047話ヨシ! みんなはひとりのために
「さて、もう一度確認しておくぞ!」
俺がそう言うと、周りの3人は、ゴクリとツバを飲み込む。
お隣男児のマッシュ。
文学少年のフォル。
赤髪少女のタード。
3人の顔を見渡し、俺は続きを口にする。
「俺達はぁ ──」
『── なかよし4人組です!』
3人の、息ピッタリな声が返ってくる。
俺は頷き、そしてフォルに視線を向ける。
するとフォルは先頭をきって、ドアを開けて施設内に入る。
目当ての場所まで素早く移動して、一度息を呑んで、声を上げた。
「── お、お姉ちゃ~ん!
ボクだよ、フォルだよ~。
ジエラお姉ちゃんいますかぁ~」
カウンターに居た中年の女性事務員が、それを見て微笑む。
そして、奥で作業していた人に声をかけた。
10代後半くらいの、若いお姉さんが小走りで寄ってくる。
「あれ、フォル?
役所に来るなんて珍しいわね」
「あのね、今日はね。
友だち連れて、あそびにきたっ」
フォルは、慣れない演技でカチコチ。
仕方なく、俺達がどっと突入する。
一番しっかりしているタードちゃんが先頭だ。
「その人がお姉さん?
こんにちわー」
『こんにちわー』
俺達は一斉に頭を下げる。
勝ち気な赤髪少女は、すぐに自己紹介をする。
挨拶もはきはきしていて丁寧だし、思った以上に利発な子だ。
残った俺とマッシュも、自己紹介して頭を下げる。
すると、フォル君のお姉さんは、口元を両手で押さえる。
「えぇ、フォルにお友達っ!
それもこんなに礼儀正しい、良い子たちが……っ!?」
感極まった風で、グスングスンっと涙をぬぐう。
「家じゃ、ぜんぜん幼年学校の話をしないから。
またイジメられたり、クラスに馴染めなかったりっ
姉さん心配してたんだからっ」
「そ、そんな事ないよ、お姉ちゃんっ」
文学少年は、あわてて否定する。
だが、内心汗ダラダラなのは、背中を見ていても解る。
半分くらい図星だもんな。
「そーお?
また本ばかり読んで、誰とも話してないんんじゃないの?
お小遣いだって、ほとんど本に使ってるんでしょ?」
「………………」
フォルは、お姉さんの厳しい指摘に、ついに顔を背けてしまった。
「そうだね、ムルタ ── ううん、フォル君、いっつも休み時間に本読んでます。
まわりの人と、あんまりお話しませんっ」
ほぼ本心なのだろう。
タードちゃんは、困ってます、とばかりにお姉さんに告げ口する。
「フォぉ~ルぅ~!
学校では、みんなとお話ししないとダメでしょ!
読書に熱中するのはお家だけにしなさいって、アレだけいってるでしょっ
わかってる!?」
「わ、わかってるよぉっ」
「…………く……っ」
フォルに、痛恨の一撃。
そして俺にも、痛恨の一撃。
「本当にわかってるのっ?
もうっ、本ばかり読んでたって困った時に誰も助けてくれないのよ!」
そんなフォルの姉さんの、厳しい言葉。
俺は、思わずムッとして、心の中で構えてしまう。
(── なんだろう……。
『マンガ好き』 を貶めるのやめてもらっていいですか……っ)
「いくら本読んで知識がついてもダメなんだからね!」
(── なんかそういうデータあるんですか……っ?)
いや、マンガの知識とかマジ役に立つしぃ?
例えば、ほら、えっと。
テロリストが学校占領したときの対策とかバッチリだしぃ?
ゾンビ感染の時はホームセンター籠城とかぁ?
そういう、役立つ情報がいっぱいだしぃ?
いきなり文明が崩壊したり、無人島とか遭難とか、どんな状況でも生きていける的なぁ?
そういうの知らないのに貶めるの止めてもらいたいなぁ、ホントっ!
そういう俺の正論はガン無視で、マッシュの姉さんは説教を続ける。
「身近な人と仲良くしてないと、将来ぜったい困るんだからっ
いろいろ大変な事があっても、誰も助けてくれないんだからっ
そういう悪いところばっかりパパに似てぇ、もうっ」
(── それ 『絶対』じゃなくて 、あなたの感想ですよねぇ……っ!?)
ほら!
俺の前世だって!
ほら……色々と困った時とか、さぁっ
東京進出とか浮かれてたら、ブラック企業で大変だったけど!
色んな人が助けて、くれ……、なかったなぁ……
……親戚や知り合いに、片っ端から営業電話かけてクルマ買ってって頼んで……
……それで……まあ、しつこいって嫌がられて……着信拒否されまくって……
……中学も高校も……同窓会呼ぶの止めようとか言われたらしいし……
なんか親戚のオジさんも、うちの親の恩があったから、しかたなく俺の再就職先探してくれた、みたいな事いってたし……
アレ……目から、なぞの汁が……
「や、やめてよ、お姉ちゃんっ
みんなの前でっ」
フォルが、たまらず赤面。
背伸びして、姉の口を両手でふさぐ。
── そうだよ!
やめてやれよ!
俺にも流れ弾しまくってるよぉ!
孤独だったりブラック企業戦士だったりする前世記憶がえぐられてるんですけどぉ!
── またグロいマンガばっかり読んでる……キモいっ、とか。
── あいつマンガの話する時だけよくしゃべるよなぁ、とか。
── メガネのくせに成績わるいとかなんなの、とか。
(やめろやめてやめてください思い出すな俺の脳細胞ぉ!
黒歴史のフラッシュバックとか、いろいろ死にたくなるからぁ!)
悶え狂い、思わずガックンガックンする。
この時の俺は、
「うわぁ……やっぱり、エセフドラ君、こわい……」
と、タードちゃんが引いた目で見ていることにも、気づいてなかった。
▲ ▽ ▲ ▽
フォルのお姉さんは、『小さな弟を、お友だちの前で説教していた』 という状況に気づき、慌てて口に手を当てた。
「── あ、あら、ゴメンね。
せっかくフォルがお友達を連れて来たのにぃ。
おほほほっ」
するとフォルが、恥ずかしそうにするお姉さんに耳打ちする。
「あのね……実はね、お姉ちゃん。
友だちが、輝士をめざしていてね。
お姉ちゃんが検査の係だって言っちゃったら、みんな検査の機械が見たいって言いだして……
……それでね……」
「……もう、あんまり言っちゃダメよ。
お役所はそういう所きびしいんだから……」
そんな、ちょっと歳の離れた姉弟の、コソコソ話。
「でも。みんながスゴイスゴイ言うから、嬉しくって。
つい自慢しちゃったんだぁ……
ごめんなさぁい……っ」
「── …………っ!?」
ショタっ気の強いフォル君、うるんだ上目遣いが炸裂!
こうかはばつぐんだ!
お姉さんがメロメロになって、倒れそうになっている。
陥落までもうひといきだ、一気にいけっ!
今度は、タードちゃんが心配そうに声をかける。
「── ねー、フォル君。
どうだった、お姉さん、オーラの機械、見せてくれるって?」
「えっと……あの……ごめん、やっぱりダメかも……」
「え、ダメなの……?」
せっかく出来た友だちに責められ、シュンとするフォル。
おお、いいじゃんいいじゃん、可哀想な感じがリアル。
みんな事前練習以上に、演技が自然だ。
「え~、マジかよフォルっ
オレ、よろこんでついてきたのにぃっ」
「えっと、あの、ごめん……っ」
「あ~、も~、なんだよぉっ
ちぇー、期待してたのによぉ……!」
特に、マッシュ。
あれだけヤル気がなかった棒読みが、今はとっても感情豊か。
本当に苛立っているようだ。
…………マッシュ、それ演技だよな?
「………………」
フォルのお姉さんは、渋面で少し考え込んだ。
そして、
「あ~、君たちぃ?
ちょっとここは、大人がお仕事している所だから、静かにしようねぇ~」
と、まるで 『窓口で騒いでいる子ども達を誘導する態』 で俺たち児童4人を中庭に移動させる。
「……もう、ちょっとだけだからね」
そんな感じで、お姉さんからOKを勝ち取るのであった。
やっべ。
予定位置で終わらなかった。
ラストなんでまとめて更新します。