表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぽつんと家康  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/80

夢浮橋(ゆめのうきはし)

 立花たちばな宗茂むねしげ小早川こばやかわ秀秋ひであきわかれて、単独たんどく行動こうどうはじめた時、他の西軍せいぐん武将ぶしょうたちはとおくの空に目をけていた。


 せきはらきたひがしで、狼煙のろしがったのだ。あれはどう考えても、東軍てき仕業しわざ


 とはいえ、まだ敵兵てきへい姿すがたが見えたわけではない。


 なので、西軍せいぐん武将ぶしょうの多くが様子見ようすみ選択せんたくする。徳川とくがわ家康いえやすらしき男があらわれた時とちがって、だれ自軍じぐんへい確認かくにんかわせようとはしなかった。


 すると今度こんどは、せきはらの「西にし」でも狼煙のろしがる。しかも、複数ふくすうの地点からだ。


 ――自分たちの背後はいご東軍てきがいる?


 西軍せいぐん武将ぶしょうたちは警戒けいかいを強めた。


 しかし、狼煙のろしげるだけなら、多くのへいを必要とはしない。東軍てきには服部はっとり半蔵はんぞう忍者にんじゃ軍団ぐんだんがいるのだ。あのくらいの工作こうさくなら、忍者にんじゃ数人すうにんいれば可能かのうだろう。


 だが、ここで気になるのが、先ほどの「徳川とくがわ家康いえやすらしき男」だ。


 あれがせきはら登場とうじょうした時、西軍全体の目が一点にきつけられた。


 ――そのすきに、背後にしまわまれたのかも。


 ありない話ではなかった。


 西軍せいぐん武将ぶしょうたちは不安になってくる。自分たちの背後にしにいるのは、「数人すうにん忍者にんじゃ」ではなく、本多ほんだ忠勝ただかつ井伊いい直政なおまさひきいる「精鋭せいえい部隊ぶたい」の可能性かのうせいも・・・・・・。


 そんな味方みかた動揺どうように気づいて、一人の西軍せいぐん武将ぶしょうが動いた。


 大谷おおたに吉継よしつぐである。白い覆面ふくめんをした人物じんぶつだ。


 自軍じぐん兵力へいりょくは千五百で、島津しまづぐんよりやや少ない程度ていど小早川こばやかわぐんの十分の一だ。


 大谷おおたに吉継よしつぐはまず、五百のへいめいじる。


西にし狼煙のろしがっている場所、そのすべてに今すぐ急行きゅうこうせよ」


 と同時に、百人の使者もはなつ。大谷おおたにぐんへいたちが西にし狼煙のろし、その現場げんば確認かくにんかったことを、他の西軍せいぐん武将ぶしょうたちにつたえるのだ。


 かく陣地じんちへの移動いどうちゅうにもさけばせれば、末端まったんへいたちにも情報じょうほうばやつたわる。そのための百人だ。声は大きい方がいい。


 西にし調査ちょうさに五百、他の西軍せいぐん武将ぶしょうたちへの使者に百。自陣じじんまもりはゆるくなったが、こうすることで西軍みかた動揺どうようおさえにかかる。


(だが、これでわりとは思えぬ)


 東軍てきには服部はっとり半蔵はんぞう黒田くろだ長政ながまさがいるのだ。


(まだ何か仕掛しかけてくるはず)


 この陽動ようどうしんねらいは何なのか。


 大谷おおたに吉継よしつぐは少し考えてから、追加ついか指示しじを出す。


 目のい者たちに、せきはらの「ひがしがわ」を見張みはらせた。東軍てきせきはら侵入しんにゅうしてくるとしたら、その方角ほうがくが一番ありる。


 さらに他の部下ぶかたちに、せきはらの「みなみがわ」も警戒けいかいするようつたえた。


 狼煙のろしがったのは、きたひがし西にし順番じゅんばんだった。


 となると、次は「みなみ」だろう。


(そして、重要なのはそのあとだ)


 もしも東軍てきが、せきはらの「ひがし」から侵入しんにゅうしてくるつもりなら、最後は他の方角ほうがく――きたか、みなみか、西にしか――に西軍こちらの目をけさせたいはず。


 西にしにはすでに、大谷おおたにぐんへいかわせている。ある程度ていどまでの不測ふそく事態じたいには、それで対処たいしょできるだろう。


 あとは、きたみなみ


 その二つも大谷おおたにぐん対処たいしょする、というのはさすがに無理むりだ。


 西軍全体の布陣ふじん状況じょうきょうから考えて、きたについてはしま左近さこんに、みなみについては小早川こばやかわ秀秋ひであき期待きたいすることになるだろう。


 しま左近さこんには西軍せいぐん屈指くっし知恵ちえがあり、小早川こばやかわ秀秋ひであきには西軍せいぐん屈指くっし兵数へいすうがある。


 あの二人がうまく動いてくれれば、他の西軍せいぐん武将ぶしょうたちは「ひがし」だけに集中することができる。かなり戦いやすくなるはずだ。


 しばらくして、部下ぶかの一人が報告ほうこくしてくる。


せきはらみなみがわ狼煙のろしがりました」


 やはりか。そちらの空に大谷おおたに吉継よしつぐも目をける。たしかに狼煙のろしがっていた。


 さらにべつ報告ほうこくとどく。


せきはら南西なんせいでも狼煙のろしがりました。松尾まつおやまあたりです」


 松尾まつおやま? それは予想していなかった。


 あそこには小早川こばやかわ秀秋ひであきじんがあるが・・・・・・。


 大谷おおたに吉継よしつぐは少しのあいだ無言むごん南西なんせいの空をじっと見てから、


「あれは、狼煙のろしだけではないな」


 これまでの狼煙ものちがって、あの狼煙のろしには他のけむりざっている。それに、とりれがげていくかずも、はっきりと多い。


 この時、小早川こばやかわ秀秋ひであきのいる松尾まつおやまでは、火の手ががっていた。


 服部はっとり半蔵はんぞうひきいる忍者にんじゃ軍団ぐんだん仕業しわざだ。小早川こばやかわ秀秋ひであきじん奇襲きしゅうしたのである。


 今回こたびの作戦にくわわっている忍者にんじゃかずは、およそ五〇。


 一方で、小早川こばやかわ秀秋ひであきぐんへいは一万五千だ。


 これほどのがあっては、奇襲きしゅう勝負しょうぶに出るしかない。服部はっとり半蔵はんぞうみずからも、この死線しせんとうじている。


 せきはら南西なんせいにある松尾まつおやまが、一気にあわただしくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ