8.大人が子供を助けるのは当たり前
城の中を走る。
あんな聖剣っぽい何かがあったのだ、俺でも使えるような……各落ちの格落ちの武器ぐらいならあるんじゃないだろうか? 淡い希望を抱きながら、俺は宝物庫らしき扉の前に立った。壁の隣にはまたもやよく分からない文字……ああ、まただ。
「ナマムギナマゴメナマタマゴッ!」
先程より早く唱える。今度は扉が粉々に砕け散る……なんだ? 早く読めば読むほど、何かが変わるのか? いやそんなことはどうでもいい……とにかく中から武器を。──ない、何も。剣の一本すら、それどころか……だだっ広いその部屋の中には、古ぼけた本の一冊しかなかった。
「そ、そんな……」
俺はその場に崩れ落ちた。これでは、アリスを助けられない。
もう無理だ、逃げよう。何の取り柄もない俺が……あんな兵士共を相手に勝てるわけがない。そうだ、そもそもアリスは俺なんかいなくても自力でどうにかしてくれる。あんなに強くて、身体がデカくて、そもそも狼で。
「……ああ」
最低だ、俺。
違う、違うんだ。アリスは確かに見た目は狼だが、心はまだ幼い女の子なんだ。──そんな女の子が、命を張ってまで俺を助けてくれた。ほとんど初対面の、不審者同然の俺を。
「やるっきゃ、ねぇよな……!」
子供に助けられてばっかりでは、大人としての面子など無いも同然。いいや、既に消え失せている。
なら、今から勝ち取る。
どんな汚い手を使ってでも、泥水を啜ってでも。
俺は古ぼけた本を手に取り、来た道を戻るように走った。