059話ヨシ! 試験(3)新装備はハクスラの醍醐味
さて、狩猟アクションの名作ゲーム・モン▲ンの話をしよう。
またか、とか言わず、飽きずに聞いて欲しい。
名作モン▲ンの醍醐味の一つは、自己強化だ。
モンスターを狩る
↓
装備を作る
↓
強いモンスターを狩れるようになる
↓
強い装備を作れるようになる
↓
もっと強いモンスターを狩れるようになる
↓
もっと強い装備を作れるようになる
…………
………
……
この、プラスの循環。
自己強化と戦闘の、無限螺旋階段。
やがて 『モンスターを狩るための素材集め』 が 『素材を集めるためのモンスター討伐』 という逆転現象になってしまう訳だ。
こういう一連の流れというか、ゲームジャンルが『ハック&スラッシュ』というヤツ。
(でも、ハクスラって英語を直訳すると 『切って斬る』 みたいな感じなんだが。
一体、どういう経緯でこんな名前になったのか……)
── さて。
この話が何の関係があるかといえば、念願の俺のマイ武器!
新品、おろしたて!
「── シャキーン☆
鉄製試作大剣ドラゴン殺し・小型版!」
名前で大体の予想が付くだろうが、肉厚な幅広刃の剣だ。
だが、刃渡り1m未満(70cmくらい)なので、今ひとつ『大剣』という印象がない。
なんか、巨人が持つ短剣を、子どもが持っているみたいな感じになっちゃう。
だけど、8歳児の身体(約120cm)で構えるとなると、バランス的にはこれが精一杯なんだよ。
(型取り用の模造剣を振り回したら 『自分が吹っ飛ぶ』 とか、思いもしなかった……)
それに、あんまり刃部分が長いと、剣を構えただけでひっくり返ってしまうし。
具体的に言うと、剣を斜め上に向けてるときはいいけど、真横に向けるとバランス崩れる。
筋力だけではどうにもならない。
リアル戦闘における、自重の大切さを思い知らされてしまった。
そのため、しぶしぶサイズ変更。
マッシュみたいな空気読めない子には
『大剣? 小型? 結局どっちなんだよ、それ……』
とか突っ込まれる始末。
なお、マイ武器の原材料は、赤いマスク熊(成獣)の 『角』だ。
数ヶ月前に、マッシュの熊リベンジマッチに乱入してきた、あの母モンスターの戦利品。
── あのリベンジマッチ(討伐失敗)の直後、マッシュから 『角付き武器』 の事を聞き出した。
なんでも、魔物にはオーラを操るアンテナ的な部位があって、それが『魔物の角』と呼ばれるらしい。
これを材料に武器製造すると、魔物のオーラ耐性のある武器ができるらしい。
つまり、『武器除けの煙幕』を切り裂き、魔物の輝甲をも破壊できる。
いわば『魔物特攻』という感じの、スペシャルな武器な訳だ。
さらに、強くて長生きな魔物の『角』を材料にした方が、『魔物特攻』 がアップするらしい。
そして、強い魔物を倒すためには、高い『魔物特攻』武器が必要らしい。
── 以上が、マッシュが語った、兵器開発部門にお勤めなマッシュパパからの受け売り情報だ。
(── なんという、モン▲ンな世界……
ここ『AR■Sっぽい世界』じゃなかったのかよぉ!?)
俺の剣の他に、マッシュ・フォル・タードちゃん3人の片刃短剣を1本ずつ造ってもらった上、さらに材料が半分くらい余ったらしい。
残り材料の売却分で、製造費は清算というお得さ。
(あの熊狩るだけで、金策できそうだな……
ヒマが出来たら、また狩りに行こうっ)
そんな話をすると、20代の職人さんにやたらイヤそうな顔をされたが。
▲ ▽ ▲ ▽
「よし、試し斬り終了!
じゃあ、今から次の限界突破試験 ── みんなが修行Lv40になった時のために、お手本を見せておくから。
次回までに、これが出来るように頑張ってね?」
俺は、アット君特製の『魔物おびき寄せ罠』(フレッシュな熊肉入りの巨大鳥かご) にしがみついている連中を、ほぼ片付ける。
いわゆる 『撫で切り』 状態だ。
とはいえ、無益な殺生はバチがあたる。
魔物とはいえ、命をムダにはしないよ。
きちんと使える部位を回収しておく。
小粒だけど、魔物の『角』が大量ゲットだ、ヒャッホイ!
あと、一応の供養も忘れない。
(クソザルども成仏しろよ、なーむー)
片手で 『鉄製試作大剣ドラゴン殺し・小型版』 を逆手に持ち、もう片手で祈りのポーズ。
もちろん、中二病的に格好付けてるだけ。
みんなに『カッコイイ』とか『スゲー』とか言われると期待していたら、
「アット君、すごいあっさり倒すよね、魔物なのに」
「ボクたち、1匹であんなに苦労したのに……」
「なんか、納得いかねえんだよなぁ……」
と、同行しているオーラ教室の生徒さん達は、何故か微妙な表情。
「………………」
── まあ、いい。
これからが本番だ。
そして、飛猿魔ラスト1匹をほどほどに弱らせ、コウモリ翼を 『×字状態』 にして拘束し、片手でぶら下げる。
ジャンプ靴の輝甲【弾動】で、飛び跳ねて向かう先は、森のもうちょと奥の方。
6歳の春に迷い込んだ、魔物生息地のど真ん中。
あの巨大白蛇みたいな長首魔物、ロングネックの巣窟だ。
森が鬱蒼としてきて、枝の密度が高くなった辺りで、ラスト1匹の飛猿魔を放す。
サル顔魔物は、さっき俺に一方的にボコボコにされたので、力の差を思い知ったようだ。
バタバタと必死にコウモリ翼を動かし、俺から離れようと森の奥を目指す。
それを見送っていると、100mも奥にいかない内に、白い影がイナズマのように伸びた。
── グェ……ッ ギギャァ!?
サル顔魔物が、巨大白蛇みたいな長首魔物に、丸呑みされていく。
「……な、なに、アレ……」
タードちゃんが、口元をひくつかせながら、声を絞り出す。
あー、女の子だと、ヘビとかハチュウ類とか苦手かな?
そう思った俺は、安心させようとちょっと優しく語りかける。
「この辺りのボスモンスターのロングネックってヤツ。
見ての通り、すごい勢いで首を伸ばして攻撃してくるんだよ。
デッカくてビックリだろ?」
「……………」
「……………」
「……………」
俺がそう端的に説明すると、3人が3人とも、無言で首を横に振るだけだった。
(修正履歴)
2021/05/09 一部加筆