048話ヨシ! 犠牲(ひとり)はみんなのために
俺たち児童4人が、こっそりと連れて来られたのは、役所の中庭の先。
ちょっとホコリっぽい、2階建ての倉庫だった。
「じゃーん、これがオーラの検査の機械で~すっ」
フォルのお姉さんが、そう言って倉庫から取り出したのは、木箱のような機械。
丸い水晶が真ん中にはめ込まれ、古いラジオみたいに、あちこちにツマミとかスイッチとか付いている。
「うおおぉ、すげぇっ
ソレさわったら、オーラが使えるようになるんだよなぁっ」
マッシュが、ひときわ大きな声で歓声を上げる。
フォルのお姉さんは、クスクスと笑って、首を横に振る。
「あら、残念。
これはね、『輝士になれるかな?』 って検査だけの機械なのっ
オーラが使えるのは、この検査に合格して、輝士養成校に入学してからかな?」
「ええ~……っ」 「そんなぁ」
とか、6歳児たちの残念そうな声が上がる。
「おい、アット、アレさわったらオーラが使えるようになるんじゃなかったのか!
話がちがうぞっ」
マッシュが、ムッとした顔で詰め寄ってくる。
なかなかにリアルな演技だ ──
………………
…………
……
(── えっと……演技、だよな、マッシュ?)
まさか、お前。
俺の、さっきの説明をもう忘れたとか……そんな事無いよなお前?
(マッシュ、お前……いくらニワトリっぽい髪型しているからって。
まさか、『3歩あるいたら忘れる』 とか、トリみたいな脳みそしてないよな?)
トリ頭の疑いが出てきた、脳筋男児のマッシュ君。
そんなおバカとは違い、賢いタードちゃんが真っ直ぐに手を上げた。
「それで、検査したらどうなるんですかぁ?
どんな風に結果がでるか教えてくださいっ」
ハキハキと利発な女の子だ。
だが、やっぱりちょっと、質問が誘導臭い。
だが、フォルのお姉さんは気にならないのか、ご機嫌で答えてくれる。
「う~ん、そうね。
じゃあ今日は特別に、お姉さんがお手本を見せてあげますねっ」
手慣れた動きで、パチパチとスイッチを入れていく。
ブン……と、電化製品が起動するような小さな音がした。
フォルのお姉さんは、腕をめくり、水晶の下から飛び出た金属プレートに触れる。
水晶球の真ん中に、ロウソクの火ような光が点いた。
「わぁ……っ」 「すげぇっ」 「これがオーラの光か……」
オーラの光が、20秒~30秒くらいかけて、ゆっくりとは大きくなっていく。
最終的には、水晶球の半分くらいの大きさになり、白熱灯の間接照明くらいの明るさで、周りを照らす。
ちなみにオーラの色は、俺と同じ黄色だ。
「── まあ、こんな感じかな。
お姉さんの倍くらい光が大きく強くなると、輝士の素質ありです。
でも、それは20~30人に1人くらい。
みんなのクラスのお友達に、1人か2人いるかどうか、って位だね」
6歳児たちが、いっせいに騒ぎ出す。
「次はオレっ、オレやりたいっ」 「あ、わたしもぉっ」 「ぼ、ボクもっ」
しかしすぐ、マッシュの姉さんが笑顔で両手を 『×字』 にする。
「── ダメで~す。
みんなが10歳になるまでは、さわっちゃダメなの。
今日は、見るだけよ」
「ええ~っ」 「ダメなの?」 「そんなぁ」
と、口々に意気消沈の声があがった。
▲ ▽ ▲ ▽
(そろそろか……)
俺は、ふっと、ニヒルにため息を吐く。
そして、数十秒ほど息を止め、気合いを充填。
── かっ、と目を開くと同時に、力強く挙手をした。
「お姉さん! ウ●チっ」
「── はぁ……!?」
フォルのお姉さんは、何事かと振り返る。
俺は、その困惑を加速させるように、畳みかけた。
「ボク、ポンポンいたいっ
ウ●チしたいっ」
「はぁっ、えぇっ!?」
俺は、息を止めて赤くなった顔で、必死に内股でモジモジする。
だが、まだインパクトが足りないらしい。
(── クソっ
ならば最終手段だ、ウ●チな作戦だけにっ)
俺は、ベルトを外してズボンを下ろし、その場にしゃがみ込む。
「ボク、がまんできないぃ~っ
お姉さん、ここでウ●チしていいですか!」
「── うわぁ、ダメダメダメ!
ちょっと、ちょっとガマンしてっ
ここでしちゃダメ、トイレでして」
「トイレ、わかんないっ」
「ああ、そうね、そうよね!
── ちょ、ちょっと、ちょっとまってっ
今すぐ連れて行くから、ここでしちゃダメぇっ」
フォルのお姉さんは、6歳児にしてはガッチリ筋肉質な俺をなんとか抱え上げつつ、慌てて倉庫から出る。
「── あぁっ
みんな、それに触ったらダメだからね!
フォル! それに他の子も、いいわね!?」
『はぁ~い!』
と、6歳児3人が、妙に声のそろった返事をする。
ニコニコ笑顔からしてちょっと妖しいんだが、切羽詰まっている男児を抱えたお姉さんに、そういう事を気にする余裕はなさそうだ。
「お姉さん、トイレはぁっ?」
「まだよ、まだだから、ちょっとガマンしてっ
── それにしても、この子おもいいぃっ」
「いっぱい、キンニクつけたもんっ
パパがね、キンニクつくと重くなるってっ
── ボクえらい?」
「エラい、エラいわよっ
だから、もうちょっとだけウ●チはガマンしてぇ~っ」
フォルのお姉さんは、必死に男児をトイレに連行する。
オーラで【聴覚強化】をしていた俺には、マッシュたち3人が予定通りの行動を始めたのが、手に取るように解った。
(あとはどのくらい、『フォルの姉さんを引き留めれるか』 だよなぁ……。
トイレで 『オバケ怖いから一緒に居て』 とか言っておけば、5分くらい保つかな……)
── 『頭脳はオトナ、身体はコドモ』 な俺は、そんな足止め方法を考えるのだった。
▲ ▽ ▲ ▽
「── さて、諸君。
進捗を聞こう、さもなくば帰れ……っ」
俺は、テーブルに両肘をつき、顔の前で手を組む。
後は、サングラスがあれば、カンペキ。
そういう、一番威厳のありそうなポーズで、仲間を迎える。
「……なんで、『帰れ』 なんだよ……」
「アット君……さっきと別人みたい……」
「 『進捗』って、難しい言葉しってますね……」
しかし、大人な俺の決めポーズは、おこちゃま連中には渋すぎたようで、大不評。
前世の世界では、男の子はみんなマネする、カリスマ中年親父のポーズなのに。
なお、その中年親父、性格は最低である。
ウ●チ作戦だけに(得意顔)
それはともかく。
俺たちは、役所の目の前にある、イベント広場なのか公園なのか微妙な広場の、端っこに再集合していた。
「── で、全員、検査機を触れたのか?」
俺が口調を改めて聞くと、3人はいっせいに肯いた。
「お姉ちゃんがもどってくる前に、なんとか……」
代表して答えたのは、微妙に顔色の悪いフォル。
「みんなの結果は?」
「オレ、青色でいちばん光ったっ」
トサカ髪の幼なじみが、元気よく手を上げる。
「フォルのお姉さんより?」
「うん、マッシュ君のは、かなりまぶしかったよ……
わたしは、黒っぽい灰色?
そんな感じの、あまりキレイじゃない色だった……」
赤髪少女は、少し疲れたように、広場のテーブルに突っ伏す。
「タードさんの光は、うちのお姉ちゃんより、ちょっと強いくらいだったかな……
ボクは、お姉ちゃんの同じ色で、あんまり光らなかった……」
灰色髪の文学少年は、明らかに顔色が悪く、気力のないボソボソ声。
オーラを吸い取られた消耗と、演技とか色々がんばった疲労感の合わせ技なのかもしれない。
「結果をまとめると ──
マッシュが、『青系の強』。
タードちゃんが、『黒系の中』。
フォルが、『黄色系の弱』。
上手いことばらけたな、コレは検証のしがいがある……っ」
俺がウキウキと肯く。
すると、フォルが不安そうな顔を向けてくる。
「あのさ……アット君。
ボクってやっぱり輝士の才能ないのに、オーラを身につけるとか、できるのかな……」
俺は、少し考えて、深く肯いた。
「確かに、フォルには 『輝士』 の才能はないんだろう ──」
「── ~~~~っ」
文学少年が、悔しそうな顔をする。
「── おい、アットっ」
と、珍しく男幼なじみが他人を庇うような声を上げた。
おい待て、話を聞けよ、と俺は目配り。
「── だけど、それは 『輝士になりたいなら』 っていう話だ。
俺が教えるのは、もっと条件の低い、オーラの使い方。
なあマッシュ、コレ割れるか?」
俺は、いつもポケットに忍ばせている、クルミをひとつ、男幼なじみへ投げ渡す。
俺の次に腕力のあるマッシュは、しばらく握りしめ、やがて眉間にしわを寄せた。
「なんだコレ……かてぇ……っ
われるどころか、ツメでもほどとんど傷がつかねぇっ」
マッシュは、試しにガンガンとテーブルに打ち付けるが、もちろんそんな事ではクルミの殻は割れない。
俺は、投げ返されたクルミを、右手に持って目の高さに上げる。
3人の見る前で、パキンと、片手で割ってみせる。
「すげぇっ」 「え、なんでっ」 「簡単にわれたっ」
3人の驚きの声。
「これが、オーラの技の基本、【身体強化】。
── ちょとだけ、俺の手が光ってるのわかる?」
「ホントだ、ちょっと光ってる。
ロウソクの火くらいな感じ?」
タードちゃんが、興味津々と見つめてくる。
俺は、オーラをまとった手を、フォルに近づける。
「さっき、フォルのオーラの計測器の光って、このくらいじゃなかった?」
「うん、そのくらいだったかも」
「なら、大丈夫だ。
そのくらいオーラがあれば、十分、このオーラの技が使える」
「本当っ!?」
「ああ。
── ちなみに、オーラの量は訓練でも増える」
俺は、そう言いながら、右手のオーラをさらに集中。
そして慣れた手順で、オーラを変質させていく。
「フォルと、タードちゃん。
マッシュだけじゃなく、2人とも、まだチャンスがある。
今から訓練を続けてオーラが増えたら、このくらいの輝甲は作れるようになるかもしれない」
俺は、そう言って右籠手を形成。
自己流の輝甲を、6歳児たちに見せつけた。
「すげぇっ」 「かっこいい」 「わたしも、できるのかな……」
身を乗り出して覗き込む、3人。
その視線が、ちょっとくすぐったかった。
なお、割ったクルミの実は、関係者でおいしくいただきました。
(次回更新予告)
次回から、「群成会(幼年学校上級生)編」へ。
書き溜め分が尽きたので、多分きっとおそらく出来ていれば
3月~4月くらいに、また連日まとめて更新します。
(ぷち予告)
オーラ技術が上達し、超人化するアットと仲間3人。
彼らの常識外れの行動は、様々な騒動を呼び起こす。
蠢動する魔物、迫る闇の脅威、アットのご安全は守られるのか!?