046話ヨシ! もう1人いる!
俺たちは、カツアゲされていた文学少年を連れ、公園へと移動していた。
すると、文学少年は、ぽつぽつと事情を話してくれた。
「そうか、さっきの3人組はご近所さんだったのか……」
「そうなんです。
昔は一緒にあそんでくれてた、お兄ちゃん達なんですけど……」
悲しそうに答える、ぽっちゃりな文学少年ムルタクメダ氏。
名前の方は、フォルと言うらしい。
前世のニッポンで言うなら、マコトとかシノブとか、そういう中性的な名前だ。
さっきの3人からのイジメを心配した親御さんが、ちょっと家から遠い幼年学校に入学させたらしい。
「友達だと思ってたら、いつの間にかイジメられてた、と」
よく聞く話だ。
昔は仲の良い友達だったはずなのに。
いつの間にかイジメが始まり、どんどんエスカレートしていく。
そういう場合は、イジメる側には 『裏切り者への制裁』 みたいな感情があったりする。
何か、仲間内のルールを破ったり、絆みたいな物を粗末にしたことが原因だったり。
あるいは 『アイツむかつかない?』 『アイツ最近調子乗ってるよね?』 とか何となくの嫌悪感が発端だったり。
イジメられている方は、『仲の良い友達だったのに』 という気持ちがあるから、なかなか家族や大人に相談できない。
イジメている方は、『アイツはもう友達じゃなくて敵』 という気持ちになっているから、容赦もしない。
「── へ……っ
そんなヤツらぶっ飛ばしてやればいいのに」
マッシュが、イライラした声で口を挟む。
まあ、その気持ちも解る。
「む、無理ですよ……
ボク、弱いし、とろいし、運動苦手だし……」
フォルは、自分で言いながら落ち込む。
まあ、その気持ちも解る。
俺は、前世の記憶にあやふやな所もある。
だが、イヤな思い出は強烈なのか、コミュ障なせいで学校で孤立したり、イジメを受けたりという部分はハッキリ残っている。
その記憶によれば、結論は一つ。
「……イジメてる相手と仲直りするのは、ムリだな」
「え……?」
「例えば、何かの切っ掛けで、あの3人と仲直りしたとするだろ?
── で、気持ちよく友達としてやっていける?」
「それは……わかりません」
「また何かあったらイジメられるんじゃないか、とか色々不安になるだけだと思うよ。
そういう信じる事のできない相手を、本当に友達だって言えるかな?」
「………………」
「あの3人と縁を切って、君自身がイジメてきた相手を黙らせるくらいの腕力を付ける。
俺が思う解決法は、こうかな?」
「……そ、そんなの……ムリですよ」
「ちゃんと鍛えたら、腕力とかつくと思うよ。
まだ子どもなんだから、成長しやすいし」
あとはお豆たべて、タンパク質を多めに取るといいよ。
オーラ修行者おすすめの食生活です。
「ムリですって……
ボクの家、昔からずっと文官の家で、みんな運動は苦手だし」
「いや、そういう問題じゃなくて、正しいトレーニングと食生活が ──」
「── ムリなんですって!
ボクだって強くなれるなら強くなりたいけど……
みんながみんな、エセフドラ君やペスヌドラ君みたいになれる訳じゃないんだ……っ」
「いや、そんなに悲観しないでも……
まだ6歳なんだから、今から頑張ればきっと強くなれるよ?」
俺がそう励ます。
だが文学少年は、灰色髪を振り回すように首を振る。
そして、泣き叫ぶような声を上げた。
「じ、自分が武門の家で、オーラとか使えるから、そういう風に言うんでしょ!?
ボクだって、そんなのが使えたら、きっと ──」
「── そうか!
よかった、じゃあ君も一緒にオーラの特訓しようぜ!」
「…………は……?」
文学少年は、目をパチパチしている。
なんだよー、もう。
そんなにオーラ使いたかったのか。
早く言ってくれよなー、もー。
「よし、マッシュと一緒にガンガン、鍛えちゃる!」
「へ……え……え?」
「ちぇー、オレだけアットからオーラを習おうと思ったのに……
まあいい、いろいろ協力してもうらうんだから、しかたねえか……」
「あ、あの……ちょっと……それって、一体……?」
文学少年は、そんなに急に望みが叶うとは思わなかったんだろう。
ビックリした顔で、俺とマッシュの顔を交互に見つめる。
俺は、ビシッと親指を立てる。
(心配すんなって。
俺の、オーラ理論は進化し続けてるから!
ちょっとでもオーラあれば、オーラをマスターする可能性は十分にあるから!)
俺が、今からの訓練プランを考えていると、急にマッシュが走り出した。
「── やぁっ
ちょっと、痛いっ やめてぇ……!」
「うるせえ、あばれんなっ
女ぁ、オマエ、いつから聞いてたんだっ」
マッシュが、公園の木の陰に隠れていた誰かを、捕まえて連れてくる。
それは、文学少年と同じクラスの、赤い髪の少女だった。
▲ ▽ ▲ ▽
マッシュに連行されてきた赤髪少女は、観念したように告げる
「……タード=ボボスアモです。
ムルタクメダ君のお父さんと、うちのお父さんが同じ職場なんです。
それで、面倒見てって頼まれてました……」
タードちゃんは、この前マッシュが文学少年に絡んでた時に、止めてた子だ。
俺達が、同じクラスの文学少年をイジメていると勘違いして、つけていたらしい。
えらい誤解だ。
むしろ、助けた方なのに。
公園内の会話は全部、盗み聞きされていたらしい。
さらに、その前の上級生3人組を追っ払った所も、大体見られていたようだ。
「アット、どうするんだ……
だまっておくようにイタい目あわせるか?
でもオレ、女なぐるのヤダぞ……」
「ひぃ……っ」
赤髪少女は、顔を青ざめる。
いや、待て、そこのクソ幼なじみ(♂)。
テメー、ナチュラルに俺の評判下げる言動するな。
俺だって、何の罪もない女の子殴ったりするか。
「……裏切らないようにする方法は簡単だ。
巻き込んでしまえばいい」
やったねフォルくん!
修行相手が増えるよ!!
「ええ~、また1人ふえるのかよ~。
しかも、女とか……」
マッシュが、不満そうに口をへの字にする。
その向こうで、文学少年と赤髪女子が、コソコソ話をしていた。
「えっと、ムルタクメダ君。
これって、いったい何の話なの?」
「ごめん、ボボスアモさん。
ボクもよくわかってないんだ……」
そんな感じで、俺のオーラ教室は生徒3人に増えたのだった。