064話ヨシ! 超弩級・七つ雲(2)男坂
急に発生した竜巻に吸い上げられた、マッシュの姉ちゃん。
それを見た俺は、慌ててジャンプ靴【弾動】で追いかけ、伸縮腕甲【鉤縄】で空中キャッチ。
オーラ煙幕【絡雲】の連発でで落下の勢いを相殺し、なんとか空中40~50mから無事帰還した。
「マッシュの姉ちゃん、休んでてっ」
俺は、腰砕けになっているお隣の姉ちゃんを、我が家の庭の端っこに座らせる。
(マジで危機一髪だったな。
もうちょっとで、マッシュの姉ちゃんが 『トマトが落ちた』 みたいなグロ画像になるところだったぜ……)
いまさら冷や汗がでてくる。
俺が、額をぬぐっていると、ウチの倉庫から、オーラ教室の生徒さん達が出てきた。
どうも、俺が超高度ジャンプした前後に、みんなちゃんと避難できていたみたいだ。
マッシュん家の弟妹が、半泣きで、姉ちゃんの方に駆け寄っていく。
はたして、竜巻が怖かったのか、お姉ちゃんが心配だったのか。
まあ、両方かな。
マッシュは、俺の肩をバシンと叩いてくる。
「アット、ありがとな……っ」
「おう」
だが、礼を言われるまでもない。
俺にとっても、姉ちゃんみたいなもんだからな。
小さい頃から面倒みてくれた、もう一人の姉、みたいな感じだ。
「あの……ちょっと ──」
マッシュの姉ちゃんから声がかかる。
けど、さっきの竜巻の影響か、風がビュービューいってて、半分くらいも聞こえない。
まあ多分、ムチャすんなって注意されてる感じだろうし。
また『落下足骨折事件』の時みたいに『バカな事すんな!』とか怒られるかもなぁ。
いや、アレ怒ってたの当家の姉ちゃんだけだったかな?
まあ、いいや。
とにかく、引き留められたら、困るし。
── よし!
ウヤムヤのうちにGOだ!
「俺、ちょっと、みんなを助けてくるっ」
そう言って、俺は友だち3人と、アイコンタクトして庭から飛び出る。
▲ ▽ ▲ ▽
我が家の庭から飛び出て、しばらく。
俺たちは、手分けして助けて回る。
庭木に引っかかってる老人 ──
カーテンにしがみついて宙ぶらりんな商店の兄ちゃん ──
飛んできたガレキに挟まれてる近所の一家 ──
色々な被害が出ている。
(しかし、みんな、行動力と手際がいいなっ
なかなかなもんだぜ……っ)
うむ、俺も、オーラ教室の先生として鼻が高い!(得意面)
倒壊家屋から引っ張り出した近所ご一家は、割と重傷だったので、自警団の詰め所まで救急搬送とかもやった。
4人で手分けして、屋根をジャンプして連れて行った。
その、帰り道。
「……は?
── はぁぁぁぁ!?」
フォルが、急に変な声を上げて、硬直する。
ただし、空中で。
3階屋根の上をジャンプ移動の途中で。
「── おいちょっとっ
危ねえ危ねえ……っ」
俺は、危うく地面へ真っ逆さまだった、灰色髪の文学少年を【鉤縄】で救出。
近くの民家屋上に引っ張り上げる。
「── フォル君っ
跳んでる最中によそ見は、あぶないよ!」
タードちゃんからも、厳しく注意。
プリプリお怒りガール、かわいい。(かわいい)
そんなご褒美 ── いや、お叱りを受けていたフォルが、慌てて向こうを指差す。
「いや、それどころじゃないよ!
みんな、アレ見て、アレ!」
そう言われて、指さし指摘され。
ようやく俺たちは、 『それ』 に気づいた。
── 都市城壁の上に横たわる 『ナニモノ』 か。
その、馬鹿げた超存在に。
▲ ▽ ▲ ▽
── 『そいつ』 は、長大な城壁に乗っかっていた。
魔物を防ぐための巨大構造物の上に、我が物顔で寝そべる赤褐色の巨体。
全体の大雑把な印象ば、海洋生物のエイみたいだ。
生きていると主張するように、ゆっくりと身体のあちこちを動かしている。
ただ、サイズ感がおかしい。
シャレにならない。
生き物じゃない、建築物のレベルだ。
前世ニッポンでよく見た、丸いドームみたいな外観。
それが、3階建て民家が続く景色の向こうに、ドドンと飛び出している。
「な、なんだ……
あれビッグエッグか……っ?」
「アット君、大きなタマゴ……って何?」
近くの女児が、俺のつぶやきを聞いていたみたいだ。
(ほら、アレだよアレ。
前世ニッポンの首都トーキョーの代名詞!
TOKYOドーム!
ジャン●の公式ショップのある所!)
とか言いたいけど。
転生とか、前世とか、魂とか。
オカルティックな説明する訳にもいかない。
また、「うわ……こわ」という冷たい目で見られてしまう。
最近、ようやくフツーに接してくれるようになったのに。
幼年学校で 『裏で操る真番長』 扱いのアット君にとって、貴重女子なのだ。
「………………」
俺は、とりあえずオーラ視覚強化【瞬瞳:二重】を発動。
望遠機能でズームアップして、詳しく観察する。
ドーム屋根部の、赤褐色のテント生地が強風に揺れていて ──
── いや、違う!?
アレは、巨体を小さく震わせているんだ!
望遠の視界では、赤系色にうっすらと濃淡があり、何カ所か継ぎ目のような物が見える。
どうもあれは、亀の甲羅かなにか ── いや、カブトガニの甲羅という方が近いのか。
そういう、甲羅か甲殻みたいな物らしい。
「うそだろ……」
現実味がなさ過ぎる。
幻覚か、夢でも見ている気分だ。
「あ、痛て……っ」
なので、軽くほおをつねってみたら、やっぱり痛かった。
やっぱり、現実らしい。
「……冗談じゃねえ……」
前にも説明した気がするが、都市を囲む防御城壁は20mくらいの高さがある。
大門の傍に建つ見張り台に至っては、城壁の倍の40mくらいの高さがある。
── 『そいつ』 は翼かヒレかを、城壁の上から横断幕みたいに垂れ下げていて、地面近くまで届いている。
── 『そいつ』 の城壁の上に乗った古墳みたいな胴体は、見張り台を越えて倍くらいの高さがある。
── 『そいつ』 の長々した尻尾は何百mか先で城壁の向こうに落下していて、全体象が分からない。
見れば見るほど、異常なサイズ。
「── なんだよあれ……っ
ほとんど怪獣じゃねえかっ!?」
俺が思わずそう言うと、今度はマッシュとフォルが反応した。
「カイ・ジュー……って、なんだ?」
「アット君、アレ、なんだか分かるのっ?」
期待に満ちた目に、思わず首を横に振る。
「いや、そうじゃなくて……」
結局、俺ら4人は、まだまだ7歳そこらのお子ちゃま集団。
あんまりに現実離れした光景には、ワケも分からず、ぽかんと眺めるしかない、
▲ ▽ ▲ ▽
500mくらい先にある城壁の上で、動きがあった。
黒い集団が、一斉に城壁の上にあふれ出た。
『── ウオオオォォォッ!!』
野太い雄叫び。
防衛隊だ。
城壁の上に黒い兵士が集結している。
ウチのパパみたいに、マッチョなエリート兵士の一団。
身長の何倍もの長槍や、長戦斧を構えて集結している。
どんな魔物が来ても大丈夫だと思える程、屈強な兵士たちの精鋭集団 ──
── なのに、この巨大な敵が相手では、体格差がありすぎて心許ない。
『吶ッッッ喊ンンン!!!』
兵士達が、一斉に巨体へと突撃する。
体格差を物ともせずに、突撃して、次々と武器を突き立てていく
オーラを操る、屈強な兵士。
黒い輝甲を装備した精鋭たちは、常人の数倍の力を発揮する。
だが、遠くから見ると、そんな精兵達が、ただの豆粒だ。
傍目には、黒豆達が土鍋の蓋に登り上がり、爪楊枝でチクチク刺しているようにさえ見える。
とても損傷を与えているようには見えない。
「やったか……っ? ──」
「── おい、ヤメロっ!」
意気込むマッシュに、俺は思わず怒鳴りつけた。
バカ、そんな典型的な負けフラグなんて口にした日には……。
『ブッシャァアア!
── フッシュゥゥ!』
丘のような超巨大魔物が、雄叫びをあげた。
まるで鯨の潮吹きに似た叫びは、耳が痛いほど。
そして、超巨大魔物が、エイのヒレみたいな翼を、バサバサと動かし始めた。
── 再び、強風が渦巻き、次々と竜巻を生み出していく。
3~4本の竜巻のうち、1本がこちらに突き進んでくる。
ビル風的な影響があるのか、建物をよけて大通りを直進してくる。
キャーとかウワ-とかいう悲鳴が、竜巻の轟音でかき消されていく。
「ああ、また、人がっ」
人間や、馬車が、木の葉のように舞い上がる。
途端、3人の目線がオレに向けられた。
俺は、腹をくくって、二言だけ告げる。
「作業はご安全に、だ。
救助する俺たちが、ケガしたら意味ないからな」
「うんっ」「了解っ」「いくぜっ」
(── 俺たちの救出活動は、これからだ!!)
アット先生一行の、これからの救助活動にご期待下さい!!
! 作者注 !
おわりません。
ちゃんと続きます。