054話ヨシ! よその子とゴーヤは育つのが早い、と申しますが
毎日が充実していると、時間が過ぎるのも早い。
アット君のオーラ教室も、そうだ。
やる気に満ちあふれる、お子さま生徒さん達の対応で、てんやわんや。
アット君のオーラ教室の開校1周年もそろそろだ。
気がついたら、シェッタ兄ちゃんの冬休み帰郷から、もう半年も経っていた訳だ。
本当に、月日が流れるのが早い。
シェッタ兄ちゃんが 『副都に戻りたくないぃ!』 とか絶望していたのが、この前だった気がするのに。
▲ ▽ ▲ ▽
── そうそう、そのシェッタ兄ちゃんだが。
半年前、フォルに槍の訓練をつけていた頃は、やたらと 『弟も一緒に』 と誘ってきた。
だが、俺のテコでも動かない態度に、数日で諦めがついたようだ。
(なんか、パパもだけど、やたらと一緒にしたがるんだよな。
前世ニッポンで言うところの 『親子キャッチボール』 かよ、槍の訓練って……)
その代わりに、フォルの訓練をしっかりみてくれた。
その辺りは、生真面目な兄に感謝である。
「── アット、アットっ
あの子、いままで見たことないくらい礼儀正しいんだけど!?」
とか、ことある毎に、やたらビックリしてたけど。
まあ、うちみたいな武門の家は、偉い人相手でも
『ウッス!』
『チワース!』
『アザーした!』
みたいな大声で頭を下げておけば良いみたいな、雑な感じだ。
『本日はお日柄もよく~、とか長ったらしく話してたら死ぬぞ!?』
『言葉はわかりやすく、大声でハッキリとだ!』
『敬語とか気にすんな!』
── みたいな教育方針である。
そういうのは、魔物を相手にする兵士としては間違ってないだろう。
だが、やっぱり世間一般からはズレてるっぽい。
そんな訳で、騎士養成校という脳筋の巣窟から帰郷しばかりのシェッタ兄ちゃんは、カルチャーショック受けまくりであった。
「── アット、アットぉぉっ
あの子、兄ちゃんの事、『お師匠さま』とか呼ぶんだけどぉぉ!?」
まあ、フォル、文官系の名門の子みたいだし。
お金持ちみたいだし、お姉さんもお役所勤めだったし。
多分、家柄的に礼儀にうるさいんだろう。
そんなフォルの折り目正しさに感化された我が兄は、養成校に戻る直前とか、
「いやだぁ~、あんな雑で乱暴なヤツしかいない所に戻りたくないぃっ
俺このまま、故郷で素直な弟子を育てるだけの、心の安らぐ生活がしたいぃっ」
そんな自分のアイデンティティを放り投げるような事まで言い出した。
(……いやいやいや、お兄さまって。
そう言うアンタも、雑で乱暴な脳筋の家の子だからな?)
俺が、そんな冷たい目を向けると、シェッタ兄ちゃんはグズグズと言い出す。
「だってアット……都会って怖いんだよ?
やたら顔をグーで狙ってくる女とか、物陰に引っ張り込んでチューを迫ってくる女とか、そんなのばっかりなんだよ、副都って……」
イケメンはイケメンで、女難が大変そうだな。
あと多分それ、副都の中でも輝士養成学校だけだと思います。
だから、もうちょと元気だして、ガンバれお兄ちゃん。
フォルは、そんな 『お師匠様』 のホームシックっぷり(?)が気がかりだったのか、ひと月に1回くらいに手紙送っているらしいし。
やっぱり、武門系の子にはない、マメさだよなあ。
(── あ。
あと、もう1個、シェッタ兄ちゃん絡みの話題があったな)
なんか知らんが、シェッタ兄ちゃんに、俺のオーラ訓練を知られたら、
「……そうか、アットって生まれつきオーラが使えたのか。
でも、兄ちゃんは、いつだってお前の味方だからな……?」
とか、しみじみと言われてしまう。
『ええ、子どもなのにオーラが!? ウチの弟は天才だ!』
── みたいに、驚いて喜ぶ訳でもなく、
『ウギギギギ……っ いいもん、兄ちゃんは槍の才能があるからっ』
── みたいに、悔しがったり対抗する訳でもなく、
『……お前の悩みに、気づいてやれなくて、ゴメンなっ』
── みたいな悲壮な感じなのだが。
全くもって、納得がいかない。
(── どういう事、これ?
ちょっと転生神ぁ、説明してもらえませんかぁ?)
▲ ▽ ▲ ▽
さて、話を戻そう。
アット君オーラ教室の生徒さんたちも、だいぶん上達してきた。
約1年もの間、週5ペースで訓練を続けてきただけある。
3人とも、オーラ修行Lv20を突破。
具体的には、
・【身体強化】の全身を20分維持
・【瞬瞳:二重】(4機能バーション)を習得
・半熟輝甲を習得
・固ゆで輝甲を習得
・【鉤縄】の籠手のみバージョン(両手)を習得
・【絡雲】を習得
今俺が作っているオーラ修行Lvの上限が40なので、ちょうど半分を超えたくらい。
一番Lv上げが進んでいるマッシュとか、そろそろ空中移動の練習だ。
なので、そろそろ良いかな、と思った。
「ひと狩り行こうぜ!」
「……は?
え、アット、なんだって?」
「だから、狩りだよ。
大型狩猟! ハンティングアクション!」
「…………」
マッシュは何故か困った顔で、もう一人の男児に目を向ける。
「いや……
そんな目でボクを見られても、困るんだけど……」
モゴモゴ言ってるフォルに、俺は親指を立てて見せる。
「だいじょ~ぶ!
フォルもそのうち連れて行くからっ
あ、もちろんタードちゃんもねっ
俺ら狩友じゃん!」
「──…………?
フォル君……アレ、何のこと?」
「タードさんまで……。
アット君が訳わかんない言い出したからって、毎回ボクに聞かれても……」
「……そっか。
じゃあ、気にしてもムダなんだね……」
なんか、一般家庭組の幼児2人が、こそこそ何か話している。
多分、連れて行かれるマッシュがうらやましいんだろう。
そうだね、レベルが上がるのが待ち遠しいよね!
「うっほー、4人協力プレイだぜ!
テンションあがるぅっ
── 我 等 狩 友 永 久 超 絶 不 朽!」
ウキウキが止まらない俺は、マッシュを小脇に抱えて走り出す。
「うわぁぁ、何だよアットっ」
マッシュ、心配すんなって。
ちゃんと城壁の警備の薄いところは、調べてあるから。
防衛隊も、昼間はあんまり魔物が来ないから、警備が薄いし。
オーラを使った超ジャンプ靴【弾動】を完成させた今の俺には、城壁を抜け出すとか余裕余裕。
何回か、事前練習もしたし。
「だから、アットぉっ
いったい、どこ行く気だよぉ」
「だから、狩りだってばっ
1年前のリベンジだって!
クマ狩りたいだろ、お前も!」
「く、クマぁあ!?」
おお、気合い十分じゃないか。
そうだよな、負けっぱなしは悔しいよな。
その気持ち痛いほど解るぜ、親友ぅ!