本部長と婚約者
ストーカー騒動は警察に任せて一応の決着がつき、丸全工業の御曹司の丸山豊氏は逮捕され、私に対して接近接触禁止が決まった。全て琢磨さんが取り計らってくれて、私は特に何もせずに終わった。いいのだろうか?石神グループと丸全工業の提携も琢磨さんの宣言通りに全て打ち切りが決まった。
石神グループ側としての言い分は「逮捕されるような人間が跡取りの会社とは仕事は出来ない」との事だったけど、私に面会しに会社に突撃していた経緯から、安野さんや課長、他の海外事業部の面々も事情をある程度琢磨さんから知らされていたらしく「本当に無事で良かった」と言って下さった。
本当に無事解決して良かった。美緒も「コレで自宅に戻れるね(笑)」と笑って言ってたけど、琢磨さんは私を自宅に戻すつもりは無いらしい。理由を聞いたら「1度鍵を開けられているから危ない」との事。「鍵は付け換えますから大丈夫ですよ」とお伝えしても「危ないから絶対にダメだ!」の一点張り。「このままウチに居ればいい。」と言って下さるけど、他所のお宅に居座るのはちょっと…。
と私が答えれば「このまま嫁に来れば他所の家じゃなくなるだろう?」と無茶苦茶な事を言い出す始末。確かに私と琢磨さんは想い合っているしお互いの気持ちも確かめた。けど、だからと言ってすぐに結婚は無理があると思う。
そう話すと、なら婚約しようと言う。うーん、琢磨さん頑固だからなぁ。ここは私が折れるべき?
最終的に結局私が折れて婚約する事になっちゃいました。急展開過ぎて美緒は「ハァ!?どうゆう事!?」って驚いてるしどうしよう。取り敢えず私と琢磨さんの新しい関係を説明したけど美緒は少し心配そうに考え込んでいた。
琢磨さんは急いで婚約したい様子で、取り急ぎ琢磨さんのご自宅で親しい人達だけ招待して婚約披露パーティーが行われました。勿論美緒も招待しました。
お祖父様とお父様、来客の皆さんと使用人さん達に祝福されて晴れて私は琢磨さんの正式な婚約者になった。美緒も今回は祝福してくれて良かった。
でも婚約指輪っていつの間に準備してたんだろう?サイズもピッタリだし…。ま、まぁコレは気にしても無駄な事な気がするなぁ。
パーティーがお開きになった後、琢磨さんに散歩に誘われた。2人でお庭を散歩していると、琢磨さんが急に振り返って「こんなに急いでごめんな。」と謝ってきた。意味がわからず黙っていると「早く確実に素直を自分だけのモノにしたかったんだ。」と言われて私は嬉しくて、少し勇気を出して琢磨さんの左手と手を繋ぎ「嬉しいです。ありがとうございます。」と伝えると、そのまま手を引き寄せられ強く抱きしめられた。「余裕無くてカッコ悪いだろ?」
「そんな事ありません。嬉しいです。」と再度伝えると琢磨さんの顔が近づいてきてキスされた。最初は触れるだけの、でも途中からは深いものになり、私は足元が覚束なくなり琢磨さんに支えられてどうにか立っていた。
キスの後、「俺は素直に関してだけはこれだけ余裕無くなるんだ」と何やら熱烈な言葉を聴かされ赤くなりながら部屋の前まで戻った。
琢磨さんは私の額にキスを落として「おやすみ。」と言って自室に戻って行った。私はさっきの庭でのキスを思い出して顔が赤くなったが、幸い他に人は居なかったので誰にも締まりの無い顔を見られずに済んだ。
次の日の朝、琢磨さんと出社し普段通り仕事についた。油断すると琢磨さんをボーッと見てしまうので気を引き締めて業務に没頭していたら、すぐお昼になっていた。その日は珍しく安野さんや他の女性社員に昼食に誘われたので琢磨さん(会社では本部長呼び)に今日は女性社員とランチに行くと伝えたら「俺は誰と飯食えばいいんだよ?」と拗ねられたが課長にお願いして女性社員達とランチに出掛けた。店に入るなり皆私の左手薬指の指輪について聞いてきた。「誰かからのプレゼント?」「ダイヤかな?綺麗な指輪よね~」「うんうん。凄く素直ちゃんに似合ってるよ!」と皆さんにお褒めいただいて恥ずかしいやら照れるやらで赤くなって黙っていたら、安野さんが「愛する婚約者様からの贈り物だもん、似合ってて当然でしょ(笑)」と特に隠してはなかったけどあっさりバラしてしまい、「婚約者様?」「私達の知ってる人?」「誰かな?」と盛り上がってしまい、安野さんはニヤニヤしてるだけで誰かまでは言ってくれないみたいだったので自ら「…本部長です…。」と小声で答えたら一斉に「えーっ!?いつから!?」「いつの間に?」「本部長なかなかやるわね(笑)」と感想を言われて私が小さくなってたら、皆から「おめでとう!」「幸せになるんだよ!」と祝って貰いその日のランチは全員からご馳走して貰う事に。私は照れながら「ありがとうございます。」と御礼を伝え、その日の賑やかなランチは終了した。
帰社後、琢磨さんに呼ばれ「女性社員達とのランチはどうだった?」と訊ねられたので「全員に婚約がバレてしまいました…。」と伝えたら「告知する手間が省けて丁度良かったんじゃないか。」と、あっけらかんとしている琢磨さんに「いいんですか?」と聞いたら「隠す必要あるか?」との事だった。
確かに隠す必要は無いかもだけど、社内外から狙われていた琢磨さんが私と婚約した等と知られれば、私への風当たりは強まりそうだなぁとボンヤリ考えていたら、「余計な心配はしなくていい。お前を矢面に立たせるつもりはないからな。」と言われ、またエスパーですか?と驚いた。
その日の仕事も無事終了し帰宅準備をしていると、突然丸全工業の社長が現れ、本部長でありグループの跡取りである琢磨さんにアポ無しで面会を求めてきた。琢磨さんは最初会う気は無かったようだが、私の顔を見て「コレで決着つけとくか」と呟き、1対1での面会に応じた。面会は20分程度で終わり丸全工業の社長は肩をいからせて立腹した様子で帰って行った。その後車で帰宅中に面会の内容を琢磨さんが教えてくれた。まずは、取引の再開要請、息子への被害届の取り下げ、果ては丸全工業の社長の親戚筋の女性を琢磨さんと結婚させたいと話してきたらしい。余りにも一方的過ぎて琢磨さんは真顔で「ふざけてるんですか?時間の無駄ですよ。」と答え「寝言は寝てから言え。」と追い返したそうだ。成る程、追い返されたから怒って帰ったのか…。
「どうなさるんですか?」
「どうもしない。要求を聞く義理は無いしな。今まで通りの方針で変わらない。」
「そうですか。」
「何だ?心配事か?」
「私が原因で面倒事になってしまってすみません。」
「原因は素直じゃなくてストーカーの方だ」そこで私は黙り込んでしまった。
「気に病むな。心配しなくてもいいんだ。丸全のアホ御曹司が全ての原因なんだから。」と琢磨さんは私を励ましてくれた。
私は琢磨さんの言葉を信じよう、琢磨さんが言ってくれてるように私に過失は無いんだからと腹を括る事にした。ただ親戚筋の女性の件は引っ掛かり琢磨さんにどうするのか訊ねてしまったら、「どうもこうも断ったぞ、俺には素直とゆう婚約者が既に居るし他の女はどうでもいいからな。何だ焼きもちか?嬉しくて舞い上がりそうだ(笑)」とご機嫌な様子に。
私は返答を聞いてから初めて、嫉妬にかられて訊ねてしまったと気付き恥ずかしくなって俯いていたら琢磨さんが私の手をギュッと握りしめ「俺を信じてくれ。」と真剣な顔で言われて、小さな声で「はい。」と答えるので精一杯だった。