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本部長と私  作者: 雨木うた
12/13

本部長と初デート~side琢磨~

今日は土曜日で会社は休みだ。

以前から素直を初デートに誘っていた日でもある。

朝食の際、素直にこの後出掛けようと声をかけ俺は急いで準備して2人で手を繋いで出掛けた。今日は珍しく車ではなく自宅から徒歩で出掛ける。2人で他愛ないお喋りをしながら歩いて街中へ。

ちなみにデートプランは俺が立てていて素直は何も知らない。

街中に到着してすぐ、素直を一軒の小さなアクセサリーショップに連れて行った。有名ブランドの店ではなく個人の作家の店で、個性的でかつ可愛らしいアクセサリーが店内に飾ってあってお洒落な店だ。

俺は素直の為にピアスを注文していて、店主がすぐ出して見せてくれた。

会社にも着けていけそうなシンプルなデザインの物で俺が

「コレが似合うと思って選んだんだ。」

と伝えると素直は嬉しそうだが少し迷う素振りだ。俺からは一目で気に入ったように見えたけど、どうやら素直は、

「作家さんの手作りならお値段も結構するのでは?」

と躊躇っている様子。

「気に入らないか?」

と俺が素直を見て訊ねたら、正直に

「値段が心配で…。」

と答えた。素直らしいと俺が笑いながら

「余計な心配はしなくていい。大事なのは素直が気に入ったかどうかだからな。」

と笑って言ったら

「可愛いと思います。嬉しいです。」

と答え会計時に俺が

「このまま着けて行きます。」

と店主に言い、その時素直が着けていたピアスをケースに仕舞って、新品のピアスを着けて店を出た。

素直は俺に

「可愛いピアス、ありがとうございます。嬉しいです。」

と再度礼を伝えてきたから

「俺が勝手にしてる事だから気にするな。よく似合ってる(笑)」

と返すと、素直は顔を赤くして俯いてしまった。

その後また手を繋ぎ街中をブラブラとウィンドウショッピングしながら歩いていたら昼飯時近くになり、素直が気に入った様子の洒落たカフェに連れて行き、そこで少し早めの昼食を済ませ、また街歩きを再開した。てくてくとスローペースで手を繋いで歩く俺達。こんなにのんびり過ごす日も珍しいなぁと思いながら歩いていた。

「近くにショッピングモールが出来たらしいから見に行かないか?」

と聞いてみたら

「ショッピングモール行った事無いから楽しみです。」

と素直が答えた。

俺は「そうか(笑)」の後に

「やっぱり美緒さんの見立ては当たりだったな(笑)」

と呟いたら

「美緒ですか?」と訊ねてきて

「彼女の意見を参考にしたんだ(笑)」

「そうだったんですね。」

「次は俺が全部考える。」

「今凄く楽しいし琢磨さんと一緒なら何でもいいですよ?」

と素直が答えるから俺は驚きながら嬉しくなって

「無自覚に惚気られると照れるな(笑)」

と笑っていた。

ショッピングモールの中を歩いていると脇通路から取引先の専務が家族連れで現れた。俺は内心の渋面に気付かれぬよう挨拶。仕事の話を軽くしていると専務が本格的に話し出した。仕方なく応じながら話し合っている間に素直が身振りでトイレに行く事を告げてきたので俺が了承を伝えてから俺の手を離してトイレに向かって行った。

やっと専務との話が終わって別れてからもなかなか戻らない素直に一抹の不安を感じた俺は、たまたま居合わせた年配の女性に

「連れが女子トイレで倒れているかもしれないから見てきて欲しい」と頼み込み、女子トイレが無人である事をその女性から聞き、礼を言ってすぐに自宅の警備員に連絡を取り素直を探すよう命じ、警察にも通報した。

ショッピングモールの防犯カメラの映像もチェックさせた。

警察が現場検証した際、さっき着けたばかりのピアスが片方落ちていて、それを見た俺は素直が何らかの事件に巻き込まれたと確信した。そしてショッピングモールのトイレ入口の防犯カメラの映像の中に素直が男の清掃員に羽交い締めされ口に布を押し当てられている映像があり、それを見た警察も誘拐事件として動く事が決まった。

俺は犯人とおぼしき男に見覚えは無かった為警察に話して、その男の行方を追って貰う事にした。

犯人とおぼしき男、一体誰なんだ?まさか素直のストーカー丸山豊か?しかし顔は別人だった。

丸山豊の丸全工業は石神グループから全契約解除された後、他企業も手を引き今は一気に低迷し資金繰りにも困っていると噂されている。そんな男がまさか素直を拐ったのか?

そんなの一体何をされるかわかったもんじゃない。

俺は不安と心配と怒りで押し潰されそうになりながらどうにか冷静さを保ち事件の対処にあたった。

犯人の足取りはすぐに判明した。

清掃員の格好で大きな布かごを押して歩いていたからだ。

ショッピングモールの裏手で犯人が布かごから素直を車に乗せようとしている現場を警察が押さえ、犯人を現行犯逮捕。素直は救急車で病院に搬送された。

犯人は激しく抵抗したらしいが、幸い素直に外傷は無く嗅がされた薬も気を失う程度のモノだったらしく身体に悪影響は無さそうだ。

しかし素直はなかなか意識が戻らなかった。過度のストレスが原因である可能性も医者からは言われたが、素直の意識が戻ったのは保護されてから5時間後だった。

「素直?わかるか?」

と訊ねると、

「…琢磨さん…。」と答えた。

「もう大丈夫だ。ここは病院だ。」

と伝えると、あからさまにホッとした表情で

「…良かった…。」と言って

涙を見せた。

それを見て俺は素直の感じた恐怖心を計り間違えていた事に気付かされた。

素直はとにかく怖かったのだ。

理由もわからず突然羽交い締めにされ薬を嗅がされたのだから。

俺は犯人に対して殺意にも似た感情を抱いた。素直をこんなに傷つけるヤツは絶対に許せない。犯人は社会的にも処分するつもりだし、警察からの罰も受けて貰う。2度と素直に近付けないように対処する。俺は頭の中がフル稼働して犯人に対する怒りと素直を守りきれなかった情けなさで負の感情がドス黒く渦巻いていた。

しかし素直は俺に

「助けてくれて、ありがとうございます。」と礼を言ってくれた。

「守りきれなくてすまなかった。」

「いいえ、何もわからない間に何処へ連れて行かれるかわからなかったし、何をされるかもわからなかったけど、こうして琢磨さんが助けてくれたから今無事でいられるから。」

と言ってくれた。

俺はとにかく素直が拐われて怖かったと伝えたら、

「琢磨さんにも怖いものあったんですね(笑)」と素直は少しぎこちなく笑った。

そうだ、俺は素直が消えて怖かった。

一瞬でも、2度と会えないのではと考えたら頭の中が真っ白になった。

俺にとって素直は替えの効かない人間なんだと再認識した。

同じ失敗はもうしない。

次は起こらせない。

必ず全ての悪意から素直を守り抜くと自分自身に固く誓った。

事件の一報と素直の無事保護を聞いた祖父と父と美緒さんはすっ飛んで素直の様子を見に来た。

「怖い目にあったね。」

「もう大丈夫だからね。」

「よく頑張ったね。」

と口々に言って素直を心配していた。

勿論俺は3人から叱られたが、当然の事なので黙って聞いた。

祖父と父からも打診があったが、素直にSPをつける方向で話を進めている。

本人には内緒でやらないと

「大袈裟過ぎる」と辞退しかねないからだ。本人からしたら大袈裟でも俺達からしたらまだ甘い。もっと厳重に守りたいのだが、そこまですると素直が気にするだろうから、本人にバレないギリギリの線で、となった。

SPは俺の自宅から1歩でも出たら付く事にした。祖父と父にとっても素直は替えの効かない人間なのだ。

人を疑ってかかる祖父達がここまで気に入る人間も珍しいが、俺の婚約者ってだけじゃなく娘、孫として大切に思ってくれているんだろう。

警察からの連絡で拐った犯人の背後に丸全工業の丸山豊がいた事がわかった。俺はアイツだけは何があっても絶対に許さない。社会的にも抹殺する。

簡単に赦されると思うな。

素直の体調が落ち着いたので自宅に連れ帰る事にした。勿論歩かせるつもりはない。俺が抱いて移動している。

素直は「歩けますから!」と言うが祖父と父も「琢磨に連れていって貰いなさい。」と今日ばかりは俺の味方だ。

帰宅後も祖父や父やメイド長達に気遣われ恐縮していた素直だったが、俺が部屋に連れて行くと、フッと肩の力が抜けたようで

「琢磨さんちなのに『家に帰ってきた』気がします(笑)」

と笑った。

「そうだ、家に帰ってきたんだよ。安心していいぞ。」

と言うと

「そうですね(笑)」

と言っていた。

素直を風呂へ連れていき、出てくるのを待っていると

「わ!?何でいるんですか?」

と驚かれたが風呂上がりの素直をドレッサーに座らせ、俺が素直の髪を乾かし再度抱き上げてベッドに寝かせたら「今日の琢磨さん過保護ですよ?」

と言われたが、

「今後も同じようにするつもりだ。」

と伝えたら、

「過保護過ぎます。琢磨さんの時間をもっと大事にして下さい。」

と拒否された。しかし俺は止めるつもりはサラサラないので「わかった」とだけ返事しておいた。

こうして、初デートの1日は終わった。


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