んじゃうタイプなんだし。現にマジックマスターズのガチゲーマーでしょ? あたしはあんたみたいにはなれないし、正直に出来ないわね」


 遙も一応。俺の影響を受けて付き合いでやってくれている。

 彼女は俺みたいな最先端を追いかけるような事はせずに、自分の好きなカードを集めてデッキを組んで遊ぶというプレイスタイルでマジックマスターズのゲームを楽しんでいるようだ。


――俺はアマチュアを自負しているし。アレはその場の勢いでしたわけだしな。


「一応。ガチになって大会とかにも参加して挑戦したけどな。鳴かず飛ばずって感じでずるずると。んで、あまり乗り気にならなくなった今の自分がいるんだよ」

「モチベーションの問題よね。でも、ちゃんとあんたが今まで頑張っていた時の姿。私はちゃんとこの目で見ていたし気にしなくていいのよ。えらいえらいってね」


 確かに彼女の言うとおりだ。今は気持ちが冷めてそこまで登り詰める気にはなれないが。


「気分の問題で左右されるほど、マジシャンの腕は劣ってなんてないんだよ」

「ふふ、あんたのそういう所。私は好きだよ?」


 遥が俺に身を寄せて、女の子特有の可愛らしい仕草で寄り添う彼女の姿を見て目線をそらす。


「か、からかうなっての。ほら、周りの視線もあるから前向けって」

「ふーん」


 遙はくすっと愉悦に満ちた顔になり、指先で俺の頬をつついてくる。


「いっぱしの出会ったばかりのカップルじゃないんだしさ。周りも知ってるわよ」

「幼馴染みカップルとか言われてやりずれぇわ」


――弄られてる身にもなってくれよ。


「あー、そうやって私を泣かそうとしたいわけ? いいわよ? この場で号泣しちゃうよー」


 周りの同期からみれば仲の良い男女のカップルがじゃれていると思うだろう。


――違うんだよなぁ、実の所。


「わかったよ。降参降参。サレンダーっての。俺もまだ……」


 と、先の言葉を言いそうなるも止めておく。

 俺たちは小さいときからずっと側に居る仲の良い友達同士だ。とはいえ、彼女は俺達の関係をそれ以上にしたいと考えているようで。


「分かってるって。冗談よバカ。本気にしないで。あたしと一馬が周りにどう思われても。ずっと昔から一緒に居る。熱い友情で固く結ばれた幼馴染みだよ。それ以上の関係なれるなんて、そんなのお互いに分かってるでしょ?」


 そう言って遥が俺の頭を優しく撫でてくる。


――ありがとう、俺が答えるのに詰まって気を遣ってくれて。


「そう思うと幼馴染みから恋人になるってどうなんだろう」

「俺達の将来について思っていると」

『おはよう皆さん』

「って、ああ。もう授業だ」

「んもう。いい話きけそうだったのにー」


 遥がタイミングを逃してふてくされる。

 教壇では、登壇した教授が持参してきたノートパソコンを立ち上げており、背後のモニターに映そうと作業を始めている。

 そこから俺達を含む、この場に居る全員がシャキッと気持ちを入れ替えたようで、俺もそれに倣って授業に挑む。


――この単位を落とせば留年が確定するからな。真面目にやらないと。



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