真木柱(まきばしら)
服部半蔵と本多忠勝は大勢の騎馬隊を引き連れて、関ヶ原に向かっていた。殿の安否が心配だ。
といっても、いくらか速度を落としている。
島左近の策によって、服部半蔵配下の忍者部隊が痛手を受けた。
関ヶ原は現在、西軍の勢力圏になっている。何も考えずに突進するのは、非常に危険だ。
それで速度を落とし、周囲への警戒を強めている。
馬を走らせながら、服部半蔵は考えた。
殿の居場所は判明している。島津軍の陣地にいるらしい。そこに潜入中の部下が知らせてきた。
しかし、その部下との連絡が現在途絶えている。
こういう場合、敵に捕まったと考えるのが普通だ。拷問でもされて、情報を吐かされているに違いない。
そうなった時のために、偽情報を前もって教えてある。それにつられて敵がのこのこ出てくるようなら、用意していた罠で全滅させるまで。
捕まった部下はおそらく、拷問のあとに殺されるだろう。で、その死体は「見せしめ」として、どこか目立つ場所にでも吊るされるはずだ。
したがって、今さらこちらで「口封じ」を考える必要はない。
(さて、このあと島津義弘はどうするか?)
服部半蔵がいくつかの可能性を考えていると、前方から忍者が五人、こちらに向かってきた。自分の部下たちで、全員が馬に乗っている。
その中の一人を見るなり、服部半蔵は顔を険しくした。
レンゲがいる。島津軍に潜入させていた女忍者だ。
ここまで連絡が途絶えていた上に、今は許可なく持ち場を離れている。
重要な何かがあった。そう考えるしかない状況だ。まさか殿の身に何か・・・・・・。
こちらに向かってくる部下たちには、いくつも奇妙な点があった。
中央の馬に乗っているのは、あの中の序列一位の者ではなく、レンゲだ。彼女の前後左右を、他の部下たちが囲んでいる。例外的な隊列。
しかも、レンゲは上半身を縄で縛られていた。
それに髪型も変わっている。たしかポニーテールだったはずだが、今はその後ろ髪をばっさり切り落としていた。
先頭にいる部下が声を張り上げて報告してくる。
「申しわけありません! レンゲが島津軍に見つかりました!」
服部半蔵と本多忠勝の前で、四人の部下たちとレンゲが馬を止める。
「殿は無事なのか!」
服部半蔵は尋ねた。




