021話ヨシ! 初戦(4)、11歳児の間では多分今頃伝説になっている
(つまり、結論としては……。
アット君が『オーラ使える』とか、諸々の正体判明上等で頑張って助けたけど、魔物に攫われてたの兄ちゃんじゃなかった、と……)
── うん、何という無駄足っ!!
まあ、尊いぃ、人命がぁ、助かったのでぇ?
全く無意味とまでいいませんけどね~?
(……でも、他人がせっかく助けたら、『新手の化け物』とか言われたな……)
この前の暗殺幼女といい、助けてくれた相手に対して感謝がなさすぎじゃね?
── お前らなぁ、そのうちまとめて『ご理解させる』ぞ!
そんな苛立ちが顔に出てしまったのかも知れない。
「ひぃっ
こ、こないでぇ……っ」
推定10歳のオレンジ髪と白い肌の少年に、やたら怯えられた。
(……どうでもいいが、名も知らぬ被害者少年よ。
男が内股は、止めろよ、さすがに。
10歳児か11歳児か知らないが、見苦しい事この上ないぞ……)
俺は腕組みして、目の前の『ちょっと情けない少年』と、『一見線が細い優男なのに中身はガハハなパパ似という脳筋兄』を、脳内で比べてみる。
── うん、ビックリするほど似てないね!
なんで見間違えちゃったかな、うちのママとか。
(……武門の家というか、脳筋一族な当家なら、素手でも魔物に殴りかかるよね、きっと。
冷静になって、よく考えてみれば、無抵抗であっさり攫われた時点で、ウチのお兄ちゃんな訳なかったよなぁ……)
そもそもが、我がエセフドラ家は、先祖代々兵士の家系だ。
『男がやられっぱなしなんて情けない!』とか言われる家柄だ。
近所の子とケンカして泣いて帰るとか、父どころか祖父祖母からもガチ説教な、武門の一族だ。
軟弱な態度をしよう物なら、すぐに『我が先祖は、中原統一を目指す始興王殿下に付き従い、ある時は槍一本をもって魔物の群れに立ち向かい、ある時は我が身を盾にして蛮族の刃から玉体をお守りし ──』という、ご先祖様のありがたいお話が始まってしまう。
一般家庭出身の温厚なママと、ママ側のお婆ちゃんが、子供達の唯一の癒やしだ。
そんな事を思い出しつつ、改めて、目の前の被害者少年に目を向ける。
だが、途端に目をそらしたくなった。
目も鼻も、垂れ流す物で、グズグズだった。
「うぅう……やだぁ、ひにたくっなぃいっ
だかりゃほくふくとなんてっ、ひぃきたぁくにゃかったにょにぃ~~っ」
一応、翻訳すると、この子『イヤだ、死にたくない。だからボク副都なんて行きたくなかったのに』と言っております。
あんまりに情けないので、逆に心配になる。
(大丈夫か、こんな感じで輝士とか目指して……)
兄に聞いた限りでは、輝士養成校は子供相手とはいえ、やはり軍人育成の場だ。
毎日毎日、鬼教官に怒鳴られ、追いかけ回され、引っぱたかれる、スパルタ教育のはずだ。
「まもにょにょごはん、やらぁよぉっ!
ぱぁぱっ、のっ、ふぁかぁっ
えきがわるいむっすえだって、さいおうあいって、すへるなんっ ひろいぃぃい!」
「あーもー……泣くな泣くな。
こんな所で泣いてたら、この先やっていけないぞ……?」
(……こいつ、本当に、俺より4~5歳は年上なのか?)
とか内心グチりながらも、背中を撫でて落ち着かせてやる。
もう、どっちが年上か、わかりゃしない。
(アット君やさしーね、おにいさんだっ
── ボクこのまえ6しゃいになったよっ!)
あんまりにアホらしい状況なので、そんな脳内 ☆ 自画自賛をしてしまう。
それに対して、この推定10歳児である。
というか、本当に、さっさと泣き止んで欲しい。
せっかく投石してあっちこっち散らばった、翼つき魔物の群が、また空に集合しつつあるのだ。
(つーか、絶対こっち狙ってるな、アイツら)
足手まといを何とか落ち着かせながら、どうした物か、と唸る。
すると、転機が訪れた。
大人達の足音が近づいてくる。
「あ、あそこに子供がっ」
「ロングネックの巣の入口じゃないか」
「よし、救出して、すぐに退避っ」
どうやらさっき、武装を使う使わないと揉めてた、護衛官の人達みたいだ。
3人とも、黄色い輝甲を身に纏っている。
「よーし、大人がきたぞ!
さあ、お荷物さんめ、回収されてこいっ」
「ふぇぇっ! やらあ、にゃにすんおぅっ!?」
俺はすぐさま立ち上がると、オーラで身体強化。
手足をバタバタする被害者少年(推定11歳)を抱え上げると、横倒しにして放り出す。
オレンジ髪の少年は、ゴロゴロと土手を転がり落ちていき、駆けつけたばかりの護衛官に保護されるのだった。
(更新予告)
では、また明日6時に。