053話ヨシ! 兄帰郷(1年ぶり2度目)
アット君のオーラ教室も、そろそろ6ヶ月を迎える。
3ヶ月目くらいまで、ぶっちぎり1位だったのは、脳筋なマッシュ。
やはり武門の子だけあって、基礎体力が違いすぎる。
だが、そんなゴリ押し力技が続いたのも、初級編だけ。
オーラ修行Lv5:半熟輝甲の習得という、応用編が絡んでくると、足踏みが始まる。
最初の限界突破の試験 ── つまりオーラ修行Lv10到達の1番手は、タードちゃんに奪われてしまった。
「くそおぉぉぉっ 負けるかぁっ!」
そこで腐らずガッツを出すのが、脳筋の幼なじみ(♂)の良いところだ。
「フォルも、いっしょにガンバろうぜ!
男2人が最下位とか、はずかしいからなっ」
「う、うんっ」
引っ込み思案の文学少年の事も、上手く引っ張っている。
(コイツ、いつの間にこんな対話力を……っ)
その短期間の急成長にビックリだ。
前世の俺なんて、いつまでも経ってもコミュ障な営業マンだった。
ちなみに、アット君オーラ教室の生徒さんの成績は、こんな感じ。
オーラの量は、マッシュ。
オーラのセンスは、タードちゃん。
フォルは、オーラ量がなかなか増えないので、違う意味で足踏み状態。
ただ、文官家系の読書好きだけあって、知識や観察力も理解力が高い。
ちょくちょく鋭い指摘や、気づかなかった事を聞いてくる。
その中には、新技のヒントになりそうな事とかもある。
例えば ──
「ねえアット君。
その雲みたいな技って、自分で動かしたりできないの?」
「雲って、【絡雲】の事?」
「うん。
ほら、それってクッションになるけど、代わりに中に入ると動きがおそくなるんでしょ。
消えるまで待たないといけないって、ジャマにならない?」
「それは……思いつかなかった」
と指摘されて、俺はハッとした。
考え込み、色々試す事しばし。
結果、思いがけない技が誕生した。
それが【絡雲】の派生技、【風転】だ。
どんな技かというと、空中で減速しながら、くるりと回転できる技だ。
さらには、空中で1mくらいなら上下左右にも移動できる。
「やべえ……これすげえわ……
フォル、マジ天才っ」
俺は、何回も庭木の間をジャンプで横跳びして、その度にくるんくるん回って着地する。
「アット、べつに何も変わってなくねー?」
この新技のスゴさが解らない脳筋がそんな事を言ってくる。
「解ってねえなぁ……」
俺は呆れのため息を一つ。
「ちょっと見てろよ。
── とぅ……っ」
俺は、【身体強化】の全力ジャンプしつつ、回し蹴り。
回転の勢いがなくなった瞬間に、【風転】を発動。
ブンブンブン……っ と、空中に浮いたまま追加の回転蹴りが4~5回。
思った以上にスゴい事になった。
フィギュアスケート選手を越える、ジャンプ&スピン状態だ。
個人的には、『たつまきせん●~きゃく!』とか叫びたい気分だ。
あ、ジャンプしてアッパーしながら回ったら『し●りゅうけん』(昇●拳の強化版)が出来るかも!
── 『おおぉぉ……っ』
マッシュだけじゃなくフォルやタードちゃんも、どよめきと拍手。
「これ、地上でやったら回転技がエラい事になるな……っ」
やってみせた俺も、興奮して声が震えるくらいだ。
新技のテストをしてたら、さらに新技が出来てしもうた。
── 最初は、【絡雲】を取っ払うのに【絡雲】を使おうと思っただけだ。
工業系ではあるあるな、定番ネタ。
『油の除去には油を使う』みたいな考え方だ。
で、少量の【絡雲】を回転させながら発生させて、吹っ飛ばそうとした。
洗濯機の脱水機能みたいなイメージだ。
すると、オーラの渦巻きの勢いに、自分自身も回転してしまった。
それを、空中での姿勢制御に使えそう、と思った訳だ。
こんな経緯で、2種類も新技が誕生した。
空中での姿勢制御が、【風転】。
コマみたいな超回転が、【旋風】。
どっちを使っても【絡雲】が除去できるという副作用もある。
つまり、接近戦闘でこんな連携攻撃ができる。
敵に近づいて【絡雲】を使用。
煙幕効果で視界を遮る & 減衰効果で敵を遅緩化に。
そして【旋風】で加速した回し蹴りで、1撃KO!
── 無敵じゃん!?
「す……すごいよ、アット君っ」
感動した俺の目には、フォルの紅顔の笑顔がまぶしい。
(── 神は、いた……。
俺の転生神は、こんな所に御座したのか……っ)
感動のあまり、目から熱い物がこぼれそうになる。
とりあえず、後光の差す(逆光だった)文学少年を拝んでおいた。
ありがたやー。
「ん、アット君?
それ、何やってるの……」
「ああ、神様仏様フォル様っ
これからも無敵技を授けてくださいませっ」
あと、可愛くてちょっとエッチなヒロインもお願いします!
是非っ!
▲ ▽ ▲ ▽
そんな訳で、神様にお礼を捧げる事になった。
「お兄ちゃん、イケニエになって?」
カワイイ弟くんが、上目遣いのお願いである。
「……は?
アット、いきなり何をいってるんだ……?」
冬休みに帰郷したシェッタ兄ちゃんは、ちょっと顔を引きつらせた。
むむ、この兄、この1年でまた背が高くなっているな……。
「フォルが、ヤリをならいたいって」
「おねがいしますっ」
俺の隣で、文学少年が深々と頭を下げる。
「あ、ああ……
アットの友だちに槍を教えてほしいって事か……」
兄は、引きつっていた顔を笑顔にして、なるほどと肯く。
「うん、お兄ちゃんを的にして、ブスーっと!」
「お兄ちゃんを槍の的にしちゃダメです!」
兄の的確なツッコミ。
さらに、苦笑いで流される。
(うるせー、このエッチスケベの女ったらしが!
輝士養成学校でモテモテでキャッキャウフフとか、手紙で知ってんだからな!
俺よりイケメンはみんな×ね!)
俺は、思わず、ゴウゴウと正義の怒りを炎上させてしまう。
その間に、兄は倉庫から子供用の練習道具を持ってきた。
フォルに、初歩的な構えを手ほどきする。
俺は、2人の訓練風景を傍目に『The禅』。
いつもの庭石の上で、新しいオーラ技の構想を練っているのだ。
すると、兄が振り返り、声をかけてくる。
「── アットも久しぶりにやらない?
みんなでやると楽しいよっ」
「え、やだー」
「そう、か……」
兄は、ガックシ、と肩を落とす。
(だってなぁ、槍とか主人公の武器じゃねえじゃん?
ぶっちゃけ格好よくないし……)
やっぱ、剣だよ剣。
もしくは、カタナ。
(俺、モン●ンでも大剣か片手剣しか使わないし。
ガードできないので太刀はちょっと苦手だったわ。
……あ、でもチャージアックスも使ったな。
でも、あれも実質、片手剣みたいなもんだし……)
そんな事を思い出していると、槍の訓練は次の段階に進む。
兄が持つ長棒にぶら下がる 『小さなくす玉』 みたいな物を、フォルが身長の3倍くらいの槍で一生懸命に狙う。
(あれ、昔やらされたなぁ……)
我が家エセフドラ家は、代々兵士の家系だけあって、魔物退治はお家芸だ。
そのため、一族伝来の槍の技術は、対魔物用。
今やっているのも、大きな魔物の目や急所を下から狙い突くという訓練だ。
しなる棒で、吊された的(白い球)をピンポイントに突き上げるというのは、かなり難しい。
それに地味だし、すぐに腕がダルくなるし。
やっていてイヤになってくる訓練だ。
兄は、子どもの頃から 『才能がある』 とベタ褒めされるほど、上手かった。
それに対して俺は、まったくの不器用で、そのうち投げ出してしまった。
「アット、アット!
友だちに手本を見せてやったらっ?」
兄は、弟と一緒に訓練したいのか、やたらと誘ってくる。
「えー、いま筋トレがいそがしい」
「そうか……」
解りやすく落ち込む、シェッタ兄ちゃん。
うむ、ちょっと気の毒な気もするな……。
だが、いたいけな弟の気持ちも解って欲しい所だ。
小さい頃から親戚や近所の大人達に、イケメン(兄)と顔を比べられ、槍の天才(兄)と腕前も比べられたら、誰だって凹むに決まっている。
それに、ショタ気があるフォルと並ぶと、大きなお友達(♀)が悦びそうな光景になってる。
── まさに 『計画通り』 だ!
「── 腐れぇ、腐ってしまえっ!
イケメンなんて皆、腐女子のエサになってしまえばいいのだっ
ふふふ、はははは、はぁはっはっは……っ!」
俺が、そんな高笑いをしながら懸垂を続けていると、
「アット君が、またヘンになってる……」
「……タード、ほうっておこうぜ。
オレらふたりで、組み手でもしてよう」
7歳児の男女は、何やら冷たい目を向けてきた。