065話ヨシ! 超弩級・七つ雲(3)電撃参戦
アット君オーラ教室のメンバーによる、竜巻被害者の救出作業。
まず俺。
一番重そうな、馬車から放り出されたオッサンを空中キャッチした。
フォルは、自分より年下の男の子を助けていた。
タードちゃんは、幼児2人を助けたらしく、泣きつかれて、なだめている。
それでマッシュは、どこかの婆ちゃん救助していた。
老婆を抱っこして、さらに杖も回収したらしく、口で咥えているマッシュ。
「あらあら……もう天国についたのかい……?
思っていたより、あっけなかったわねえ……」
白髪が見事な婆ちゃんが、よっこいしょと立ち上がった。
けど、まだ少しふらふらしてる。
「いや、バアさん死んでねえって!
まだ生きてるって、助かったんだって」
マッシュが、杖を吐き出して突っ込んだ。
「あらそうなの……?
わたしはまた、てっきり、お迎えかと。
天国じゃ変わった髪型が流行っているのねえ、って思ったのよ。
こんな男前な天使さんが、亡夫の所に連れてってくれるのかしら、って……」
「なにいってんだよ、バアさんっ」
コントみたいなやり取りに、みんな思わず爆笑。
ププッ。
── 【悲報】マッシュの髪型、この世の物じゃない説!?【トサカ頭】
ププッ、さすがマッシュ!
さすマッシュ!
さすマッ!
その髪、もうやめとけよ!
どう考えてもオカシイよ!
そのバアちゃんだって、目を白黒させてんじゃん!
▲ ▽ ▲ ▽
それは、さておき。
「さっきの、2回の竜巻って、多分アレが元凶だよなぁ……」
「アット君がさっき言ってた、『カイ・ジュー』 っていう、アレ?」
俺ら7歳児4人は、数百メートル先の巨大魔物に目を向ける。
城壁に居座っている『ドーム球場か古墳か!?』 というレベルの超巨体。
そして、その巨体に張り付き、あるいは上に登り、長槍だか戦斧だかを振り回す、黒灰色の鎧姿の大人達。
時々、魔物が地震レベルで身を震わせて、振り落とされた。
── だが、そこは流石に、魔物戦闘のプロ集団。
備えは、万全
あらかじめ、黒輝甲の上からロープとか巻き付けていた。
城壁にぶらさがり、石壁にゴンゴンぶつかっているみたいだが、墜落死よりマシだ。
見ている方も、ほっとする。
危なげがない。
(── やはり命綱……!
命綱は全てを解決する……!)
拙者、前世ニッポンの専門業者として、異世界民の安全対策を高く評価する次第であります。
そうこうしている内に、
── ドッドッドッ、ドドドドドォォ!
という感じの爆音が聞こえてくる。
たぶん、蒸気機関の排気音だ。
黒煙を噴き上げ、城壁内縁の大曲コースを疾走する大型の機械(?)っぽいヤツ。
「──『特帯』?」
俺の半疑問形の呟きを、横からマッシュに訂正される。
「ちがうって、アット。
アレきっと 『射転』 だ!
パパが言ってた、最新兵器だっ」
「へ~……」
『射転』っていうのか、あれ。
よく見れば、特帯より細くて、コンパクト。
あと、荷物用の牽引車両みたいな物の上に、装備とか隊員さんがいっぱい乗ってる。
(そういやマッシュのパパ、兵器開発とかのエリート部局だったな……)
輝士というエリート兵士の上、研究者やるほどに頭まで良いという、まさに文武両道。
……そのご子息が、なにゆえ雄鶏ヘアーの残念ボーイなのか。
それはさておき。
マッシュいわく 『射転』 なる蒸気機関は、城壁内側の爆走して巨大魔物に接近。
キキーッとブレーキ音の後、バシュバシュバシュッと射撃だか砲撃だかを開始した。
SL後部車両で、機銃みたいな射出装置3台を、隊員さんが2人ずつ付いて操作している。
巨大魔物の赤褐色の装甲に、次々とブスブス鈍色の棒が刺さっていく。
瞬瞳の望遠モードで確認すると、総鉄製の銛で、魔物が針山みたいになってる。
さらに、銛の末端からロープが伸びていて、それを引っ張って巨大魔物を押さえ込もうとしている。
そんな列車砲台みたいな新兵器があと3台駆けつけて、合計4台で巨大魔物を拘束し始める。
「やったぁっ 魔物をつかまえたっ」
「へへっん! ウチのパパが造ったんだぜ、アレ!」
「すごい、すごいよっ マッシュ君ちのパパっ」
俺と一緒に、大人達の奮闘を観戦していた、幼児3人は大喜び。
途端に、俺は青ざめる。
「── ……おいおい、待てって、そういうのヤメロ……っ」
なんで、そんなに典型的な敗北フラグを立てにいくんスか、君ら!?
(『やったか!』『見たか、我々の新兵器を』『フハハ、ひとたまりもあるまいっ』
── とか絶対言ったらいかん台詞だろ!?)
そう思った矢先 ──
── 『射転』 とかいう魔物攻撃列車3両連結が1台、空中高く跳ね上げられた。
「はぁぁ!?」
マッシュが、大声をあげる。
1両部分を見ても2頭立ての馬車の2~3倍はある金属の塊。
それが3両連結まとめて、軽々と宙を舞った。
どっかの屋根にぶち当たり、跳ね返って地面に墜落した。
「……うわああ、フラグ回収……」
俺は、悪い予想の的中に、思わず頭を抱える。
運転手や射手の兵士の人達は、無事ではすまないだろう。
「う、うそぉん……」
誰かのあっけにとられた声が、虚しく響いた。
▲ ▽ ▲ ▽
見た目、古墳だかドーム球場だか、という超巨大魔物。
それが、身じろぎしただけで、鉄の塊数十トンというSL機関車みたいなのが、吹っ飛んだ。
そんな、スケール感の違う、怪獣大決戦に、俺らお子様はポカンと見ているしかない。
ふと、灰色髪ロングの文学少年・フォルが何かに気づいた。
「あ、アット君……!?
あの 『カイ・ジュー』 、すごいオーラ集中してるっ」
「なにぃっ!?」
フォルに言われて、俺は慌てて【瞬瞳】を発動。
確かに、城壁の上の魔物は、オーラを操っていた。
オーラが波打ち、巨体全体から一点へと集中していく。
「また、さっきのアレ!?」
「ええ、スゲー風がくんのかよぉっ!?」
タードちゃんとマッシュが、焦った声。
そう、多分それどころじゃない。
魔物のオーラ集中はとてつもない。
なにせ、オーラの量が強すぎて、太陽の下でも肉眼でハッキリと見える。
暗褐色オーラの光が強すぎて、夕方前の景色が一段と暗くなったと錯覚するほどだ。
「あ、あんなの……さっきの竜巻どころじゃない……
街が、全部吹っ飛ぶかも……」
「う、うそでしょ……」
「そ、そんなぁ……」
俺のぼやきに、フォルとタードちゃんは愕然とする。
するとマッシュが、急に独りで駆けだした。
「── …………っ」
「おい、マッシュ! どこに行くんだっ」
「きまってんだろっ
あのマモノ、やっつけるんだっ」
「ムリだって、そんなの!
あの体格差、見ろよっ
大人にまかせておくしかないだろっ」
俺たちは、しょせん7~8歳児。
周りの子と違い、ちょっとオーラが使えるだけ。
プロの兵士より強い、なんてバカなうぬぼれ、してはいけない。
モチはモチ屋。
戦闘のプロ、兵隊さん達に任せるしかない。
下手に首を突っ込んでも邪魔にしかならない。
余計に怪我人が出たりと、迷惑をかけるだけなのが、目に見える。
前世ニッポンで色々経験した、中身オトナな俺はそう割り切れる。
「── アット、でもっ でもぉっ」
うっかりしていた。
でも、周りのお子ちゃま達はそうじゃなかった。
「オレ、パパがしんじゃったら……っ」
マッシュは、涙声。
すぐに【弾動】を起動し、で長距離ジャンプして超巨大魔物の方に向かっていく。
「あ、マッシュ君っ」
「アット君、どうしようっ!」
「── あぁっ もう、アイツは……っ」
俺は、マッシュを追って飛び出す。
だから、何度も言っている!
大人達が必死になっている現場に、7~8歳の子どもが行ってなんになるんだよ!
体格も経験も、何もかも足りてないんだぞ。
魔物退治を何回かした事あるだけで、魔物の知識も全然だ!
だから、あんな怪獣もどき、俺らの出る幕じゃない。
「マッシュのヤツ、いったい何を早まっているんだか……」
ちらりと後ろを見ると、非武門家庭のフォルとタードちゃん2人も着いてきている。
「ち……っ」
こうなれば、腹をくくるしかない。
俺は加速して、ジャンプ靴【弾動】の扱いがイマイチなマッシュに追いつく。
民家の屋根の上を跳びはねて、併走しながら声をかけた。
「おい、マッシュっ」
「アット、ジャマすんなぁっ
オレ、パパたすけるんだっ」
「ああもう、わかったよ、邪魔しないって!
当家のパパの部隊も、きっとピンチなハズだ!
みんなが助かるように、俺たちもガンバるぞ!」
「う、うん……っ!」
「そんなわけで、俺らは行くけど、フォルとタードちゃんは別に……」
「── もちろんボク達も行きますよっ
大した事はできないけど、みんなの役に立ちたいっ」
「うん、アット君ちのまわりのオジさんとか、兵隊さんに知り合いできたもんっ
みんな死んじゃったら、悲しいしっ」
「……そ、そうか」
オーラ教室生徒さん達の、気合いっぷりに、ちょっと気圧される。
いや、どっちかというと、生徒さんがケガすると色々アレかな、と思っただけどね、俺。
「……はあ」
俺は小さくため息。
(みんなが熱血しているからこそ、責任者の俺は、冷静にやらなきゃな……)
そういう、肩の力を抜くため息だ。
そして、ジャンプ移動をしながら、周りを見渡す。
── 戦闘中の怪獣さんとオーラ兵士のみなさん、こんにちわ!
── 俺のイカした仲間を紹介するぜ!
「マッシュ、フォル、タードちゃん。
何度も何度も同じ事を言うけど、『安全第一』 だぞ!?」
「おうっ」「はいっ」「もちろんっ」
── 以上、アット君オーラ教室メンバー4人!
── 電撃参戦します!