12.俺の魔法が誰かを助けた
正直、呪文を唱えた時はどうなるか分からなかった。それっぽいものを唱えて、それなりに傷が治ればいいと思っていた。──想像以上だ。アリスの体の傷は、まるで何事もなかったかのように治っていたのである。
「……痛く、ない?」
俺はその声を聞いて、ひどく安堵した。良かった、本当に良かった……俺が助けたんだ。俺が、俺の特技が……誰かの命を救った。その事実が嬉しくてしょうがなくて、同時に自分が今「生きている」という実感を与えてくれた。
「この魔法は、コトバ様が……?」
「ああ、そうだ。俺が……」
言いかけて、俺は思い出す。
つい数分前まで、俺はこの少女を置いて逃げようと……そんなことを、ほんの少しでも思ってしまっていた事実に。
「……ごめん」
「えっ」
「俺を助けてくれたのに、俺はお前を置いて逃げようとした……本当に、ごめん」
何故ほんの少しでも、自分がいいことをしたと、いい人間になったと勘違いしていたのだろうか? 俺は最低な選択をしようとして、たまたまチャンスがあったから綺麗な方に立っているだけで、そんなに大した人間なんかではない。──寧ろ逆だ。俺のこの行動は、本来当たり前にあるべきなのだから。
「……ありがとう、ございます」
それでも、アリスは笑ってくれた。
「戻ってきてくれて、助けようって……覚悟を決めてくれて」
「──」
申し訳ない気持ちと、感謝の意で胸がいっぱいになった。
とにかくこの城を出よう。俺とアリスは、城の外を目指した。