表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぽつんと家康  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/80

霜降(そうこう)

 立花たちばな宗茂むねしげ島津しまづぐん陣地じんち出立しゅったつしているころせきはら南西なんせいにある松尾まつおやまでは、一人の男がとこせていた。


 小早川こばやかわ秀秋ひであきである。影武者かげむしゃではなく、本物ほんものの方だ。


 このことをっているのは、小早川こばやかわぐんにあっても一部いちぶの者のみ。そんな者たちが全員、この場にあつまっていた。


 布団ふとんよこたわる優男やさおとこ。体の正面しょうめんにできたきず深刻しんこくだ。


 奇襲きしゅうしてきた相手は、服部はっとり半蔵はんぞう配下はいか忍者にんじゃ軍団ぐんだんだと思われる。


 現場げんば状況じょうきょうから考えて、ほとんどのてきったようだが、それではまったくわない。


おれはもう、ながくはないようだ」


 小早川こばやかわ秀秋ひであき言葉ことばは、はっきりしている。だが、その声はいつもよりも小さかった。


「だから、あとをまかせたい」


 優男やさおとこ視線しせんが、すぐそばの人物じんぶついた。


 他の者たちの視線しせんつづく。


 視線しせんの先にいる人物じんぶつ狼狽ろうばいしていた。小早川こばやかわ秀秋ひであき影武者かげむしゃだ。この視線しせんが意味するものは何なのか、説明せつめいされなくてもわかっている。


 ――これから先は、お前が本物ほんものだ。小早川こばやかわ秀秋ひであきになれ。


 こう不幸ふこうか、もともとおもてに出ていたのは影武者かげむしゃの方だ。他の大名だいみょうたちと顔をわせても、へんには思われないだろう。今までとおなじだ。


 小早川こばやかわ秀秋ひであき秘密ひみつっている「太閤たいこう殿下でんか豊臣とよとみ秀吉ひでよし)」は、すでにくなっている。


 もう一人、立花たちばな宗茂むねしげ秘密ひみつっているが、その口のかたさは信用しんようしていい。この秘密ひみつについては、だれかに話したりはしないだろう。


 なので、秘密ひみつは外にはれない。今までとおなじだ。そう、今までと・・・・・・。


むずかしく考えるな。そして、一人で背負せおおうと思うな」


 影武者かげむしゃに言う小早川こばやかわ秀秋ひであき


 布団ふとんの上から視線しせん周囲しゅういひとめぐりさせると、


みながいる。わからないことはけばいい」


 そのあと小早川こばやかわ秀秋ひであきんだ。


 部下ぶかたちは動揺どうようする。この方はもうながくはないだろう。毅然きぜんっているが、そこにあるいのちほのおは小さくなってきている。


 せきが落ち着いたところで、


れいの話を」


 視線しせん天井てんじょうけたまま、小早川こばやかわ秀秋ひであきはつぶやく。腹心ふくしんの一人にけた言葉ことばだ。


 今は戦国せんごく。もしもの時にそなえて、事前じぜんめていたことがある。


みなつたえろ」


 そのひたいにはあぶらあせがにじんでいた。


御意ぎょいにございます」


 もっと高齢こうれい腹心ふくしんみなかたり出す。


 今後の小早川こばやかわのことだ。基本きほん方針ほうしんとして、家門いえ存続そんぞく第一だいいちに考えるべし。


 さしあたって、近日きんじつちゅうはじまるであろう天下てんかの戦い、これをどうるか。


「まずは動くな」


 小早川こばやかわ秀秋ひであき布団ふとんの上から命令めいれいする。


「それでてる」


 断言だんげんした。


 先ほどの腹心ふくしん補足ほそくする。


 ここせきはらでの布陣ふじんにおいて、小早川こばやかわ秀秋ひであきは何の考えもなく、南西なんせい松尾まつおやまえらんだのではない。


 景観みはらし重視じゅうしした。この場所からなら、西軍と東軍との戦いでどちらが優勢ゆうせいなのか、それをきわめることができる。


 小早川こばやかわ秀秋ひであきぐんは西軍第二の大兵力だいへいりょくだ。へいかずは「一万五千」。


 この大兵力だいへいりょくで、東軍だろうが西軍だろうが、その側面そくめんをつくことが可能かのうだ。戦いの行方ゆくえめる一撃いちげきになるだろう。


 つまり、この戦いにおいて、小早川こばやかわは他の多くの大名だいみょうとはちがい、勝利しょうり確約かくやくされているようなものだ。自分たちが味方みかたした方がかならつ。


 そんな絶好ぜっこう位置いち布陣ふじんしているのだから、あせる必要はない。ただつだけでいい。


 そして、戦況せんきょうきわめてから動く。それでてるのだ。優勢ゆうせいな方に味方みかたすれば、自軍じぐん被害ひがいおさえることができる。


小早川こばやかわのことをたのんだぞ」


 このあと、影武者かげむしゃに対して一つ助言じょげんをする。


気楽きらくにな」


 これが小早川こばやかわ秀秋ひであき最期さいご言葉ことばになった。辞世じせいはなし。布団ふとんの上で、おだやかな表情をしていた。


 小早川こばやかわ有能ゆうのう主君しゅくんうしなったのである。


 布団ふとん周囲しゅうい部下ぶかたちはいた。小早川こばやかわ秀秋ひであき影武者かげむしゃ例外れいがいではなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ