表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/68

058話ヨシ! 試験(2)野郎どもぉ気合い入れていけぇ

さて、お待ちどう、というのもアレだ。


多分、誰も待ってないだろうし。

さらっと流そう。


野郎のターン、開始である。

残る男ども2人の、限界突破試験の進捗(しんちょく)状況をお知らせします。





▲ ▽ ▲ ▽



2番手、フォル君。

灰色髪のロングが似合う、マイ・リトル・現人神(あらびとがみ)さま。



(いつも、オーラの開発相談にのっていただき、助かってます!

 ありがとうございます(アザァース)!)



フォル君は上を向きながら、自分の背丈の3倍くらいの長槍を肩に担いで、空飛ぶ魔物とおっかけっこ。


対魔物の長槍術。

当家(ウチ)の兄直伝、エセフドラ家の伝統スタイルである。



(うん、主人公っぽさが欠片もない、狩りスタイルだな。

 やっぱり無い(ねー)わ、長槍術(アレ)



魔物の急降下は、スパパッ、と横に飛ぶような足裁きでかわす。


4度、5度と、飛猿魔の急降下攻撃をかわし続けると、魔物といえどスタミナ切れしてくる。

具体的には、急降下後のバサバサやる上空退避が、あきらかに(トロ)くなってくる。


そこで、フォルの担いだ長槍の出番だ。

疲れた羽ばたきをする魔物を、長槍でたたき落とすチャンスだ!



「── フゥッ!」



前方に駆け出すと同時に、槍の尻(柄の一番下)を地面に突き刺す。

そして、まるで 『槍の柄にタックルする』 みたいに肩で押し込み、長槍を押し倒す。



── エセフドラ家の長槍術・『()(やり)』。



技のイメージとしては、棒高跳びの、棒で飛ばない感じか?

バアァン、とハデな音が響き、空飛ぶ魔物がたたき落とされた。



(……フォルって、マジで兄ちゃんに似た動きするよな。

 そう考えると、割と槍の才能あるのかも……)



あれは、兄ちゃんが騎士養成校に入るまえくらいだったか。

兄ちゃんが、パパと狩猟隊所属の叔父さんに着いていって、デカいイタチの魔物を狩ってきた事がある。


その時に使ったらしい技が、今の技。

兄ちゃんの十八番(おはこ)、 『()(やり)』 だ。


叔父さんに言わせれば、我が兄・バルシェッタは100年か200年に1人くらいの、槍の天才らしい。

まあ、身内のひいき目をぬきにしても、才能があるのは間違いないっぽい。


草食とはいえあんな大物の魔物を、子どもが仕留めるのは珍しいらしいし。

子煩悩なパパとか、記念品としてなめし革にして、今でも玄関の壁に飾ってある。



── 俺は 『成金の家にあるトラの絨毯みたい』 と思ったけど。


前世ニッポンの感性が残るせいか、少し悪趣味とも感じる。

俺が、この前ハンティングした、赤いマスク熊の成獣(母)とかもデカかったが、皮()ぎ取って飾ろうとは思わないし。


まあ、でも、近所でも似たような物が飾ってあるもんな。

その家の子どもが初めての魔物狩りに成功したら、剥製(はくせい)にして飾るとか、そういう風習があるのかもしれない。



武門(ばんぞく)だもんな、当家(ウチ)もご近所さんも……

 叔父さんに言われるまで、魔物の肉を食ってるとは思ってなかったし……

 たまに、やたら筋が硬くて味にクセのある、ナゾの肉が出されると思ったよ!

 ── アレ、魔物の肉かよ!?)



今日ここに来るときも、一般ご家庭のフォルとかタードちゃんとか、

『ええぇ、子どもが魔物を狩るの!? そんなの大丈夫!? 危なくない!?』

とか、やたらめったら驚いてたけど。



武門の家じゃ、普通フツー。

当家(ウチ)の兄ちゃんも昔やった事。

多分みんな、子どものうちに1回は()ってる事。


だから、そんなに緊張しなくて、大丈夫だよ?


── そんな風に諭しつつ、城郭外の魔物生息域まで連れてきた。



「アット君! ボク、やったよぉ!」



俺が色々思い出していると、フォルが目を潤ませてガッツポーズしていた。


たたき落とした魔物を、きちんと(とど)め刺したらしい。

見た目も性格も、虫一匹も殺せなさそうな優しい感じなんだが。


さすが人食い魔物がいる世界の子たちだ。

そういう所に、まるで躊躇(ちゅうちょ)がない。


前世ニッポンが、いかに平和ボケのぬるま湯世界だったかよく分かる、修羅っぷりである。



「フォル君、大丈夫だった?」


「うん、なんとか。

 訓練を思い出したら、いけましたっ」



片思い乙女なタードちゃんが、赤髪を揺らして駆け寄り、タオルを差し入れる。

そして優男のイケメンが、汗を拭いながら、はにかんだ笑顔で答える。



── 思わず、イラっ☆ ときた。



兄が庭で訓練するたび、近所の幼女童女女子お姉様ご婦人老婦人が見学に押し寄せ、キャアキャア言われる光景を思い出した。


手加減してくれる兄に、弟の俺が勝ったりしよう物なら、ブーイングの嵐である!



── ああ、もう、みんな×()ねば良いのに!



憎しみの念で人が殺せないのが、残念である。



拙者(せっしゃ)、キモオタ代表!

『天がイケメンだけに二物(にもつ)三物(さんもつ)も与えすぎ問題』 に対し、断固として異議申し立てする所存であります!



転生神(かみさま)、才能さずける相手が(かたよ)ってるんですけどぉ!

 おい紀伊店(きいてん)のか、転生神(かみさま)ぁ!?)




▲ ▽ ▲ ▽



修行Lv(レベル)30の、限界突破試験も大詰め。


次が、ラストの3番手。

鶏みたいなトサカ髪の幼なじみ(♂)、マッシュである。


もうコイツなんて、結果だけで割愛したいくらいだ。


── 何故って?

見てたらわかるよ。



俺は、また同じように1kmくらい先の魔物の森の奥へ、試験用モンスターを捕まえに行く。

木の枝を飛び跳ねる、ハイスピード空中移動だ。


そして、アット君特製の『魔物おびき寄せ罠』(フレッシュな熊肉入りの巨大鳥かご) にしがみついている連中から1匹を選別。



(まあ、マッシュだから、1番デカいボスっぽいのでいいか……)



チビな飛猿魔から肉を取り上げていた、ドラ●もんの剛■武(ジャ●アン)みたいなヤツをかっ(さら)う。



「── ほい、マッシュ。

 お待たせ!」


「おいアット、そいつデカくない!?」


「デカいよ?

 それが何か?」



まさかマッシュ、武門の家の子のくせに、飛猿魔くらいも倒せないの?(嘲笑(ププッ)

一般ご家庭の、タードちゃんやフォルは頑張ったのに?(嘲笑(ププッ)



俺がそんな顔をしていたら、変な髪の幼なじみ(♂)は腹をくくったらしい。



「ええい、くそぉ!

 やってやるぅっ」


「じゃあ、試験開始、5秒前!

 4・3・2・1 ── スタート!」



フェア精神の持ち主な俺は、結構な上空に飛び上がり、魔物を解放(ポイ)する。



「── ああ、もう、それ無しだろ!?」



(有りだよ。

 何言ってんの、マッシュ。

 でないとお前、(びょう)で終わらせるだろ?)



俺が拘束用に使っていた、半熟オーラのゴム状腕甲(ぐるぐる巻き)を引っ剥がすと、魔物は 『あ~れ~、お代官様ぁ~』 みたいな感じになる。



── え、意味がわからんて?


おう……今の子は、『お代官様くるくる帯』 を知らないのか……。

世代間のすれ違いジェネレーション・ギャップを感じる。

まあ、レーワになって時代劇なんて放送してないからなぁ(NHK大河ドラマをのぞく)。



── それはともかく。

はるか上空でコマみたいにクルクル回ったボス飛猿魔は、なんとか体勢を整えた。

そして、森林の緑にぽっかり空いた20mの円の中に立つ、マッシュをみつけて、牙を()く。



(おお、ご飯ジャマされて、いい感じに怒ってる。

 コイツは期待できそう)



ボス飛猿魔は、小柄なゴリラというくらいの恵体(けいたい)で、急降下攻撃の迫力も半端ない。



「── うおぉっ、っと!」



思わずマッシュも、地面を転がり回避。

ボス飛猿魔は、両脚の爪を立てて、地面を削りながら飛行機っぽい着陸(ランディング)


距離を取ったマッシュに向き直ると、怒ったサルみたいに飛び跳ねて怒りを示す。

そして、翼をばたつかせながら、太い足で地面を蹴って突撃 ──



(── ああ、それはイカンっ

 悪手だって、剛■武(ジャ●アン)っぽいヤツ!)



すると、案の定。



「── ヒュゥ……ッ」



マッシュが、目を細め、呼吸を深くする。

両手を腰の高さで左右に開き、手の平を上に向けて軽く開く。


それに対して、ボス飛猿魔はあいかわらずの、無策(のうきん)な突撃。

威嚇の声を上げながら、全力前進。



── ギャァギャァ、ギャァ!



(ギャアギャアじゃねえよ、バカ魔物……

 ひとがせっかくお膳立てしたのに、瞬殺じゃねえか……)



俺は、内心悪態をついて、ため息。



突進してくる魔物との距離が5mほどに縮まった瞬間 ──

── マッシュが、カッと目を見開く。


その瞳には、青いオーラの光。

4種機能のフルスペック版、【瞬瞳(しゅんどう)二重(ふたえ)】が発動している。



「── ハァっ!」



マッシュの気合いの声。

それから先は、俺にも残像しか見えない。

マッシュと同じように【瞬瞳(しゅんどう)二重(ふたえ)】を発動し、スロー再生状態で観察しているのに。


だから、いまだにマッシュの 『この技』 の手順(プロセス)が解らない。



── 技の結果だけ言えば、こうだ。


マッシュは、180度反転した前屈姿勢でしゃがみ込んでいる。

ボス飛猿魔は、マッシュ向いた数m先で、地面に叩き付けられている。



(やっぱりなぁ……

 マッシュのヤツ、一瞬で試験終了させやがった…)





▲ ▽ ▲ ▽



マッシュの完全オリジナル技。

その名も 『()()()とし』!



当初マッシュは、空中を自在に飛ぶ俺に攻撃するために、【鉤縄(かぎなわ)】 ── つまり半熟オーラの腕甲で ── 拳打(パンチ)をしようと考えたらしい。



(── そいつは、俺も一度は通った道だ……)



そして結局、少年ジャ●プの某ゴム人間ヒーローの得意技・『ピストル拳』 の再現は、この世界のオーラ技術では無理と気づくのだ。



だが、マッシュは、そこで諦めなかった。

打撃がダメなら投げ技、と思ったらしい。


さらに、マッシュん家(ペスヌドラ家)は、白兵戦の名手の家系。

武器以外に、素手の組み手もお家芸らしい。


マッシュパパから、素手格闘技の指導を受け。

やめとけっていう先達(俺)の忠告を無視し。

庭木の葉っぱを【鉤縄(かぎなわ)】で1枚ずつ千切るとか、精神論全開のムダっぽい訓練を半年ほど。



── その結果が、これ。

超スピードで半熟オーラ腕甲を伸ばし、一瞬で数m先の相手をぶん投げる。

有り得ないような防御不可攻撃が、完成してしまった。



── 無敵(チート)じゃん!?



初めて食らった時の、俺の感想だ。



(マッシュお前なぁ!

 そういう最強っぽい技ってのはなぁ、主人公特権ってヤツだぞ!?

 なんでチンピラな髪型してる脇役が、そういうの習得しちゃいますかね!?

 ── おいコラ転生神(かみさま)ぁっ、重大な不具合発生してんぞ、修正はやくしろ!

 今すぐ()(いし)よこせ!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ