表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぽつんと家康  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/80

冬至(とうじ)

 黒田くろだ長政ながまさうまで、井伊いい直政なおまさの元に到着とうちゃくした。


 すると、井伊いい直政なおまさが見せてくる。


「こういうふみとどいていたのだが」


 希代きたい茶人ちゃじん大名だいみょう古田ふるた織部おりべからのふみだ。こんなものがとどいていたとは、黒田くろだ長政ながまさらなかった。


 すぐさま内容ないよう確認かくにんする。


 そのふみによると、福島ふくしま正則まさのりが自分の部下ぶかたちをひきいて、しろ出撃しゅつげきするつもりらしい。めるのは無理むりそうなので、何かあった時のために、古田ふるた織部おりべ自身じしん同行どうこうすることにした、そんな内容ないようが書いてある。かなりいそいで書いたらしく、の多くがおどっていた。


 黒田くろだ長政ながまさ事情じじょうさっする。


 殿との徳川とくがわ家康いえやす)が西軍てきつかまったけん古田ふるた織部おりべっているが、福島ふくしま正則まさのりらない。


 福島ふくしま正則まさのりから、「味方みかた加勢かせいするため」と大義たいぎ名分めいぶん主張しゅちょうされては、その出撃しゅつげきめることができなかったようだ。


 このふみ井伊いい直政なおまさの元にとどいたのは、黒田くろだ長政ながまさ騎馬きばたいとともに潜伏せんぷくしたあとだった。


 井伊いい直政なおまさまよった。「福島ふくしま正則まさのり援軍えんぐん接近せっきんちゅう」だと、黒田くろだ長政ながまさらせるべきだろうか。


 しかし、黒田くろだ長政ながまさ部隊ぶたいはすでに潜伏せんぷくちゅうだ。味方みかた足軽あしがるたちにも、そのことは秘密ひみつにしている。


 しかも、そこでせきはらの方から、殿との徳川とくがわ家康いえやす)がげてきたのだ。


 そのあとすぐに、「本多ほんだ忠勝ただかつ現在げんざい西軍てき騎馬きばたい追撃ついげきされている」という情報じょうほうはいる。


 てきが近いとなると、潜伏せんぷくちゅう部隊ぶたいに使者をおくることはけた方がいい。使者をおくったばかりに、てきかんづかれることもありる。


 それで、古田ふるた織部おりべからのふみについては、事後じご報告ほうこくにしようとめた。黒田くろだ長政ながまさなら、その援軍えんぐん本物ほんものかどうかを最初はうたがうかもしれないが、上手うま対応たいおうしてくれるだろう。


「すまんが、そういうわけだ」


判断はんだんだったと思います」


 黒田くろだ長政ながまさはうなずいた。おかげで、宇喜多うきた秀家ひでいえぐん不意ふいくことができたのだ。


 このあときゅうに、井伊いい直政なおまさが声をひそめる。


 他の味方みかたにはかれたくない話だ。


 本多ほんだ忠勝ただかつの少し前に、服部はっとり半蔵はんぞう帰還きかんした。


 だが、殿との本多ほんだ忠勝ただかつとはちがい、服部はっとり半蔵はんぞう瀕死ひんし状態じょうたいにある。


 また、その部下ぶか忍者にんじゃたちが少なくとも三十人以上、西軍てきたれたらしい。


 黒田くろだ長政ながまさは顔をくもらせる。味方みかたにある程度ていど被害ひがいが出ることは、もともと覚悟かくごしていたが・・・・・・。


 とはいえ、すでにきてしまったことは、仕方しかたがない。そういった犠牲ぎせいがあったからこそ、殿とのせきはらから脱出だっしゅつできた、と考えよう。


 服部はっとり半蔵はんぞうや、その配下はいか忍者にんじゃ軍団ぐんだんを相手にしたのだから、西軍てき無傷むきずだとは思えない。それなりに被害ひがいが出ているはず。


 また、自分たちは先ほど、宇喜多うきた秀家ひでいえぐん騎馬きばたいかえちにしている。


 つまり、西軍あっち被害ひがいけっして小さくないのだ。その立てなおしが急務きゅうむになるだろう。


(だったら、そこにつけむか・・・・・・)


 ある考えをあたまの中でめぐらせながら、黒田くろだ長政ながまさ井伊いい直政なおまさたずねる。


福島ふくしま正則まさのり殿どのへいは、どのくらいのかず出撃しゅつげきしてきたのですか?」


「ほぼ全軍ぜんぐんだ」


 となると、およそ六千。


「また、しろにいる他の者たちも、すでに出撃しゅつげき準備じゅんびはじめているらしい」


 そう言って井伊いい直政なおまさが、意味ありげに笑いかけてくる。


 それを見て、黒田くろだ長政ながまさ微笑ほほえんだ。どうやら、おなじことを考えているようだ。やはり、この方とは気がう。


 今回の一連いちれん騒動そうどうに、西軍てきは少なからず混乱こんらんしているにちがいない。


 だが、時間がてばつほど、混乱こんらんおさまってしまう。


 だったら、そうなる前に東軍こちらは動くべきだ。


「このまませきはらかうぞ」


 井伊いい直政なおまさ言葉ことばに、黒田くろだ長政ながまさもうなずく。


「それが最善さいぜんですね」


 まずは、殿との許可きょかをいただこう。


 そのあとで、後方こうほうしろにいる味方みかたにも、出撃しゅつげき要請ようせいするのだ。


 今から動くとなると、少しよるにかかると思うが、せきはら東軍みかた集結しゅうけつさせる。混乱こんらんから立ちなおるための時間を、西軍てきにはあたえない。


 黒田くろだ長政ながまさ井伊いい直政なおまさはこれまで、「開戦かいせん明後日あさっての早朝にしたい」と考えていた。


 しかし、状況じょうきょうが変わった。


 さいわいなことに、明日の天気も明後日あさっての天気もおなじだ。早朝は「小雨こさめ」か「きり」。明日にまえだおしすることは可能かのうだ。


 鉄砲てっぽうたい弱体じゃくたいしているあいだに、井伊いい直政なおまさぐん騎馬きばたいで、しま左近さこんじん突撃とつげきする。


 そういうわけで、井伊いい直政なおまさ黒田くろだ長政ながまさはすぐさま、東軍じぶんたち総大将そうだいしょうである徳川とくがわ家康いえやすに意見を具申ぐしんしてみた。


 すると、全面的ぜんめんてき賛同さんどうしてくれた。


 もともと東軍こちらには、補給ほきゅうの面で不安がある。「短期決戦」にみたいのは、家康いえやすおなじだ。兵糧ひょうろうさびしくなれば、味方みかた全力ぜんりょくで戦えない。


 この時、家康いえやすには気がかりなことがあった。


 自分の息子むすこ秀忠ひでただ中山道なかせんどうすすみ、せきはらかっているはず。


 しかし、合流ごうりゅうするにはまだ時間がかかるだろう。


 それも想定内そうていないだ。


 じつは、秀忠むすこには密命みつめいあたえている。


 ――真田さなだ昌幸まさゆき真田さなだ幸村ゆきむら、あの親子おやこ信州ながのくぎけにしろ。


 ちち真田さなだ昌幸まさゆきは、信州ながの上田うえだじょうにいるらしい。


 問題もんだいなのは息子むすこ真田さなだ幸村ゆきむらだ。その所在しょざいいま確認かくにんできていない。


 上田うえだじょうにいるという情報じょうほうもあるが、おそらく影武者かげむしゃだろう。


 家康いえやすとく警戒けいかいしているのは、真田さなだ幸村ゆきむらと、その配下はいか騎馬きばたいだ。あれがどう動くかで、東軍こっち窮地きゅうちに立たされるかもしれない。


 もしも中山道なかせんどう東進とうしんして、江戸とうきょう奇襲きしゅうするとか、江戸とうきょう周辺しゅうへん散発さんぱつてきさわぎをこすとか、そんなことをされては非常ひじょうこまる。


 様子見ようすみをしている大名だいみょうたちが、「東軍とうぐん不利ふり」だと判断はんだんして、西軍あっちにつくかもしれない。


 とく伊達だて政宗まさむねだ。あの男が東軍こちらうらり、上杉うえすぎ景勝かげかつと手をめば、最悪さいあくなことになる。


 それこそ、江戸とうきょう陥落かんらく危機きき直面ちょくめんするのだ。


 また、真田さなだ幸村ゆきむらとその騎馬きばたい信州ながのから南進なんしんして、東海道とうかいどうに出てもまずい。東軍こっち補給ほきゅう現在げんざい、その大部分だいぶぶん東海道とうかいどうたよっている。


 もしも、江戸とうきょう方面ほうめんからの補給ほきゅう部隊ぶたいが、東海道とうかいどう各地あちこち襲撃しゅうげきされるようなことがあれば、兵糧ひょうろう輸送ゆそう計画けいかく破綻はたんする。


 真田さなだ幸村ゆきむら配下はいかにいる騎馬きばたいは、最大でも一千いっせんだとか。そのようにいているが、そんなかずでも戦況せんきょうを大きく変えてくるだろう。


 そういう男だ。あの真田さなだ幸村ゆきむらというやつは。強い上にあたまく、統率とうそつりょくもある。


 だから、いのるしかない。たのむぞ、秀忠むすこ。何としても真田さなだ幸村ゆきむらの動きをふうじてくれ。あいつを信州ながのから外に、絶対ぜったいに出すな。


 それさえ完遂かんすいしてくれれば、こちらと合流ごうりゅうできなくてもかまわない。


 そこまで考えてから、家康いえやす正面しょうめんを見る。


 いつのにか、たのもしい顔ぶれが集合していた。


 本多ほんだ忠勝ただかつ井伊いい直政なおまさ福島ふくしま正則まさのり黒田くろだ長政ながまさ古田ふるた織部おりべ


 彼らを前に、東軍の総大将そうだいしょうとして徳川とくがわ家康いえやすは力強く宣言せんげんする。


「いざせきはらへ!」


 こうして東軍が前進ぜんしん開始かいしした。その日の内にせきはら布陣ふじんする。


 これが、九月十四日の出来事できごとだ。さまざまなことがこったものの、それらはあくまでも前哨戦ぜんしょうせんにすぎない。


 この翌日よくじつに、天下てんか合戦かっせんはじまるのだ。『せきはらの戦い』である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ