023話ヨシ! 初戦(6)、うれしはずかし覚醒イベント
俺は、輝甲の籠手を自在に伸縮して、枝から枝を飛び回る。
(野生のサルより速いんじゃない?)
新技の習得で、テンションが上がっていた。
はっきり言ってしまえば、浮かれていた。
よりにもよって、魔物のテリトリーである暗い森の中でだ。
その油断を、白蛇の長首を持つ、ロングネックなる魔物は見逃さなかった。
一瞬で目の前に迫る、巨大な口。
── 回避……っ
── 逃げられ、ない……っ
── なら防御……っ
── 輝甲で、頭だけでも……っ
── いや半熟の方が、ショックを吸収……っ
── 最初から『瞬瞳』つかっていれば……っ
一瞬で、いくつもの考えが脳裏をよぎった。
だから、俺自身も、何がどうなったのか、解らなかった。
(── ん……?
なんだ、やけに動きが遅い……)
既に、あと1mまでに迫る、巨大な口。
魔物は、顔を横にして大口を開けたまま、動きを止めていた。
いや、俺自身の動きも止まっているようだった。
(いや、時間が止まっている……)
そう思った瞬間、様々な仮定が頭に浮かぶ。
(……まさか、これは……っ)
(── 覚醒イベントか!?
バトル系のマンガでありがちな、パワーアップの瞬間!
あれだな、『内なる荒ぶる竜の魔魂』 的な物が目覚めて、取引とか持ちかけてくるヤツですね!
そういう少年マンガ、前世でいっぱい見たぜ!)
(やっほー、転生神っ!
ようやく仕事してくれたんだね、超サンキュー!
もう、じらすんだから、出し惜しみやめてよね、プンプン)
(── おおっと……そんな事を言ってる場合じゃない。
さあこい、『我が内にある荒れ狂う魔魂よ』!
俺の覚悟は万全だぜ!
キサマと共にどこまで行こう! 永久へ!)
(……………………)
(……ん…………?)
(……………………)
(…………あの……)
(……………………)
(……えっと………)
(……………………)
(……あの、そろそろ、こう……
『聞こえ……ますか、アナタの心に直接呼びかけています』──
── 的なメッセージとかないの……?)
(……ええっと……
……転生神ぁ……これ、一体どうなってるんですかね……)
気のせいか、今ちょっと、時間停止状態の白蛇の口が動いた気がする。
ってか、コマ送りみたいに、ほんのちょととずつ動いているような。
(…………ふ……っ)
(……ああ、そうだろうよ……
……なんとなく、解ってたぜ。
……今までもずっと転生神的な声とか、一回もなかったしなっ!)
(なんか、さっき必死になって、『瞬瞳』使いまくったからな。
多重発動で、超スローモーションなってるだけなんだろ?
なんか目の保護バイザーみたいに輝甲ができてるし!
多分、こいつのせいなんだろうなぁ、って。
うん、最初から薄々気づいてた!)
(── でもね!
俺も男の子なの!
中二病展開に憧れるの!)
(……ああ、目が痛くなってきた……
そろそろ、『瞬瞳』の効果切れだな……?
……だが、最後に1個だけ、これだけはヤらせてもうらうぜ……)
以下、全部、俺の心の声。
第三者の声が心に伝わる、とかではありません。
念のために。
うるせえ、虚しいひとり芝居とか言うな、ちくしょー。
せっかく転生しても、全然ドラマチックじゃないよ、この人生!
運命的なヒロインとか、幼なじみ♀とか、義妹とか、フィアンセとか、全然だし!
もう誰もどうにもしてくれないなら、自分でどうにかするわい!
【低い声】(……『力』が、ほしいか?)
【普通の声】(え、なんだ……この声は)
【低い声】(……『力』が、ほしいかっ!?)
【普通の声】(誰だ……いや、そんな事は、この際どうでもいい!
俺は、魔物を倒す力が……っ
家族や友達、大切な人達を守る『力』がほしい!)
【低い声】(……『力』が、ほしいなら ──
── くれてやる!)
【普通の声】(う、うおおおぉぉ、身体から『力』があふれる!
こ、この『無敵能力』は、一体!!?)
と、ひとり芝居が終わるジャストタイミングで、『瞬瞳』の超スローもションが解除。
── シャアァァ……ッ!
一瞬で肉薄する、巨大な蛇の口。
俺は『それ』を、まさに待ち構えていた。
(更新予告)
では、また明日6時に。