作品タイトルはセンスの塊
そしてセンスのない筆者
降ってきた雨は、のどの渇きを癒やすどころか、忘れかけていた飢えを思い出させるものだった。
大樹の傍に身を寄せ、寒さに身を震わせている。意識は朦朧としていた。
森の中はいつもは入ってはいけないときつく言われている。
しかし、母から手を引かれて彼は入った。
「ここから、動いちゃダメよ」
母の表情をうかがうことはしなかった。
返事にもならない返事をしただけだった。
こうなることをどこかで知っていた。
空腹は知っていても、満腹を味わったことがないからかもしれない。
母親が父親に殴られ、すすり泣く声に、兄弟達と耳をふさいでいたからかもしれない。
それらを地獄のような日々、と形容するには少年は幸せを知らなかった。
彼にとってそれはありふれた日常、心に留めることもない些事になってしまった。
少年は、自分がもう兄弟に会えないことを理解した。
家族の中で、一等好きだったのは3っつ上の兄だった。
兄は、父親と違って殴らない。
兄は、母親と違って疎まない。
兄は、弟たちと違って彼を一度も仲間はずれにしなかった。
母が去っていった。
彼は周りの中でも大きな木を選んで、座った。
母に縋りつく気にはならなかった。
追いかける気力もなかった。
「・・・・にぃ、ちゃ」
彼は自分が出来損ないだということを知っていた。
両親とも、兄弟とも、髪の色や目の色が違う。
兄弟のように畑仕事もうまくできない。
重いものを持つことも、細かい作業も何もかもが上手くいかない。
だから捨てられた。
いらないから捨てられた。
役に立たないから捨てられた。
それに憤る気にもならなかった。
空腹だった。お腹一杯になってみたかった。
褒められてみたかった。自慢の息子だと、言ってほしかった。
愛されたかった。触れてほしかった。
兄みたいに。
兄みたいになりたかった。
でも、いくら望んだところで。
お腹一杯にも、褒められることも、愛されることも、触れられることもなかった。
それが彼の人生であった。
「・・・・・・」
泣きたかった。
心細さで視界が歪んでいく。
自分がいなければ、兄はどう思うか。
捨てられた自分を憐れむか、でもきっと助けは来ない。
パラパラと雨が降ってきた。
いくら木の葉があろうが、木の下であっても濡れていく。
襤褸に水滴が落ちては、色を変える。
少年は虚ろな目でぼーっとそれを見ていた。