060話ヨシ! 試験(4)ロングネック再び
はぁ~い、異世界転生オーラ修行者のアット君です!
今日は仲のいい友だち3人と、巨大魔物ロングネックの巣窟に来ています☆
みんなの前で、カッコ良くハンティングできるかなぁ?
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さあ、アット君の魔物ハンティングチャンネル、今日も元気に行ってみよう!!
── ぶっちゃけ、俺としてはそのくらいの軽い気分。
なのにみんなは、やたらと深刻な顔をする。
(いや、大丈夫だって、みんな……)
「あ、あの……アット君?
さっき、なんか、今度の試験とか、お手本とか……
さっき、なんか、そんなこと言ってなかった……?」
やたらと上ずった声は、フォル。
もう、相変わらず心配性だなぁ。
よし、明るく元気づけてあげよう。
「大丈夫、ダイジョーブっ」
「な、何がダイジョーブなんだよぉ!?
あ、あ、あんなの!
ゼンッゼン! ちっとも! ダイジョーブじゃないだろぉ!」
ちょっと興奮気味のマッシュなんて、飛ばすツバが泡みたいになってる。
ちょっとカニみたいだな。
俺は、少し笑いそうになるのをこらえて、マッシュにフォロー。
「ビビるなビビるなって、マッシュ。
ちょっと最近、魔物に苦手意識できてるのは解るけど。
お前のほら、さっきの技、『木の葉落とし』の方がずっとスピード速いからさ?」
マッシュの技、マジで見切れないから、カンで避けるしかないし。
それに比べれば、【瞬瞳:二重】のスロー再生でなんとか見切れるロングネックの首伸ばし攻撃の方が、大分対処がしやすいし。
なにより、リーチが長い分、避けるまでの余裕もある。
「い、いいよ、そんな変なホメかたしなくても!
だいたい、あんなの、ゼッタイ倒せないだろ!?」
「いや、だから、ちゃんと手本見せるって。
流石にアイツ相手は、攻略法知ってないと、みんなケガしちゃうもんな?」
俺はそう言い置くと、剣は隠すように背負って、森の奥へと駆け出す。
「── あ、アット君! そっち行っちゃダメぇ!」
「キャァーッ も、もどってぇ、はやく、危ないっ」
「アット死ぬぞ! 姉ちゃん泣くぞ! もどれぇー!」
ちらりと振り返ると、オーラ教室の生徒さん3人ともが、ムンクの絵みたいな顔で叫んでいた。
▲ ▽ ▲ ▽
(ハッハッハッ、みんな心配性だなぁ……)
俺はワザと、テレテレ中途半端な速度で走る。
なんか 『魔物から逃げてきた』 みたいな感じがあった方が食いつきが良いからだ。
この辺り、疑似餌を使った釣りに似ているのかもしれない。
しかし、視線は油断せず、チラチラと【瞬瞳:二重】に何度も切り替えながら、望遠・暗視・オーラ観測の機能で森の奥の魔物の様子を伺う。
さっき飛猿魔を丸呑みにしたヤツとは別の個体が反応した。
魔物特有の赤黒いオーラを、ギュッと凝縮して長首を縮め、俺が射程圏内に入るのを待っている。
(── おっしゃ、来いやぁ! 返り討ちだぜ!)
俺は、両手の輝甲の下に、超高密状態のオーラを無理矢理ねじ込む。
ググッと一瞬の抵抗のあと、ドンッとオーラが注ぎ込まれ、両腕にすさまじい筋力がみなぎる。
それを待って、一気に前に飛び込んだ。
同時に【瞬瞳:二重】を発動しっぱなしにして、魔物の攻撃に備える。
巨大白蛇のような頭部が、スロー再生の視界でも、結構なスピードで迫ってくる。
(ちょと前ならテンパったかもしれないけど、最近はなぁ。
マッシュの卑怯技・『木の葉落とし』 の対策している内に、超スピード攻撃に慣れてきたからなぁ……)
そんな事を考える余裕すらある。
だから、2年前の時みたいに、視界の超強化・仮称【瞬瞳:三重】まで使わなくて充分だ。
開ききった巨大白蛇の大口に、つっかい棒をする要領で、上下に手を伸ばす。
── ガァ……!?
魔物の口の奥から、驚いたような吐息が漏れる。
「── オラっ!」
【超強化モード】の筋力を全開にして、巨大白蛇の上顎も下顎も、ひっくり返すように折りたたむ。
ベキベキベキ……と大木が切り倒されるような音が響いた。
「さらにぃ!」
俺は、巨大白蛇の頭部を投げ捨てると同時に、背中の 『鉄製試作大剣ドラゴン殺し・小型版』 を抜刀。
(── ん、抜刀って剣でもいうのかな? まあ、いいや……)
ジャンプして風車のように回転して、斬りつける。
一撃で、蛇首が落ちる。
「── そして、念のため首をたどって胴体に止め!」
俺は、ちらりと後ろで見守っている3人に目を向け、大声を手順を教えておく。
すぐさま、20mほど先にある胴体へ、【身体強化】の全力ダッシュを開始した。
▲ ▽ ▲ ▽
無事、限界突破試験と、次のお手本が終わった。
城郭内にもどった時は、積もった雪が夕暮れで真っ赤だ。
休日の昼食後に出発していたのに、なんだかんだで3時間以上かかったみたいだ。
そのせいもあってか、アット君オーラ教室の生徒さん3人は、ちょっとヘロヘロな感じ。
あと多分、慣れない事をした緊張もあるんだろう。
(これは、明日はオーラ教室をお休みした方がいいかな……?)
帰宅の足取りまで、割とグッタリだ。
そんな、疲れてダラダラと歩き、雪に足あと付けて家に戻っている最中。
マッシュが、フォルに何か話しかけていた。
「── なあ、フォル。
アットさあ、オレの『木の葉落とし』がズルいとか、ヒキョーとか、防げない技つかうなとか。
そんな文句ばっかり言うんだよ」
「うん」
「そのクセ、最近オレの『木の葉落とし』よけるんだよ」
「うん、割とよけるよね」
「そうなんだよ。
半分くらいよけるクセに、『防げない技』 って文句いわれるの、なんかチガくない?」
「そうだね」
「…………」
「……ねえ、マッシュ君。
ボクもちょっと聞いてほしいんだけど」
「うん」
「アット君さあ、最近ボクに、『才能があるヤツはいいよなぁ』 とか言うんだけどさ」
「うん」
「ボク、アット君くらい説明に困る人、知らないんだよね……」
「うん」
「ボクのお父さんとか、お姉ちゃんとか、いまだにアット君のびっくりなエピソード信じてくれないんだよね。
そんなムチャクチャな子どもが居るわけがない、って。
フォルは武門の家系を誤解している、とか毎回言われるんだけど、さぁ」
「うん、ムチャクチャだもんな」
「そうだよね。
そんなムチャクチャな人に、才能がどうとか言われたくないよね?」
「そうだな」
「…………」
「アットだもんなぁ」
「アット君だもんねぇ」
「── アット君って、理不尽のかたまりだよねぇ。
今日とかもう、わたし、頭いたくなっちゃった……」
最後には、いままで黙って聞いてた紅一点・タードちゃんも、話に加わったみたいだ。
── あ、俺?
俺は、回収したばかりのロングネックの『角』を見ながら、
(やっぱ、『角付きの武器』 ── 『魔物特攻装備』 があると違うなぁ。
超楽チンだぜ。
うっひょひょぉ~、新しい『角』GETぉおお!
さあ、次はどんな武器作ってもらおうかなっ
やっぱり、中二病をくすぐる最上位品な日本刀かなぁ……
いやいや、硬い甲羅とか装甲砕くなら、いっそ大きな斧みたいな武器もいいな……)
と、次に発注する武器を妄想するのに忙しい。
── だから、
「ねえ、アット君が物置小屋より大きな魔物やっつけた、とか。
だれに言ってもゼッタイ信じないよね……?」
「なんで、ひとりで倒しちゃうかな……
なんで、ひとりで倒せちゃうかな……」
「オレ、まだクマも倒せる気がしなんだけど……」
「クマ?」
「クマって何?」
「アレアレ、アットがワナにぶら下げてた、生肉」
「あの、兵士のオジさんの倍くらい大きい、アレ?」
「そうそう、アットがひとりで狩って、持ってきた」
「なんで、ひとりで狩っちゃうかな……
なんで、ひとりで狩れちゃうかな……」
── みんなの話もほとんど耳に入ってこない。
何をそんなに盛り上がっているかも、気にならなかった。