068話ヨシ! 超弩級・七つ雲(終)女の戦い
超巨体魔物退治から帰ったら、我が家とお隣さんは修羅場だった。
「違うの、違うのよスー!」
「見損なったわ!
チリーがそんな人だなんて」
「お願い、きいてよぉ!
あれは誤解なのっ」
「やめて、さわらないでちょうだいっ」
「スー、ちがうの!
そう、吊り橋効果!
吊り橋効果なの!
信じて、スーチリア」
「気安く名前を呼ばないで!」
当家の姉ちゃんとお隣の姉ちゃんが、ガチっぽいケンカしてる。
双子のように仲が良いから、言い争うのも珍しいくらいなのに。
「……なんでケンカしてんだ、姉ちゃん達」
「オレにも、わかんねーよ。
朝とか、普通だったんだけど……」
このケンカ、止めた方がいいのかな?
しかし、原因がわからんのに口出すと、こっちが怒られそう。
さて、どうしよう。
すると、「にいちゃーん」「にいちゃんだー」とチビ達が集まってくる。
当家の妹や、マッシュの弟妹、その遊び仲間たちだ。
口々に、たどたどしい説明を始める。
「チリーねえちゃんね、タオルくんくんしてたのー」
「タオル、ギューってしてた」
「赤ちゃんみたいー」
「アットにいちゃんのタオルー」
マッシュと俺は、顔を見合わせて、首をかしげる。
「なんで?」
「さあ、汗臭かったのかな?」
チビ達の、身振り手振りな説明が続く。
「そしたらねー、スーねえちゃんがおこったー」
「タオルをひっぱって、ダメーって」
「いっぱいおこられたー」
「ばっちいのポイしなさい、ポーイ」
マッシュと俺は、顔を見合わせて、首をかしげる。
「なんで?」
「さあ、汚れてて洗濯したかったのかな?」
チビ達の、説明がどんどん意味不明になっていく。
「チリーねえちゃん、まっかっかー」
「スーねえちゃん、プンスカプンスカ」
「すきすき、ちゅっちゅっしたーい」
「ダメー、ダメでーす、いけませーん」
「へんたい、へんたーい、ダメダメー」
きゃっきゃっ、きゃっきゃっ、遊び始めるチビたち。
マッシュと俺は、顔を見合わせて、首をかしげる。
「なにいってんだ、チビども?」
「さあ、まるで解らん……」
さて、このケンカを止めるべきか、止めないべきか。
どうしよう。
そう悩んでいると、当家の姉ちゃんから手招きされる。
え、俺?
「いいから来なさい、アット」
「うん? 何、姉ちゃん」
俺が近寄ると、当家の姉ちゃんは、耳打ちしてくる。
「あのね、チリーにこう言いなさい ──」
ええ~……マジ?
俺が、なんで?
そんな事言うの?
なんで、どうして?
「意味わかんねえ」
「いいから言いなさい。
今日の晩ご飯、おかず一つあげるから」
「う、うう~ん……」
ちょっと迷った。
でも結局は、姉ちゃんから言われた通りにする。
食べ盛りの年頃には、おかず一品は大きいのだ。
「── え、えっと。
隣の姉ちゃん……じゃない、チリー姉ちゃんは、いつも優しくて笑顔がステキだね!
小さい頃から憧れてる、理想の女の人です。
俺、将来は、チリー姉ちゃんみたいな人と結婚したいなぁ」
だいぶん棒読みだと、自覚はある。
それに、姉ちゃんに言われた台詞とは、ちょっと違うかも知れない。
しかし、何の意味あるんだ、これ。
当家の姉ちゃんが隣の姉ちゃんの仲直りに、俺が使われてる感じ?
珍しく大ゲンカしたからって、こんな回りくどい事しないで、普通に仲直りしたらいいのに。
内心そんなグチを零しながら、言い切る。
── すると、
「う、うそ……っ」
隣の姉ちゃん、ぽてん、と腰が抜けたように座り込む。
「え……っ
え、え、え!
えええぇぇぇぇぇ!?
── ホント、ねえ、ホントなのそれ!?」
さらに、ズザザザザッと四つん這いで迫ってきて、両腕をつかんでガックンガックンされる。
すると、当家の姉ちゃんが、間に入って引き離す。
なんか、誘拐犯から俺を守るような体勢だ。
「はーいストップ、そこまでっ」
あと、スゲー冷たい声だ。
当家の姉ちゃん、何をそんなにガチ怒りしてんですか?
「チリー……っ
やっぱり、アンタ……っ!?」
「── こ、これは、ち、ちがうのっ
だって、そんな嬉しい事を言われたら!
ねえ、そうでしょ、ふつう誰だって、そうでしょ!?」
「……昔から年上好きの面食いの、あのチリーが?
まるで眼中にない年下のガキんちょに言われたのに?
本気じゃなかったら、今みたいな反応にはならないでしょ……?」
「た、たばかたわね、スーチリア!」
「ああ、なんて事なのっ
わたしの親友は、わたしが知っているチリーは、もういないのね……
近所の幼年男児を毒牙にかける変態に成り下がるなんて!」
「スーぅぅチぃぃぃリぃぃぃアぁぁぁぁ、違うのぉぉぉぉっ」
「近所のイケメンの訓練のぞき見してキャーキャー言ったり!
外国の恋愛小説みて金髪輝士さまのお嫁さんになるとか言ったり!
そんなアナタはどこにいってしまったの!?」
「わ、わたしたち、生まれた時からの親友!
何があってもずっと仲良くね!って言ったわよね!
そうよね、親友のスーチリア!?」
「……え、ええ。
そ、そうデスネ……。
お隣ペスヌドラ家の娘サンとは、昔カラ親しくさせてイタダイテイマス……」
「な、なんでそんな、他人行儀にするの!?
ねえ、目をそらさないで、わたしたち親友でしょ!?
わたしの目をみなさいよぉ、スーチリアぁぁ!!」
……いったい何やってんの、姉ちゃんたち?
これってケンカじゃなくて、新しい遊びか何か?
俺が呆れていると、マッシュも心配するのをやめたっぽい。
「まあいいや。
アット、放っておこうぜ?」
「おう、そうだな」
それはともかく。
俺は決意を新たにする。
そして、マッシュ、フォル、タードちゃんを見据える。
「いいか、みんな!
超巨大魔物を俺たち4人だけで倒すのが、これからの目標だっ」
まさか、あんなドデカい魔物がいるなんて!
まじでスゲーな、さすが異世界だぜ!
(── やっぱ異世界ってスゲーよ、超巨大魔物がいるし!)
マルチ専用の大型レイドボスを狩友だけで倒すなんて!
そんなの、絶対楽しいもんな!
ワクワクするぜ!
みんなもそう思うだろ!?
そう、ルンルン気分の俺に対して、
「ア、アット……お前、何言ってんの……?」
「ムリムリ、ムリですって! そんなの絶対ムリ!」
「もう、アット君ったら、またそんな事いって……。
── それより、あの羽根が生えてた人達、カッコ良かったよねぇ?」
アット君オーラ教室の生徒さん達の反応は、何かイマイチだった。
あと、当家もマッシュん家も、パパ達は軽傷くらいで無事でした。
後片付けが大変で、1週間くらい、ほとんど家に帰ってこなかったけど。