表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/44

ターン1ー2:結城一馬 


 玄関を出て今日の1日が始まる。


「今日の空は……青い空に入道雲が天高くそびえ立っている」

 外の景色は違う。


――あの空模様のように、俺の視ている世界がこのままあり続けてほしいな。


 とはいえ。


「こんなの、日課って思えば簡単だよな! あ、ちょっとおっさん割り込んでくるなよっ!?」  


 目の前で横から割り込んできた小太りサラリーマンの背中が視界に入りゲンナリする。

 今日の嫌な一日の始まりがコレだ。


「むさ苦しいな……」


 思わずため息をつく。


――都心で車で通勤っていう訳にもいかないよな。


「免許とっておけば良かったよ……だるい……」


 小バエのごとく乗車口にワラワラと押し寄せている乗客に思わず無駄口を叩く。


――こいつらは遅刻から回避する為のRTAでもしているとでも思っておこう。


 とりあえず列車には乗ることはできたものの、ドアにべったりと張り付くスパイダーマンの姿勢でやっとだ。


「…………」


 電車に揺られながら今日の午後からの予定を考えて通学する。


『なあ、今日のマジックマスターズの新弾のボックス。あれ、ぶっちゃけどうよ?』

『あー、あれはだな……守護神官のマジシャンカードが環境入りするかもって聞いたかなー』

『ねぇ、コーターくん! 今日も学校が終わったらカードショップでマジシャンズバトルしようよ!』

『えーっ、今日もお前の強いデッキと戦うのかよー』

『もー、いいじゃないの!』


――朝からマジックマスターズの話題で会話する人の声がする……いいな……。


 俺もそっちに行って喋りたいが、物理的に制圧されており返せる手札がない。

 いわゆる対戦ありがとうございました状態……略して『対ありgg』である……。


「最初は高校生とか大学生を中心にして流行っていたカードゲームだったけれど。気づいたら社会人とか子供にも認知されてきたんだなぁ……。この前に参加していた公式大会のお祭りブースにおじいちゃんが居て。その人。見かけによらずめっぽう強くて。周りから賢者様とか賞賛されていたんだよなぁ……」


――将来もずっと。俺はこのカードゲームで遊び続けていられているだろうか。


 こういったカードゲームは後発の人口層の割合とかで遊べる寿命が変わってくるものだ。

 トレーディングカードゲーム『マジックマスターズ』は10年前に登場した異色のカードゲームで、プレイヤーは駒である『魔術師(マジシャン)』のイラストが描かれたカードを自分に見立てて操りつつ、選りすぐりの『魔術札』のカードで組み上げた自慢の『魔道書デッキ』と、そこから捲り取った手札の魔術札を武器に用いて不思議な力で発現する『魔術』を、分身体であるマジシャンと協力して発動し、対戦相手である同じ魔術師と対面して、様々な場所で戦いを繰り広げる事が出来る対戦カードゲームである。


――手元の魔術札と魔道書を用いて相手マジシャンとマジシャンズバトルを繰り広げる。まるで異世界のバトルシチュエーションをそのまま再現できるから、みんなやりたくなる訳だよなぁ。


 そう考える自分もそのひとりな訳で。


――行き先の道中でコンビニに寄り道して預金を多めに下ろしておくか。新作のボックスを秋葉原のカドショで調達して……家に帰ってパック開封するだろ……んで、デッキを仮組みして。CSに向けて練習して。


 暇さえあれば常にカードゲームの事ばかりを考えたくなる。


「いや、違う」


 今日はあいつと会う約束がある。

 しかし、それでも俺の日常には常に遊びの事で頭がいっぱいだ。

 特にカードゲームについてはよく頭を使う。脳内でシミュレーションを繰り返して、とにかく好きな事で考える事が好きだ。

 今日は新作の発売日だ。その中で収録される欲しいカードが複数あって、早めに中古のシングル販売のカードでもいいから押さえておきたい。特にガチ勢の人たちが狙うであろう強力な新作のカードは使用制限枚数である3枚までは手元に置いておきたい。


――複数のデッキを作って遊びたいんだよな。


 まあ、これもある意味で。ガチ勢の人たちに憧れて真似をしているだけに過ぎない。

 たった1枚のカードでプレイ環境が目まぐるしく変わる。その流れについて行けなくなると置いて行かれてしまう。


――それだけは嫌だな。楽しくないし。カードゲーマーが共通で思うリアルな悩み話だよな……。


「絶対にあまねこさんとか。マダンガスさんは、朝一で店に並んでそうだよなぁ」


 知り合いのマジシャンが先陣を切って店に並んでいるはずだ。


――仕方が無い! ここは彼女に頼み込んでカドショに行くしかないか!


 個人の求む趣味の極め方って違うと思う。

 俺みたいに競技的に夢を抱いている人や、マジックマスターズを好きになって楽しんでいる人や、カード自体に金銭的な価値を見いだして収集活動をする人間もいる。

 俺の好きなマジックマスターズにはいろんな楽しみ方をしている人で一杯だ。 

 とはいえ……


『まもなく新宿です。お忘れ物はございませんか? お降りの際は足下にご注意ください』


 知らない人に自分の好きな趣味の話をしても伝わらないのが社会の寂しい所だ。

 大学の最寄り駅である新宿駅に列車が到着した。

 停車後。俺は列車から降りて改札に向かう。

 駅の改札を出れば人混みから解放されるので、駅近くにあるコンビニのATMで預金を下ろす。

 用事を済ませ、昼飯のカップ麺と飲料水がぶら下がるビニール袋を手に店を後にして大学の方へと向かった。


 



もしこの作品を『面白い』と思って頂けたり、『続きが気になる』と思って頂けたならぜひ広告下にある『☆☆☆☆☆』の所を押して頂きますようお願い申し上げます。今後の作品制作の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ