057話ヨシ! 試験(1)狩猟ゲーって楽しいよね
ちょっとだけ、狩猟ゲームの話をしよう。
俺の前世ニッポンで、ヘーセイからレーワにかけて大ヒットを続けた名作ゲーム。
あの、竜とかハンティングする某アクションゲーム。
── カプ■ン社のモン▲ンの話だ。
初めてプレイする人は、意外とリアリティがある世界感に驚かされるだろう。
生態系、環境、昼夜があり、登場モンスターにも習性がある。
時に、プレイヤーそっちのけでモンスター同士が縄張り争いを始めたり、なんて事も起こる。
初プレイの時も特に驚くのは、 『無害な草食動物を殺傷し、生肉を獲得して来い』 という初期の課題だ。
ショックを受けて、そのままゲームから脱落するプレイヤーもいるらしい。
現実では当たり前の事。
鶏肉や牛肉が、突然空中から雪のように降ってくる訳がない。
魚の切り身が、海を泳いでいる訳もない。
── 生きる、という事の厳しさを教えてくれる。
それが、ヘーセイとレーワの名作、モン▲ンなのだ。
まあ、さっきの話も、プレイした事ある人からすればおなじみだろう。
『ポポ肉を獲って来い』というアレ。
みんな、色々な感傷があると思う。
俺の場合は、不満が一杯。
思い出す度に、苛立ちを覚えてしまう。
(── カプ■ンの野郎ぉ……っ
『ポポの肉』 とか言うから、ひたすら樹木や森の中を探したじゃんか!
『ポポ』 が果物じゃなくて、動物って事ぐらい、最初にちゃんと教えてくれよ!)
前世ニッポンでの俺の故郷とか、家の周りにポポ(!注意:実在するフルーツの名前!)の樹が一杯あったから、完全に 『ポポの肉 = 果肉』 と思ってたもんな。
(── 例えば、『レモンの肉』 とか言われたら 『果肉かな?』 とか思うだろ!?
そういうレベルの紛らわしさだぞ!)
架空のモンスターの名前付けるとき、もうちょと考えろよ!
通称『幻のフルーツ』に対する差別犯罪だぞ、制作企業カプ■ン社は謝罪しろ!
ネットリ甘くてクセ(アク?)がある別名アケビガキさん、ディスってんのか!?
(ちょっと、オンライン協力プレイが最高に楽しいからって。
ちょっと、1作のプレイが2000時間越えるくらいハマるからって
ちょっと、社会現象になって廃人ゲーマー量産した超名作神ゲーだからって。
ちょっと、受験生の天敵な電子麻薬だからって、調子のってんなよ!
── 転生した今でも、アタイ、貴作の事が忘れられないの!!)
前世ニッポンの幼少期に食べ慣れた、あの味。
思い出す度に、そんな義憤にも似た激情に駆られる。
(── ああ、狩猟アクションの新作ゲームとかやりてーな、ちくしょー。
誰か、最新ゲーム機を持ったまま異世界転生してくれないかなぁ……)
── 異世界住人は、最新ゲーム機を持って転生してくる、勇敢な若者をお待ちしております!
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▲ ▽ ▲ ▽
それはさておき。
「ハンター試験を始める!」
雪が軽くぱらつく空の下、俺は威厳のある声を張り上げる。
「……ハンターって、ボクら狩猟隊になるの?」
フォルの、ごもっともな指摘。
「いや、狩猟隊は目指さないけど……」
単に 『初心者向けハンター教官ごっこ』 で格好付けただけなので、軽くスルーしてもらいたい。
ああ、最近なんだか 『モン▲ン中毒の禁断症状』 が出てるな。
部位破壊とか、モンスター狩猟の事ばっかり考えてた弊害だろうか。
ゲーム脳は危険です、気をつけましょう!
「とりあえず。
修行Lv30の、限界突破試験を開始しますっ」
イエーイ! ドンドンドン、パフパフ!(SEが古い)
ひとり盛り上がるハンター教官(俺)に対して、生徒さん達は全く盛り上がらない。
むしろ盛り下がって、視線すら冷たくなってる。
── 場所が、冬の森だけに!(得意顔)
「……おい、アット。
本当にオレたち、魔物なんて狩るのか……?」
不安そうな幼なじみ(♂)マッシュ。
赤いおべべ熊さんとの追っかけっこが、若干トラウマになってるらしい。
「いや、大丈夫だって。
今回の魔物は、弱いヤツ。
俺が2年くらい前に、サクッとやったヤツだし。
6歳の頃の俺にできたんだから、8歳のみんなには余裕でしょ?」
そういう風に、武門らしく、ガハハハと励ます俺。
「アットができたから、ヤレって言われてもなぁ……」
「そうだね、ボクらにアット君と同じ事を求められても……ねえ」
「うん、わたし達、普通の人間なので……」
「………………」
(あっれー、おっかしいなぁ?
みんなの反応が、ちょっと変だなぁ……
── 『じゃあ大丈夫だね』 『余裕よゆー』 とか盛り上がる所じゃない?
── 『よっしゃあ、日頃の修行の成果をみせてやる』 みたいな感じになる所じゃない?)
城郭外の雪降る冬の森の中。
そんなグダグダな感じで、小型魔物・飛猿魔ハンティング実習が始まった。
▲ ▽ ▲ ▽
アット君オーラ教室の紅一点が、手を上げた。
「じゃあ、わたしから行きます!」
まず1番手は、タードちゃんだ。
利発な赤髪少女は、割とイケイケ・タイプ(表現が古い)。
男共が尻込みしている事を、パパッとやっちゃうタイプ。
ちょっと男子ぃ、って感じだ。
特攻女子、である。
なめたらあかんぜよ、である。
将来はきっと肝っ玉母ちゃん、である。
俺はそんなバカな事を考えながらも、あらかじめ用意したエサ場へ急行。
大木に吊された巨大鳥かごみたいな罠の中には、血の滴る熊肉。
そこに、飛猿魔が群がっている。
いつかの、両腕がコウモリ翼になったサル顔な、人間の子どもサイズの魔物だ。
その中から、小ぶりなヤツを1匹捕まえる。
半熟オーラの腕甲でグルグル巻きにすると、ラグビーボールのように小脇に抱えて搬送。
1kmほど戻った、タードちゃんの前で、ポイって放り出す。
「い、行きますっ」
ちょっと、おっかなビックリしている(かわいい)。
(はぁ……
これでフォル君ラブでなければ、アット君ヒロインハーレムにお迎えするのに……残念)
本人が、隠してるつもりなのが、また。
はたで見ていて、いじらしいというか。
(── クソがぁ!
転生神、俺のヒロインまだですか!?
早急な人材補充が待たれる所ですよ!)
俺がそんなバカな事を考えている内に、タードちゃんは大木の枝に【鉤縄】で登り上がり、片刃ナイフを逆手持ちに構える。
なお、闘技場 ── じゃなかった、限界突破試験の会場は、枝や木が少ない場所を厳選。
森の中でちょっと開けた、半径20メートルくらいの空白地帯。
修行Lv30の生徒さんだと、ジャンプ靴【弾動】や【鉤縄】の空中移動で、なんとか届く距離だ。
つまり、空中戦にはもってこいの、試験会場。
タードちゃんはイタチのように、木の枝と枝を飛び回り、魔物の側面に回り込もうとする。
だが、食事を邪魔され気が立っている魔物の方が、先手を取った。
── ギギィッ!
バサバサって翼をはためかせて急上昇すると、一気に反転し急降下。
大木の枝をかいくぐって、イタチのように走る赤髪少女へ襲いかかる。
危うし、タードちゃん!
「ひゃ……っ」
だが、とっさに大木を盾にして、上手くかわす。
── そして、同じ流れがもう一度繰り返された時。
タードちゃんは、【弾動】を発動して大木の枝を蹴り、大ジャンプで魔物へ飛びかかる。
飛燕魔は、急降下から体勢を立て直す低空飛行の最中で、かわす事もできない。
「── やぁっ」
片刃ナイフが、一閃。
魔物の翼付き腕を、片方切断。
後は、地面に落下して藻掻いている、飛べない魔物を始末するだけ。
タードちゃん、難なくクリア。
「── 勝利!」
笑顔ピース、かわいい(かわいい)。