058話ヨシ! 試験(2)野郎どもぉ気合い入れていけぇ
さて、お待ちどう、というのもアレだ。
多分、誰も待ってないだろうし。
さらっと流そう。
野郎のターン、開始である。
残る男ども2人の、限界突破試験の進捗状況をお知らせします。
▲ ▽ ▲ ▽
2番手、フォル君。
灰色髪のロングが似合う、マイ・リトル・現人神さま。
(いつも、オーラの開発相談にのっていただき、助かってます!
ありがとうございます!)
フォル君は上を向きながら、自分の背丈の3倍くらいの長槍を肩に担いで、空飛ぶ魔物とおっかけっこ。
対魔物の長槍術。
当家の兄直伝、エセフドラ家の伝統スタイルである。
(うん、主人公っぽさが欠片もない、狩りスタイルだな。
やっぱり無いわ、長槍術)
魔物の急降下は、スパパッ、と横に飛ぶような足裁きでかわす。
4度、5度と、飛猿魔の急降下攻撃をかわし続けると、魔物といえどスタミナ切れしてくる。
具体的には、急降下後のバサバサやる上空退避が、あきらかに鈍くなってくる。
そこで、フォルの担いだ長槍の出番だ。
疲れた羽ばたきをする魔物を、長槍でたたき落とすチャンスだ!
「── フゥッ!」
前方に駆け出すと同時に、槍の尻(柄の一番下)を地面に突き刺す。
そして、まるで 『槍の柄にタックルする』 みたいに肩で押し込み、長槍を押し倒す。
── エセフドラ家の長槍術・『跳ね槍』。
技のイメージとしては、棒高跳びの、棒で飛ばない感じか?
バアァン、とハデな音が響き、空飛ぶ魔物がたたき落とされた。
(……フォルって、マジで兄ちゃんに似た動きするよな。
そう考えると、割と槍の才能あるのかも……)
あれは、兄ちゃんが騎士養成校に入るまえくらいだったか。
兄ちゃんが、パパと狩猟隊所属の叔父さんに着いていって、デカいイタチの魔物を狩ってきた事がある。
その時に使ったらしい技が、今の技。
兄ちゃんの十八番、 『跳ね槍』 だ。
叔父さんに言わせれば、我が兄・バルシェッタは100年か200年に1人くらいの、槍の天才らしい。
まあ、身内のひいき目をぬきにしても、才能があるのは間違いないっぽい。
草食とはいえあんな大物の魔物を、子どもが仕留めるのは珍しいらしいし。
子煩悩なパパとか、記念品としてなめし革にして、今でも玄関の壁に飾ってある。
── 俺は 『成金の家にあるトラの絨毯みたい』 と思ったけど。
前世ニッポンの感性が残るせいか、少し悪趣味とも感じる。
俺が、この前ハンティングした、赤いマスク熊の成獣(母)とかもデカかったが、皮剥ぎ取って飾ろうとは思わないし。
まあ、でも、近所でも似たような物が飾ってあるもんな。
その家の子どもが初めての魔物狩りに成功したら、剥製にして飾るとか、そういう風習があるのかもしれない。
(武門だもんな、当家もご近所さんも……
叔父さんに言われるまで、魔物の肉を食ってるとは思ってなかったし……
たまに、やたら筋が硬くて味にクセのある、ナゾの肉が出されると思ったよ!
── アレ、魔物の肉かよ!?)
今日ここに来るときも、一般ご家庭のフォルとかタードちゃんとか、
『ええぇ、子どもが魔物を狩るの!? そんなの大丈夫!? 危なくない!?』
とか、やたらめったら驚いてたけど。
武門の家じゃ、普通フツー。
当家の兄ちゃんも昔やった事。
多分みんな、子どものうちに1回は殺ってる事。
だから、そんなに緊張しなくて、大丈夫だよ?
── そんな風に諭しつつ、城郭外の魔物生息域まで連れてきた。
「アット君! ボク、やったよぉ!」
俺が色々思い出していると、フォルが目を潤ませてガッツポーズしていた。
たたき落とした魔物を、きちんと止め刺したらしい。
見た目も性格も、虫一匹も殺せなさそうな優しい感じなんだが。
さすが人食い魔物がいる世界の子たちだ。
そういう所に、まるで躊躇がない。
前世ニッポンが、いかに平和ボケのぬるま湯世界だったかよく分かる、修羅っぷりである。
「フォル君、大丈夫だった?」
「うん、なんとか。
訓練を思い出したら、いけましたっ」
片思い乙女なタードちゃんが、赤髪を揺らして駆け寄り、タオルを差し入れる。
そして優男のイケメンが、汗を拭いながら、はにかんだ笑顔で答える。
── 思わず、イラっ☆ ときた。
兄が庭で訓練するたび、近所の幼女童女女子お姉様ご婦人老婦人が見学に押し寄せ、キャアキャア言われる光景を思い出した。
手加減してくれる兄に、弟の俺が勝ったりしよう物なら、ブーイングの嵐である!
── ああ、もう、みんな×ねば良いのに!
憎しみの念で人が殺せないのが、残念である。
拙者、キモオタ代表!
『天がイケメンだけに二物も三物も与えすぎ問題』 に対し、断固として異議申し立てする所存であります!
(転生神、才能さずける相手が偏ってるんですけどぉ!
おい紀伊店のか、転生神ぁ!?)
▲ ▽ ▲ ▽
修行Lv30の、限界突破試験も大詰め。
次が、ラストの3番手。
鶏みたいなトサカ髪の幼なじみ(♂)、マッシュである。
もうコイツなんて、結果だけで割愛したいくらいだ。
── 何故って?
見てたらわかるよ。
俺は、また同じように1kmくらい先の魔物の森の奥へ、試験用モンスターを捕まえに行く。
木の枝を飛び跳ねる、ハイスピード空中移動だ。
そして、アット君特製の『魔物おびき寄せ罠』(フレッシュな熊肉入りの巨大鳥かご) にしがみついている連中から1匹を選別。
(まあ、マッシュだから、1番デカいボスっぽいのでいいか……)
チビな飛猿魔から肉を取り上げていた、ドラ●もんの剛■武みたいなヤツをかっ攫う。
「── ほい、マッシュ。
お待たせ!」
「おいアット、そいつデカくない!?」
「デカいよ?
それが何か?」
まさかマッシュ、武門の家の子のくせに、飛猿魔くらいも倒せないの?(嘲笑)
一般ご家庭の、タードちゃんやフォルは頑張ったのに?(嘲笑)
俺がそんな顔をしていたら、変な髪の幼なじみ(♂)は腹をくくったらしい。
「ええい、くそぉ!
やってやるぅっ」
「じゃあ、試験開始、5秒前!
4・3・2・1 ── スタート!」
フェア精神の持ち主な俺は、結構な上空に飛び上がり、魔物を解放する。
「── ああ、もう、それ無しだろ!?」
(有りだよ。
何言ってんの、マッシュ。
でないとお前、秒で終わらせるだろ?)
俺が拘束用に使っていた、半熟オーラのゴム状腕甲(ぐるぐる巻き)を引っ剥がすと、魔物は 『あ~れ~、お代官様ぁ~』 みたいな感じになる。
── え、意味がわからんて?
おう……今の子は、『お代官様くるくる帯』 を知らないのか……。
世代間のすれ違いを感じる。
まあ、レーワになって時代劇なんて放送してないからなぁ(NHK大河ドラマをのぞく)。
── それはともかく。
はるか上空でコマみたいにクルクル回ったボス飛猿魔は、なんとか体勢を整えた。
そして、森林の緑にぽっかり空いた20mの円の中に立つ、マッシュをみつけて、牙を剥く。
(おお、ご飯ジャマされて、いい感じに怒ってる。
コイツは期待できそう)
ボス飛猿魔は、小柄なゴリラというくらいの恵体で、急降下攻撃の迫力も半端ない。
「── うおぉっ、っと!」
思わずマッシュも、地面を転がり回避。
ボス飛猿魔は、両脚の爪を立てて、地面を削りながら飛行機っぽい着陸。
距離を取ったマッシュに向き直ると、怒ったサルみたいに飛び跳ねて怒りを示す。
そして、翼をばたつかせながら、太い足で地面を蹴って突撃 ──
(── ああ、それはイカンっ
悪手だって、剛■武っぽいヤツ!)
すると、案の定。
「── ヒュゥ……ッ」
マッシュが、目を細め、呼吸を深くする。
両手を腰の高さで左右に開き、手の平を上に向けて軽く開く。
それに対して、ボス飛猿魔はあいかわらずの、無策な突撃。
威嚇の声を上げながら、全力前進。
── ギャァギャァ、ギャァ!
(ギャアギャアじゃねえよ、バカ魔物……
ひとがせっかくお膳立てしたのに、瞬殺じゃねえか……)
俺は、内心悪態をついて、ため息。
突進してくる魔物との距離が5mほどに縮まった瞬間 ──
── マッシュが、カッと目を見開く。
その瞳には、青いオーラの光。
4種機能のフルスペック版、【瞬瞳:二重】が発動している。
「── ハァっ!」
マッシュの気合いの声。
それから先は、俺にも残像しか見えない。
マッシュと同じように【瞬瞳:二重】を発動し、スロー再生状態で観察しているのに。
だから、いまだにマッシュの 『この技』 の手順が解らない。
── 技の結果だけ言えば、こうだ。
マッシュは、180度反転した前屈姿勢でしゃがみ込んでいる。
ボス飛猿魔は、マッシュ向いた数m先で、地面に叩き付けられている。
(やっぱりなぁ……
マッシュのヤツ、一瞬で試験終了させやがった…)
▲ ▽ ▲ ▽
マッシュの完全オリジナル技。
その名も 『木の葉落とし』!
当初マッシュは、空中を自在に飛ぶ俺に攻撃するために、【鉤縄】 ── つまり半熟オーラの腕甲で ── 拳打をしようと考えたらしい。
(── そいつは、俺も一度は通った道だ……)
そして結局、少年ジャ●プの某ゴム人間ヒーローの得意技・『ピストル拳』 の再現は、この世界のオーラ技術では無理と気づくのだ。
だが、マッシュは、そこで諦めなかった。
打撃がダメなら投げ技、と思ったらしい。
さらに、マッシュん家は、白兵戦の名手の家系。
武器以外に、素手の組み手もお家芸らしい。
マッシュパパから、素手格闘技の指導を受け。
やめとけっていう先達(俺)の忠告を無視し。
庭木の葉っぱを【鉤縄】で1枚ずつ千切るとか、精神論全開のムダっぽい訓練を半年ほど。
── その結果が、これ。
超スピードで半熟オーラ腕甲を伸ばし、一瞬で数m先の相手をぶん投げる。
有り得ないような防御不可攻撃が、完成してしまった。
── 無敵じゃん!?
初めて食らった時の、俺の感想だ。
(マッシュお前なぁ!
そういう最強っぽい技ってのはなぁ、主人公特権ってヤツだぞ!?
なんでチンピラな髪型してる脇役が、そういうの習得しちゃいますかね!?
── おいコラ転生神ぁっ、重大な不具合発生してんぞ、修正はやくしろ!
今すぐ詫び石よこせ!)