067話ヨシ! 超弩級・七つ雲(5)狂戦士s
俺ら児童4人は、ハイハイ状態で、赤褐色の超巨大魔物の下に潜り込む。
見上げると、巨体の底面はなにやら紫色になっていた。
何かで変色したのか、そもそもそういう色なのかは、解らない。
そんな魔物の装甲の腹?底?の様子を見ながら、7~8mくらい進んだか。
── ブッシュウウウ!!
ぶっ、ふぉぅお!?
いきなりスモーク混じりの白い突風が、前方から吹きすさぶ。
四つん這いで地面の石材にしがみつき、突風を耐える事、数秒。
白煙の突風がおさまった後に、またハイハイで1mくらい前に進む。
すると、巨大なスリットが横たわっていた。
魚のエラが、数mに巨大化し感じだ。
サイズ感からすると、長いサーフィン板を何枚か並べたような感じ。
「うわぁ、デッカ」「コレってクチか……?」
後ろの方からも、そんな声が聞こえてくる。
「いや、多分、呼吸のための部位だな……」
「アット君、オーラもこの辺りに集中しているみたいだよ!」
すぐ後ろにいたフォルが、四つん這いのまま指差した。
【瞬瞳:二重】のオーラ観測機能で見れば、確かにこのキモチワルイ紫色の装甲の向こうに、膨大なオーラの輝きが確認できる。
【瞬瞳】を解除しても、魔物の下の暗がりがぼんやり照らされている。
それ程にオーラが強い。
俺とフォルは、もうちょっと先に進んで、猫みたいに身体を丸めて反転して、戻ってくる。
魔物の下の、トンネル状の隙間は狭い。
だが、俺ら小さな子どもなら、肩を寄せ合えばギリギリ横に2人並べれるくらいの幅がある。
四つん這い4人で顔を突き合わせ、魔物の装甲の腹だか底だかを見上げる。
「開いたら、攻撃する?」
「じゃあ、開くまで待つのか?」
タードちゃんとマッシュが、何とか拳を突き上げようと、もぞもぞ。
「でもコレが開いたら、さっきみたいに風がくるんじゃない?」
フォルの指摘も、頷ける。
そして俺の結論は、
「よし!
これがもし 『排気口』 なら、逆に開かないように小細工してやろう!」
そう言って、背負っていた『愛剣』を引き出す。
「あ、それって、あの試作品!」
「なんとかゴロシ小型剣!」
「鉄製が抜けてるよ?」
ブブ~~!! 違います!
『鉄製試作大剣ドラゴン殺し・小型版』ですぅー!?
仲間の武器の正式名称なんですぅー!
みんな外れで全然あってませんー!
ちゃんと覚えて下さいぃー!(RPG脳)
俺は、そんな事を小声でグチグチ言いながら、巨大なエラ(?)みたいな排気口の一番内側に、剣を差し込む。
固く閉ざされた魔物の装甲の隙間に突っ込んだせいで、半分くらいで止まってしまう。
「よし、みんな蹴って押し込むぞ!」
俺が、狭い中で仰向けに転がると、足上げ腹筋の要領で『鉄製試作大剣ドラゴン殺し・小型版』の鍔に足をかける。
天地逆転の体勢でスコップを踏むような形だ。
「うん」「やってみるっ」「いくぜ」
3人ともすぐに頷き、すぐに同じ体勢を取った。
「じゃあ、いくよっ
── 3・2・1! せーの!」
俺の掛け声に合わせて、オーラで身体強化された4本の子どもの足が、『鉄製試作大剣ドラゴン殺し・小型版』の鍔を蹴り上げた。
── ズブン……ッ!
予想以上にあっさりと、剣が根元までめり込む。
「── あれ、失敗?」
やけに手応えがない。
俺は失敗したのかとも考えて、一度『鉄製試作大剣ドラゴン殺し・小型版』を引き抜こうと柄に手をかける。
いや、思った以上にしっかり刺さっているのか、両手で引っ張ってもビクともしない。
「── アット、やべえ!
なんか、魔物のようすがっ!」
マッシュが、切羽詰まった声を上げた。
途端に、魔物が、全身を細かく震わせ出す。
前世ニッポンで言えば、震度2くらいの余震くらいか。
「うおぉぉ、撤収! すぐに撤収!」
俺たちは、必死に四つん這いで入口に戻り、そのまま城壁を【弾動】で蹴って、大ジャンプ。
児童4人そろって、近くの工房の屋上に避難。
さらに、耐熱レンガ製の四角煙突の後ろに隠れる。
その途端だった。
── ズッッドオオオォォォォ~~~~ンッ!
蒸気機関が破裂したような、すさまじい爆音!
さらに、
── ジャリジャリジャリ、ズザザザザザザ……ッ
大岩が滑り落ちるような音!
轟音の方に振り向けば、超巨大魔物が向こう側(つまりは城壁外)へと滑り落ち、斜めに傾き装甲の腹の紫色をこっちに向けている。
よくよく見れば、超巨大魔物の側面に、家一軒くらい入りそうな大穴が空いていた。
さっきの爆音は、竜巻を何個も生み出すような魔物のパワーが、暴発した結果のようだ。
とんでもない破壊痕に軽くビビりながらも、作戦成功の実感が湧いてくる。
「── ……う、うぉぉぉっ」
俺のノドから、思わず勝利の雄叫びが漏れ出すと、周りの3人も歓声を上げ始めた。
「やったぜ、オレたち!」
「やったぁあ、魔物やっつけたっ」
「す、すごいよ! ボクでも役に立ったんだ!」
そんな、子ども4人の勝利の声を打ち消すように
── ブオオオォォォォォン……ッ
と、低温の耳鳴りのような爆音。
耳を押さえて見上げれば、空に舞い上がる、巨大な龍みたいな姿。
いや、違う、アレ、この魔物の一部だ!
「── し、尻尾か、アレ!?」
俺の叫び声に、正解!と答えるかのように、落下してくる。
空中に舞い上がった姿が、一瞬チラリと見えただけ。
でも、なんか、城壁の沿いに、ずっと続いていたようにも見えた。
長さは数百m、あるいは1kmくらいあるかもしれない。
途中に、胴体ほどじゃないけど、いくつもデカい甲羅みたいなのが付いている、バカみたいに長い尻尾。
もちろん、そんな長大で大重量の物が舞い上がり、そのまま落下したら、まともじゃすまない。
もっとも、幸いだったのは、落下地点がすべて城壁の外だった事だろう。
── ドンドンドンドオオオォォォォォン……ッ
足下がグラつくような地響きの後、盛大に砂埃が舞い上がる。
それから一分ほど、沈黙が流れる。
色々な事が起こりすぎて、みんなポカンとしてたんだろう。
徐々に、
── ……ぉぉぉおおおっ
大人達のすさまじい怒号だか歓声だかが、城壁の周囲一帯から響き渡る。
── うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!
さらに、ダンダンダン! ダンダンダン! と何百人かが一斉に足を踏みならす。
腹の底まで響く重低音が、空気をビリビリ震えさせる。
そして、黒灰色の輝甲の防衛隊員が、超巨大魔物へと一気に殺到した。
▲ ▽ ▲ ▽
「ひゃっはーーー!」
「野郎共、反撃の時間だぁ!」
「都市を襲う、悪い魔物は皆殺しだ!」
「チャンスだ! つっこめ! ぶっこめ!」
「ゲヘヘ、大事なところが丸出しだじゃねえか、たまんねえな!」
「はらわた食い散らかしてやんぜ、おらーーー!」
「テメーこの、石に叩き付けやがって、痛かったじゃねえか!」
「そうだよ、痛かったんだ、痛かったんだよおおお!」
「おらおらおら、いまさらビーピーかわいく鳴いてんじゃねえ!」
「マスカキ猿ども出番よぉ、手の早いところみせなさい!」
「ホウ、ホウ、ホウ! ホウ、ホウ、ホウ!」
「レディイイイイス、わたしに続け! 下品な男共に遅れをとらないわよ!」
「イエッス、マム! レッドスカーフ隊、突撃、突撃、突撃ぃいい!」
「グラアアアア、ウルオラアアアアア! シャアアアア!」
「やあ、ここは辺境オルボンドだよ! 何もない街だけど楽しんでってね!」
狂戦士の群である。
「……へ、兵隊さんって、こ、こわい……」
「う、うん……」
うん、分かってた。
俺、身内なんで分かってたつもりだったが。
直で見たら、やっぱり引くな。
おっちゃん達、みんな、こわい。
そう思って固まっていたら、何か新手が登場。
「黒の勇士諸君!
未曾有の危機を食い止めるこの度の働き、まことに大義であった!
あとは、我々、青の精鋭にまかせたまえ!」
威厳のある声が、上から降ってきた。
「うぉぉ……アイツら、空飛んでる……」
予想外の光景に、俺も目をぱちくりしてしまう。
夕暮れの空に浮かぶ、目の覚めるような青い輝甲の集団。
そう、空を飛ぶ部隊。
翼のある輝士たちだった。
「アット君、あの人達、本当に空飛んでるよ……」
俺と同じく、目をまん丸にするタードちゃん。
だが、マッシュとフォルは、その存在を知っていたようだ。
「すげえ、ロイヤルガードだ!」
「あれが、領主様の近衛兵なんだ!?」
憧れのスターを見るように、目をキラキラさせている。
── そんな、驚きと感動と期待に溢れた、俺らお子様の反応。
だが、大人達の反応は、まったくの真逆だった。
「いまごろ来たのか、応援部隊!」
「終わった頃にノコノコきやがってっ」
「お化粧に時間かかりすぎだろ、エリート様どもよぉ」
「おせーんだよ、このクソガラス共!」
「決着付いてから来てんじゃね、『死体あさり』が!」
「キャー、エリートよ!」
「これ終わったら合コンしませんかー!?」
「高い所で格好付けてねーで、下りてきて手伝え!」
「羽根ムシって焼き鳥にすんぞゴラァー!」
ブーイングの嵐だ。
あと、なんか、途中よく分からない黄色い歓声があがってる。
見上げれば、青い輝士たちの先頭の人が、ブルブル震えてる。
多分、さっきの声の隊長さんなんだろう。
「こ、この、ダンゴムシどもがぁあっ
総員、突撃準備!
ヤツらだけに、手柄をくれてやるな!
われら精鋭部隊の実力を、地虫どもにみせつけてやれ!」
「はっ! 総員突撃!」
── 『おおおおおぉぉぉぉ!!』
青い翼を細めて、カワセミみたいなダイブ攻撃が、一斉に開始。
超巨大魔物の装甲の大穴からむき出しの肉に、長槍を次々と突き刺していく。
すると、また地上から、野次のような怒鳴り声が響いてくる。
「おおう、勝負すんのか!?」
「上等ぉおおだぁ、ぼけぇ!」
「やってやらぁああっ」
「全員、返り討ちだぁぁ」
「マスカキ猿ども全力だしなさいよぉ!」
「ホウ、ホウ、ホウ! ホウ、ホウ、ホウ!」
「わたし、部隊の垣根を越えた交流って、大事だと思います!」
「貴様ら、わかってるなぁ、気合い入れろよぉ!」
「青の腰抜けに負けたやつぁあ、特訓コース2週間だ!」
「勝ったら合コン!? 勝ったら合コンなの!? ねえ!?」
さっきの倍くらいの勢いで、防衛隊が殺到する。
すごい勢いで血飛沫があがり、肉やら装甲やらが、飛び散っていく。
なんかもう、あれほど恐ろしかった超巨大魔物が、ちょっと可哀想になるような光景だ。
俺たち7歳児4人は、しばらく呆然と眺めていたが、徐々に手持ち無沙汰になってきた。
「か、帰ろっか……?」
「そ、そうだね」
「後は大人の人たちが、なんとかしてくれそうだし……」
誰ともなく、そんな事を言い出す。
そして、大人のガンバる戦場に背を向け、屋上跳躍を開始した。
本当は、隙を見て俺の愛剣『鉄製試作大剣ドラゴン殺し・小型版』を回収したかったんだが。
とてもそんな状況でもなさそうなんで、ひとまず回収をあきらめた。
!作者注!
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