030話ヨシ! 空中移動(4)、拙者、安全第一ニンジャと申す者
肩の痛みが取れるのに、3日くらいかかった。
その間、腕力トレーニングの『うんてい』はお休みだ。
ランニングで軽く汗を流すに止める。
その空いた時間を、有効活用しなければならない。
そう思って、色々と試行錯誤してみた。
▲ ▽ ▲ ▽
まずは、『輝甲の構造の見直し』をやった。
今までは肘までしかない輝甲籠手だったので、ぶら下がると肩への負担が半端ない。
しかも、空中ブランコ連続ジャンプを繰り返すという、凶悪な負担だ。
(よく考えてみれば、肩が壊れてもおかしくなかったよな……)
いくら身体強化がスゴいと言っても、筋力だけの話だ。
十分に気をつけないと、身体を壊して俺TUEEEE!以前の問題になってしまう。
さて、そういう訳で、『輝甲の構造の見直し』だ。
籠手が肘までだったのを延長し、肩甲を作成。
さらに背中に回り込ませる。
腰にベルト状の輝甲(固ゆで)を作成して、そこへ背中に回り込んだ両腕・両肩から続く輝甲(半熟)をX字して接続。
さらにベルトがずり上がらないように、両太股の付け根にもベルト状の輝甲(固ゆで)を作り、腰のベルトと接続。
── おわかりいただけるだろうか。
そう、高所作業の友、安全帯から丸パクリ構造だ。
馴染みのない方は検索してくれ。
なんなら、『壁に囲まれた街の調査兵団』が付けてる装備ベルトを思い浮かべてくれてもいい。
アレなんて、ほぼ安全帯と構造が一緒。
だがしかし、
『なんでお前そんな知識を持ってるくせに、フォークリフトの荷用木枠の上に乗って死んでいるんだ?』
とか言ってはいけない。
人間は油断する生き物なのだ。
ヘルメットを被ったネコちゃんもそう言ってる。
……あれ、電話するネコちゃんだったっけ?
── 『今日も一日ご安全に』
異世界に転生してから、この標語を噛みしめる毎日です。
ここまで鍛えておいて死んだら、今までの努力が水の泡だ、冗談じゃねえ。
せめて一度くらい、美人なお姫様の前とかで俺TEEEE!してベタ惚れされない事には、死んでも死にきれない。
(── 【急募】ヒロインさん!
『さすがアットさん、ステキですっ』と褒めるだけの簡単なお仕事です!
三食昼寝付き、下宿OK。特に、未経験者は優遇します!)
そんな求人広告の念を飛ばし続ける。
俺、ぜってぇ諦めねえからな!
▲ ▽ ▲ ▽
さて、ストレス発散を兼ねた情念の発露は、このくらいにして。
「新型装備と、新プランの成果を試してみるか……」
また、こっそりと忍び出て、夜の街に飛び出していく。
場所は、4日前と同じく、一般家庭用のベッドタウン『15番街』の脇道だ。
若干のカーブはあるものの、同じくらいの建物間隔で800mも続いているのが便利だ。
最初は、前回と同じだ。
両手の籠手で、『鉤縄』を発動。
3階建ての屋上に籠手の手甲を引っ掛けると、一気に夜空へと飛び上がる。
さて、ここから新プラン。
大ジャンプが頂点を迎え、落下を始めた時に、片手だけで『鉤縄』を発動。
伸ばした右籠手で、右側の建物の屋上をつかむ。
すると、身体が右側に引き寄せられる。
壁にぶつかるという所で、俺は身体を横に傾け、足で蹴っていく。
2階の窓の上くらいから3階屋上くらいまでを、壁を蹴りながら移動する。
── 片手で空中ブランコしながら、忍者走りだ。
スイングの終わりに壁を蹴り、大きく空へ飛び上がる。
今度は左手を伸ばし、左側の建物を起点に、空中ブランコ&忍者走り。
何度か繰り返すウチに、コツを掴んできて、スムーズに移動できるようになる。
(うおぉぉっ
だいぶんスパ●ダーマンっぽくなってきた!)
片手空中ブランコ&忍者走りは、予想以上に腕や肩の負担が少ない。
もちろん、安全帯を参考にした新型装備の効果もあるだろう。
それ以上に、壁を走ることが、ぶら下がりの負担を分散している。
それに、自分の脚で細かなスピードと調整ができるのも良い。
(でもこれ、やっぱり。
スパ●ダーマンというよりも、ニンジャだよな……
NYの高層ビルほどじゃないにしても、最低10階建てくらいのビル街じゃないとムリなのかな……)
そんな事を考えながら、脇道800mを30分ほど行ったり来たりして、今日の訓練は切り上げた。