066話ヨシ! 超弩級・七つ雲(4)風速100m
俺は、城壁の手前でストップの指示。
倉庫の丸い屋根の上で、7歳児4人で、身をひそめる。
状況確認のためだ。
「パパ、大丈夫かなっ?」
マッシュが、すぐに身を乗り出す。
城壁内側の巡回路を覗き込み、『射転』 とかいうSL列車式の機関砲台の方を探している。
大人に見つかったらマズいので、マッシュのベルトを引っ張って引き戻す。
そんなソワソワ落ち着きないヤツは放っておいて、とりあえず現場の確認だ。
俺とタードちゃんとフォルの3人は、城壁上の超巨大魔物の方を伺う。
「……近くで見たら、さらにすげえな」
「……うん、なんか兵隊さんたち、みんな大変そう」
「……こんな所を見つかったら、怒られちゃうよね?」
超巨大魔物が攻撃準備態勢に入った事で、黒い輝甲の防衛隊員さん達は右往左往。
あちこちで必死に駆け回り、恐ろしくせわしない。
すごい数の兵士がオーラ身体強化で、自転車以上のスピードで駆け回っている。
城壁の上が結構広いとはいえ、よくぶつからないなあ、と感心する程だ。
あと、すごいうるさい。
俺たち児童4人でくっついているのに、小声だとお互い何言っているか分からないくらい。
ほぼほぼ、休日のパ■ンコ店。
怒号、剣戟、悲鳴、蒸気機関、城壁の崩壊……色々だ。
ひとつでもうるさいくらいの騒音が、何十何百と入り乱れてすさまじい。
まさに戦争状態。
暴力的な騒音だ。
鼓膜が痛いくらいだ。
ガキンガキンバコンバコンの合間に、こんな声が聞こえてくる。
「くそ、魔物から燐光が!」
「ダメだ、もうおしまいだっ」
「諦めるな、少しでも弱らせるぞっ」
「総員、すぐに隊列を再編成、再度突撃っ」
「輝炎だか、輝雷だかの、発動を遅らせろ!」
「応援はまだか! 青カラスどもはどうした!」
「何か異変があったらすぐ退避っ、ゴツいのくるぞ!」
「ひとぉ~つ! 母ちゃんのためにエンヤコぉ~ラぁっ!」
「まだまだぁ、ギリギリまで魔物の装甲を削れ! 皆いくぞぉっ」
「俺はぁ、かならず生きて帰ってぇっ 彼女にプロポーズするんだああっ!」
(── おい誰だ、最後の台詞!
お手本みたいな死亡フラグ立てやがったヤツ!?
ヤメロよ、いくらなんでも不吉すぎるわ!)
この非常時に、余計な事すんなし!
そんな騒音・爆音の中、様子を伺う事しばし。
ソワソワMAXになったマッシュが、環境音に負けない大声で訊いてくる。
「── なあ、アット、いつまでこうしてればいいんだよ!?
何かいい作戦ないのかよっ?」
「ううん……
とりあえず、魔物の攻撃をなんとかしないと……」
とりあえず、あの竜巻攻撃の連発はやばい。
あんな物を何回もやられたら、都市が壊滅してしまう。
隣の姉ちゃん、さっきの人達みたいに、運良く助けられるケースばかりじゃない。
しかし、とは言っても、俺もマッシュを追いかけてきただけの、ノープラン状態。
上手い作戦が思いつかない。
「── ねえ、アット君っ
あの魔物のオーラの流れって、下の方に向かってない?」
タードちゃんが、【瞬瞳:二重】で観察して、そんなアドバイスをくれる。
「あ。ホントだ……っ」
だが、近づいて見れば ──
それも【瞬瞳:二重】でオーラ観測すれば、だが ──
── 暗褐色オーラが、毛細血管のように全身を流れているのが分かる。
それを束ねる太い本流、血管で言えば大動脈みたいな物が、ドクンドクン……とオーラを一点に流し込んでいる。
その暗褐色オーラの流末は、魔物の身体の下の方。
元々、ボディがデカすぎ、山みたいな魔物だ。
イマイチどこがどの部位だか分からないが、上の丘みたいなドーム型は背中で、平たい下の方が腹っぽい。
それからすると、おそらく城壁の上に乗った魔物の腹 ── つまり『底』の部分に、オーラ集中の中心点がありそうだ。
そうと解れば、話は早い。
「みんな見てくれ、あの辺っ
胴体が城壁のヘリに乗り上がっている。
しゃがんだら、なんとか魔物の下に潜り込めそうじゃないか?」
俺が指差したのは、ちょうど魔物の横ヒレの前側付け根くらい。
そこだけ、城壁のヘリから魔物の巨体がはみ出ていて、のぞき穴つきブロック塀の上に乗り上がっている。
おかげで、子どもが四つん這いになれば、潜り込めそうな隙間が出来ていた。
「じゃあ、あのブロックのすきまに入って、魔物をやっつけるんだね?」
「よーし、見とけよ!
オレが一番にやっつけてやるっ」
フォルの言葉を聞いたマッシュは、そう言うが早いかジャンプ靴【弾動】飛び出していく。
「おい、待てって!」
俺も、あわてて【弾動】で追いかける。
なんでアイツ、他人様の話を最後までちゃんと聞かないかな、ホント。
その後を、非武門組2人組のタードちゃん・フォルが続いた。
▲ ▽ ▲ ▽
マッシュは、俺の指差していた辺り ── 魔物のヒレの付け根近く ── に到着。
そして、オーラ伸縮腕甲【鉤縄】を伸ばし、城壁の縁ブロックの上へと登る。
俺も、同じようにして壁にへばりつくと、ブワン、と視界の端で何かが動いた。
── 瞬間、振り向きながら【瞬瞳:二重】発動!
加速された視覚映像の中で、魔物のヒレの筋肉の膨らみだと、認識できた。
(── ってことは!
つまり、魔物のヒレが動く!?)
タイミングが最悪すぎる!
ちょうど俺に続いて、フォルとタードちゃんがジャンプしようとしている最中だ!
(2人を止める……!?
いや、話すより行動の方が早いっ)
すぐに【瞬瞳:二重】を解除。
同時に、マッシュへの指示と、ジャンプ靴【弾動】を起動準備!
「── マッシュ、『木の葉落とし』だ!
フォルとタードちゃんを、こっちに投げろっ」
舌を噛みそうになりながら、城壁上から【弾動】で踏み出す。
ジャンプの進路は、ヒレから離れる方向、約10m先の城壁ぎわ。
「──わ、わかった!
……ヒュゥ……ッ」
マッシュは、目を白黒させながらも、卑怯技を即座に使用。
俺は、【弾動】で大ジャンプの最中に、【瞬瞳】発動。
ちょうど、こちらに向かってジャンプしている最中の、非武門組2人がスローで映る。
そして、超スピードでムチのようにしなる、半熟オーラの伸縮腕甲。
それが空中の友人2人を、一瞬でかっさらっていく。
── その直後。
超巨大魔物の、横幅が何十mとかいう巨大なヒレが跳ね上がった。
アレに巻き込まれれば、フォルもタードちゃんも間違いなく死んでた。
(あっぶねー……
さすがにちょっと軽率すぎたか。
つーか、これ全部マッシュが先走ったのが悪いんだけどなぁ……)
まあ、アホでバカで脳筋なガキンチョを責めても仕方ない。
お説教は、また今度。
俺は、そんな事を考えながら、城壁に叩き付けられる寸前のタードちゃんとフォルを受け止める。
ただ、マッシュの卑怯技『木の葉落とし』の勢いを殺しきれず、背中から城壁にぶつかった。
ちょっと痛かった。
その直後、
── ヴオォォン……ッ!
と、爆風じみた風圧に、空中で吹っ飛ばされる。
さすがは超巨大魔物!
ヒレがはためいただけで、コレだ。
(身体が超デカいだけあって、ちょっと動いただけでも、酷い事になるな……)
至近距離で受けたら、俺ら子ども3人が軽く2~3m飛ばされた。
2人をしっかり抱きしめてなかったら、バラバラに吹っ飛ばされるところだった。
前世ニッポンの超大型台風でも、そうそうなかったレベルの強風だ。
(何んだコレ、風速100m/秒くらいあんの!?)
なお、風速30m/秒で、屋根瓦や看板が剥がれて飛んでくるレベル。
風速50m/秒とか、成人男性が転がされ、自販機が倒れるレベル。
その倍くらいはありそうな、超強風だ。
「うわわっ」「飛ばされる、落ちるぅ」
俺の腕の中で、ワタワタ慌てた声がした。
あわてた非武門組2人は、すぐに【鉤縄】を伸ばして城壁に張り付いた。
俺は、2人に抱きついたまま、されるがままで任せておく。
というか、さっき2人をキャッチした際の、背中をぶつけた辺りがまだ痛いのよ。
痛みがおさまるまでは、じっとしていたい。
(しかし、アレだな……)
マッシュの『木の葉落とし』、まだまだ進歩というか、強化してるっぽい。
(つーか最近さあ、射程も速度も上がりすぎじゃない!?
この前の限界突破試験の時は、射程5mくらいだったよな!
今日なんて、たぶん射程10mくらいあったぞ!
いよいよ卑怯技に磨きがかかってんじゃねえか!)
おい転生神不具合対応まだかよ、修正はやくしろ!
ゲームバランスぶっ壊れな重大バグ放置すんなや!
詫び石で、ガチャ100連くらいさせろ!
(あぁ、久しぶりに、スマホゲームしたいなぁ……)
俺が、そんなバカな事を考えている内に、タードちゃんとフォルが城壁の上まで【鉤縄】を伸ばして、まとめて引き上げてくれる。
「さて、行くかっ」
俺が皆に、そう声をかけると、
「── クソっ 先にヒレをどうにかした方がいいのか!?」
ひょいっ、と城壁の縁を覗き込んでくる、黒い輝甲の兵士。
多分、その低い声からして中年おっさん。
「あ……」「── あァ?」
と、目が合った。
「── は、はぁああ?
なんで、こんな所に、ガキんちょが!? しかも、何人もっ!」
あ、やべ。
よし、誤魔化そう。
「── うわああぁぁぁああ!?
あ、あそこ見て!
何か、マモノが、なんかスゴい事にぃいい!!」
「な、なんだと!?」
と、俺が指差した明後日の方向に、つられて振り向く、兵士の中年おっさん。
「── おい、どこだっ
なんだ!
何が始まった!?
スゴい事って何だ!?」
「いくぞっ」「いまのうち」「はやくはやく」「ま、まってよ」
おっさんが気を取られている内に、ささっと魔物の巨体の下に潜り込む。
俺ら児童4人は、四つん這いで敵の急所探しを始めるのだった。
!作者注!
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