055話ヨシ! 逆襲のクマぁ
秋も深まり、風の涼しい河原。
紅葉する山並みが、小川のせせらぎに映っている。
そこでは、水面を波立て、小動物と戯れる子ども。
動画サイトに投稿したら、10万再生くらいはカタそうなシチュエーション。
だというのに、肝心の幼児本人はちっとも楽しんでいない。
「いやぁぁぁ、しぬぅうううっ」
涙まみれの、とっても酷い表情。
俺ことアット=エセフドラは、わがまま炸裂しちゃってるマッシュへ、声援を飛ばす。
「おっし、行けマッシュ!
そこだ、まずは足をすくってぶっ倒せ!
あとは、1年前に俺がやった方法を思い出せば、いけるいけるっ」
「ムリだぁああっ
何言ってんのぉ、アァァ~ットォォォ~~!」
マッシュの絶望顔に、鼻水が炸裂した。
この世の終わりみたいな顔をしている。
全く、大げさな、
俺は、『フーやれやれ』 と肩をすくめながらも、拳を上げて応援を続ける。
気分としては、『公園で鉄棒の逆上がりを指導している、休日のお父さん』 だ。
「ビビるなビビるな、イケるって、やれるって!」
「くわれるっ
くわれるぅぅっ」
「あー、逃げるなってっ
ソイツ足速いんだから、背中向けるなってっ」
「にげるわ、アホー!
こんなのに勝てるか、バカー」
トサカ頭の男児は、涙目で振り返り、毛むくじゃらを指差す。
場外ファイトの相手は、小ぶりなクマさんである。
親離れしたかどうかくらいのヤツを、さっき俺が森で厳選して攫ってきたばかり。
赤いマスクが、まあ可愛い。
赤ちゃんのよだれ掛けみたい!
そんなユル萌えな小動物が、ガア!って叫んだくらいで涙目とか、マッシュまじでザコ(ププッ)。
前世ニッポンの英雄、金太郎さんなら秒でK.O.してんぜ?
「大丈夫、大丈夫。
お前も一年歯を食いしばって鍛えてきたんだから、リベンジいけるってっ
── よし、両者向かい合って、ファイトっ」
去年、マッシュを追いかけてたのは、立ち上がって160cmくらい。
今日のプリティガールは、立ち上げって130cmくらいだ。
身長的に 『成人女性なみ』 から 『中学生1年くらい』 までランクダウンさせているのだから、安全安心だ。
余裕ヨユー。
「 『ファイトぉ』 じゃねえ!
ふざけるな、アットォ!!」
そんなこんなをやっていると、森の茂みがガサガサと派手に揺れる。
転がり落ちる落石の勢いで着水したのは、軽自動車くらいの毛むくじゃらだ。
どうやら、子グマの母のようで、怒り狂った赤マスクの大クマが突進してくる。
「いやぁぁぁぁ、増えたぁぁぁっ」
「ハハハ、マッシュったら。
悲鳴が女の子みたいだぞ☆」
「笑ってる場合かぁああ!」
叫ぶマッシュの顔色は、青ざめを通り超して、白くなってる。
(ハァ……仕方ないなぁ……)
俺は、右籠手の下に高密度オーラを注入し、【超強化モード】を発動。
人間の頭くらいの岩を、隕石みたいに投げつける。
「── フンッ……!」
必ず殺す技・改。
天も驚く、石の剛速球・破だ。
(あ、俺の右手がうなる、とかの口上忘れてた……)
まあいいや。
どうせ、この攻撃だと利かない訳だし。
── グルゥアアァァァ!
母グマは、うなり声で、コートを展開。
毎度のごとく、石弾は赤黒い煙幕に絡め取られてしまう。
(── ここまでが、手順1……)
俺は、魔物の懐へ飛び込む。
しかし母クマ、立った時の背丈が半端ない。
前世ニッポンの電柱くらいありそう。
少なくとも、2階建ての家くらいの背丈があるぜ。
── ガアァァ!
そんな、2階の屋根から落ちてくるような、雪崩式ベアクロー。
だが、魔物の攻撃は、自分で撒いた威力減衰の煙幕にジャマされる。
俺は、悠々としゃがみ走りで避けて、魔物の足下で【旋風】を発動した。
オーラ煙幕を利用した渦巻きが、俺の回転攻撃を超加速。
同時に、魔物のオーラ煙幕の一部を吹き飛ばす。
俺の両手で構えた岩が、巨大ハンマーの代わりとなり、魔物の膝を粉砕。
ゴキンという打撃音と、グシャンという破壊音がほぼ同時に響く。
(── ここまでが、手順2……)
── グアァァ……っ
と、母クマは、バランスを崩して横転。
ジタバタと川の水面を泳ぐようにもがく。
「さて、最後はこれが利くか、だな」
俺は、軽自動車くらいの四つん這い魔物に飛び乗り、背中にまたがる。
ポケットから河原で拾った三角の石破片を取り出し、倒れた魔物の首筋に当てる。
さらに、それを抑え付けるように、両手を当てた。
まだ誰にも見せていない新技。
初お披露目だ!
「名付けて、【秘鎚】!」
一瞬、俺の両腕を、オーラが螺旋に走り抜けた。
ドオォォン! と、金属成形のプレス機のような、すさまじい音が響く。
ブワッと返り血が飛び散った。
そして、母クマはガクガクと震えて動きを止める。
「ほら、カンタン、カンタン?」
「ムリだぁぁぁっ」
マッシュは、どうしても納得してくれなかった。
▲ ▽ ▲ ▽
(……うーん。
いきなりクマはきっつかったのか……)
帰り道に、半泣きでグチグチ言い続けるマッシュをなだめながら、俺も反省する。
そういえば、俺も
── 飛猿魔
── ロングネック
── クマ
と順番に討伐したからなあ。
(いや、クマよりロングネックがレベルが上かな?)
先に、ちっこいのを倒させて、自信をつけさせた方がいいかな。
モンハンでも、最初は象とか鹿みたいな、草食動物みたいなの狩ってたからな。
じょ~ずに殺れました~!
うん、基本は大事。
手順を踏むのも大事。
ちょっと訓練メニュー考え直すか。
なお、夕暮れ前まで粘ってもマッシュがダメそうだったので、幼獣の方も俺がブチ殺した。
なーむー。
(更新予告)
次の更新までちょっと空きます。
来週中くらいに更新再開の予定。