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039話ヨシ! 次の特訓のために

夜明けと共に、雄鶏(おんどり)の声が響き始める。


それを耳にして、俺は上半身を起こす。

── オーラ修行者の、朝は早い。


まずは下着姿になって、ベッドの上で軽く、柔軟運動。

寝たままだと、関節が固まってくるので、ゆっくりとほぐす。


少し身体が温まったところで、両手の輝甲を装着。


左手で【鉤縄(かぎなわ)】と【瞬瞳(しゅんどう)】を同時始動。

(1)伸長を加減して、輝甲籠手を窓枠ギリギリまで伸ばす

(2)オーラ密度操作で、手甲の人差し指と親指だけ動かして、カギをつまむ

(3)輝甲籠手を引き戻す動きで。カギを開ける



「よし、一発で成功!

 今日は幸先(さいさき)いいぞっ」



次は、右手で【鉤縄(かぎなわ)】を始動。

籠手をカーブさせながら伸長させて、窓サッシをスライドさせる。

これはそんなに難しくない。


最近、半熟輝甲を伸長させる時に、オーラ密度の左右の差をつけると、カーブする事に気づいた。

オーラ密度の上下に差を付けると、上や下へ曲がる。

ほぼ、野球の変化球みたいな感じだ。(※ 変化球なら、左右の変化はスライダーとかシュートとかいうんだろうが、今回それは無視する)


慣れてくると、部屋の中に落ちているゴミの片付けくらいは、大体ベッドから動かずに出来るようになった。

もうちょっと訓練すれば、部屋の中の物は、何でもベッドの上から取れるくらいになりそうだ。



(これ、ある意味、危険な技術だよな……)



── 何て技術を開発してしまったのかっ

と、自分の事ながらに恐れおののいてしまう。



(もしも、この世界にマンガがあったらっ

 俺はまた、1日中ベッドから動かないダメ人間になってしまう所だったっ

 ── フゥッ、少年マンガがない世界で助かったぜっ)



うっかり、世界が滅んでしまう(勇者な俺が世界を救わない的な意味で)ところだったぜ。


救世主のダメ人間化は、法律違反です!

気をつけましょう!



「さて、それはよしとして。

 みんなが起きる前に、日課のトレーニングを……」



今度は、両手の【鉤縄】で窓の外枠を掴んで身体を引き寄せ、窓枠に腰掛ける。

次は、窓の外から屋上へ【鉤縄】。


どちらも、骨折してギブスで固めた両足を打たないように、慎重に移動する。



さて、なんで俺がこんなに手間をかけてまで、窓開けしているかは簡単だ。


── KENSUI(ケンスイ)だァ!



「いっちにぃっ、いっちにぃっ、いっちにぃっ ……」



骨折中に『うんてい』が出来ない分、腕を鍛えないといけない。


せっかく1年かけて作り上げた、男らしいムキムキの背中が、寝たきり生活で鈍って(プニって)しまうなんて!

そんなの誰だってガマンできる訳ないでしょぉおお!



「うおおぉぉっ 効いてる効いてるっ

 背筋に効いてるぅ!

 腕も肩も、ピキピキきてるっ

 俺輝いてるぅ、アット君いま輝いてるよぉ~!」



燃えさかる情熱(パトス)が、汗と共にほとばしる。


やっぱり、朝日を浴びながらの筋トレは、すばらしい。

放牧の角笛と、防衛隊の楽器演奏が聞こえてくるのも、テンションが上がる。

1kmほど先の『下大門(しもだいもん)』から聞こえてくる早朝の活気が、ここ最近のトレーニング用BGMだ。


今日もオーラ修行者は、朝一から精を出すのだった。





▲ ▽ ▲ ▽



「ふぅっ」



朝一トレーニング、朝食、午前の勉強(6歳児向け、楽勝ぉっ)を終えると、急に暇になる。


うっかりすると、寝ちゃいそうなくらい退屈だ。

よく寝た方がケガの治りも早いかもしれないけど、寝てばかりだと身体が鈍るしね。


そんな時間の暇つぶしは、一つしかない。


日本人みんな大好き少年マンガ、はこの世界にないので ──



「── さてさて、今日もオーラの研究を頑張るかぁ……」



とりあえず、俺の急務は、空中落下の減速方法だ。


── いや『何も反省してねえな、お前』とか言われても困る。


ほら、特帯の見送りの時とか、色々ピンチもあるし。

人違いだったけど、空飛ぶ魔物に攫われる子どもとか、現実にいる訳だし。


そんなのをどうこうしようとするなら、やっぱり20~30mのジャンプと、安全な着地の技術が必要だ。



(手っ取り早いのは、パラシュートだな)



ひとつの案は、背中の輝甲に落下傘みたいなギミックを組み込む事。

全身に負担が分散するから、安全帯(ハーネス)構造とも相性が良い。



(ただ、オーラを身体から離すことは難しいんだよな……)



『切り離す』だけではなく『ブリッジ構造』のように、途中を空洞にする事も難しかった。


どうもオーラには、『本人の肉体にくっつきたがる』という磁石みたいな特性が物あるっぽい。


そのせいで、オーラの一部だけくっついて、他は離れているとか、至難の業。

ドーナッツ型の穴あき構造とか、全然ダメだ。

どれだけやっても、すぐに穴がふさがる。


そのくせ、身体から完全に切り離されてしまうと、数秒で空中に溶ける。



(……ああ、これ『オーラが磁石』じゃないな。

 逆だ、『人間が磁石』で、オーラはそれにくっついてる『砂鉄』なんだ……)



そう考えると、オーラを塊にして飛ばす事が、かなりの難易度だと納得もいくよな。

磁石を思いっ切り振り回しても、くっついている砂鉄が飛んでいく訳がないし。



(つまり、エネルギー波攻撃は完全にナシですか……

 うう、男のロマンが……っ)



そんな非常な現実に、打ちひしがれる。

枕を濡らした夜もあった(イメージ映像です)。


実際は、まだ昼下がりなんですけどね。



「他の方法となると、クッションかなぁ……」



でも、あまり良い手段とは思えんなあ。


前世ニッポン in 地球では、『交通事故の時にエアバッグの衝撃で骨を折った』とか、割と聞く話だし。

もちろん必要なシステムだが、結局は『死ぬよりもマシ』という部類の物のハズ。



「……半熟輝甲でスライム作って、着ぐるみみたいに、全身に付ける?

 うわぁ、クソ邪魔そう……」



それに、防御力はあるだろうけど、肝心の高度から落下に耐えられるかが心配。



「まあ、一応試してみるか……」



俺は、半熟輝甲で作ったクッションで胴体だけ包み込む。

頭を両手で防御して、ベッドから上半身だけ落下してみる。


── ……ズンっ、とフローリング床が鳴った。


痛くは、ない。

でも、ちょっと衝撃が伝わるね、これ。

多分、高い所からの落下になると、ダメなパターンだわ。



「……そもそも、半熟輝甲を作るのに1~2分かかる時点で、ムリがあるな」



そんな訳で、パラシュート案もクッション案も、没になった。

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