7.クソッタレな台詞を残すんじゃねぇ
「まさか、出来損ないのアリスを利用して脱走するとは……流石は勇者! 恐れ入ったわ」
「黙れ……このクソジジイッ!!!!」
怒りが、止められない。例えこの状況が圧倒的に自分にとって不利で、あまり相手を刺激しないほうがいいという事実があったとしても、俺は我慢ができなかった。
「はっ、捨てられたのがそんなに悔しいのか? 馬鹿め、あの剣を抜けないような貧弱なお前など、勇者どころか豚の餌にもしてやらん!」
「豚の餌はお前だこの野郎……なんで自分の娘を、アリスをあんな場所に閉じ込めた! そもそもなんで、この子のお母さんを殺す必要があったんだ!」
「コトバ様……!」
俺は叫んだ、怒った……今すぐにでもあのジジイを殴り飛ばしたかった。身体は大きくても、心は幼いこの子を、どうしてあんなところに閉じ込められる? どうして、母親を殺す必要があった?
「答えろ!」
「邪魔だったのだよ、あの女は」
「……は?」
意味が分からなかった。邪魔? 自分の嫁が、なんで?
バンドンはそんな俺の困惑した表情を楽しむように、粘着質な笑みを浮かべていた。
「まず品がない。ずっと人間の姿でいればいいものを、余の許可を取らずに勝手に獣の姿になり……山で狩りをしていたのだ。お陰で毎日獣臭くてかなわなかった」
「……で?」
「あんな女が城の中をうろついていては、余の品位を損なう。故に殺した……寧ろ余には感謝してほしいぐらいだな。そこの醜い化け物を、幼子だからという理由で殺さなかった……余の温情を」
「……ははっ」
駄目だ。
こいつは、生かしておいちゃいけない。──なのに、俺は何もできない……!
「……コトバ様」
アリスが、小声で囁く。──ぞわり。嫌な予感が、俺の背筋を伝った。
「私が暴れて隙を作ります。その間に、お逃げください」
「……待て、お前はどうするんだ?」
「冒険がしたいのでしょう? だったら、こんなところで捕まってはいけません。だから……」
やめろ、待て。そう言い終わる前に、アリスは縄に齧りつき……その爪で引き裂いた。
「アリ──!」
落ちる前に、蹴り飛ばされる。兵士たちの包囲網から遠く離れた方へ……俺はふっとばされ、地面を転がった。直後、先程自分がいたはずの場所……今もアリスがいる場所から、悲鳴と物騒な打突音が聞こえてくる。
──私の分まで、楽しんでください。
「……待ってろ、絶対に助ける!」
逃げるわけじゃない、逃げるわけじゃない!
俺は背を向けることが悔しくて悔しくて、そんなことよりもアリスを助けたくて……とにかく、なんとかするための方法を模索しながら走った。