10.ただの一般成人男性の俺、誰も使えない魔法を習得する
「赤魔鬼神青魔鬼神黄魔鬼神ッ!」
「!?」
その瞬間、地面から三色の魔法陣が現れる。そこから出てきたのは三体の鬼。それらは即座に、俺を殺そうとしていた兵士たちへと襲いかかっていく。振るわれた剣が叩き折れ、兵士五人を腕の一振りで吹き飛ばす。
「高速詠唱……だと!? 馬鹿な、貴様……どこで神の寵愛を賜った!?」
「ちげぇよ」
寵愛? 神? そんなクソふざけた存在から貰ったような、やすい借り物の力なんかじゃねぇ。──これは、こんな俺が……唯一他人様に誇れる「滑舌の良さ」にすぎない。
青ざめた顔をしているクソジジイに、俺は吐き捨てる。
「俺は、ただの一般成人男性だ」
「あ、ありえない……神の加護も無しに、あの呪文を噛まずに、しかもあの速度で難なく読み上げただと……!?」
俺と、兵士共を全員始末した三体の鬼。それを見て、目の前のクソ野郎は腰を抜かしていた。震え、怯え、その場にうずくまる。
「……ごめんなしゃい……!」
「……消えろ」
そこには威厳も何もかも、粗相とともに漏れ出ていた。俺はもう殴る価値も無いと思い、自然とクソジジイを逃した。腰が抜けているのか、赤ん坊のように地べたを這いずり回りながら逃げていく。無様で、笑えるはずなのに……俺はなんだか気分が悪かった。まるで自分があいつを虐めたような、そんな……良心から出てくる罪悪感を感じているのかもしれない。
──いや、そんなことよりももっと大事なことがある。
俺は気を失った兵士たちを踏み越えながら、血溜まりの中に沈むアリスに駆け寄った。
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