002話ヨシ! おっすオラ5歳、いっちょやってみっか
── 月日が過ぎるのは、早い。
気がつけば、俺は5歳になっていた。
そんな春先に、近所や親戚が集まって、小さなパーティが催された。
我が家の兄(第一子で長男)が10歳になったということで、軍人の養成学校に入学する事になったのだ。
遠くの都市で寮生活するため、滅多に帰郷できなくなるらしい。
「え、なんで、お兄ちゃん帰ってこれないの?」
そう両親に訊ねると、この世界の教育制度を教えてくれた。
▲ ▽ ▲ ▽
この世界の子供は、5歳までは親元で育てる。
6歳から9歳までは、生まれた都市内の幼年学校で、読み書きや社会常識を勉強する。
そして、10歳になると、『輝士』の素質検査だ。
『輝士』とは、『オーラ』を操る軍人の事だ。
一般市民なら20人に1人、武門の家系なら2人に1人の割合で合格するらしい。
輝士の素質ある子供は、国立の養成学校へ入学。
10歳で入学して、15歳の卒業までは、大都市で寮生活する。
さらに成績優秀なら、王都の士官学校へ進学する。
18歳まで、みっちり鍛えられる、職業軍人エリートコースだ。
そういう、なかば徴兵制度じみた社会体制だ。
(── うえ……マジか?)
正直、辟易する。
徴兵とか時代錯誤なマネ、勘弁してほしい。
だが、社会情勢的には、仕方ないのだろう。
この世界はオーラという素敵パワーがある ──
── だから、なのかは解らないが、人間を襲うモンスター的なヤツもいる。
軍とか国防とかいうと、モンスター対策が第一な、ちょっと危険な世界だ。
人間同士、国同士で戦争なんかしているヒマもない。
ある意味では平和な世界。
そんな世界なので、オーラの才能がある軍人・輝士は重要な存在。
生まれが一般平民でも、活躍によっては特権階級(いわゆる貴族)にランクアップできる。
だから、輝士の素質がある子供のほとんどが、喜んで養成学校へ入学する。
辞退する子供は、そうそうないらしい。
ちなみに、今世の俺のパパも、『正輝士』という中堅軍人。
小さな部隊の隊長さんらしい。
主な仕事は、モンスターから都市を守る防衛隊みたいな感じらしい。
▲ ▽ ▲ ▽
── そんな説明を聞いて、俺は顔面蒼白になった。
なんてこった!?
お隣のマッシュ君と、犬のウ●コつついて、遊んでいる場合じゃなかった!
野良猫おっかけてマユゲかいて、笑い転げている場合じゃなかった!
(いや、チガウんですよ?
別にね、サボってた訳じゃないの!)
そう、3歳の頃、俺がんばったのだ。
俺なりには、3歳児なりには、がんばったのだ。
そのガンバリだけは認めてほしい。
ともかく、最初はちゃんとしてたんだ。
(オーラってのはつまり、カラダから湧き上がるスペシャルなエネルギーな訳ね。
まずは、精神集中して、身体の中にあるエネルギーを感じて……)
そういうのを感知して、発揮しようとした。
つまり、こうやって ──
── グッと
── ガッと
── ババッと
……うん、やり方がわからんよね、普通。
ぶっちゃけ、何も感じないし、手応えもなかったのよ。
神秘のエネルギーを操るどころか、感知すらままならない。
鍛える方針すら解らない。
(ああ、検索すれば一発なのに……
何でもすぐ調べられた、前世の世界が懐かしいぜ……)
そんな事を今さら嘆いても仕方ない。
だから非効率な攻略法でも仕方ない。
そこで俺も、覚悟を決めた。
試行錯誤というか。
手当たり次第というか。
思いつくことを、片っ端からやっていくしかない。
(── そうやってね、とにかく色々ポーズとか試してた訳なんですよ。
3歳の時、我が家のお庭でね。
すると、お隣の3歳男児が乱入してくるんですよ。
こいつマッシュ君っていうんですけどね。
ひとの言う事まるできかないんですよ。
まったく迷惑な……!)
『俺は遊んでるんじゃないんだぞ』、と。
『オーラを使いこなしてヒーローになるんだ』、と。
『勇者な俺が今サボると、将来みんなが困るんだよ』、と。
『未来に魔族とかが攻めてきて、マッシュ君も危ないんだよ』、と。
そういう風に色々と説得した結果 ──
── 気がつけば、いつもチャンバラごっこになっていた、と。
── 気がついたら、そんなこんなで5歳になってしまっていた、と……。
(あれれ、おかしいぞぉ……?)
身体は子供、頭脳は大人。
名探偵アット少年の推理力が冴え渡る ──
── 全ての謎は解けた!
(犯人は、お隣の幼なじみ男子・マッシュ、お前だ!
バカ野郎ッ、お前のせいで、俺、毎日遊んでばっかりじゃねえか!)
『ザリガニいっぱいいる所みつけたぁ』じゃねえんだよ!
『どっちがたくさん捕まえるか競争しようぜ』じゃねえんだよ!
勇者の卵を堕落の道に引きずり込む、悪魔のいざない、ヤ・メ・ロぉ!
マッシュ、お前、実は魔王軍のスパイだったりするんかい!?
(── うああああっ もう2年もムダにしてるじゃん!?)
ザリガニ、ダメ絶対!
最強能力やめますか、それとも赤い悪魔やめますか?
(このままダラダラ過ごして、平々凡々な人生で終わってしまうなんて、冗談じゃない!)
俺、オーラ学園の入学式とかで、
『なんだあの新人!』
『一発でサンドバックがふとんだぞ!』
『プロ並みの腕じゃないか!』
『ステキ、抱いて!』
『あの方がもしや、予言の勇者!?』
とか、ザワザワさせる予定なのにぃ!
俺TUEEEE!できない転生とか、マジ意味ないからなっ!
(フゥ~~……、あっぶねー危ねえー。
ギリギリセーフ、まだなんとか軌道修正が間に合うはずだっ)
何も為さないままに、時間だけが過ぎていく。
そういう流されるままのカスな人生は、既に1度目に失敗しまった俺だ。
今度の人生も惰性のまま生きて、2度目のチャンスを棒に振るところだった。
「来年からアットも、お姉ちゃんと同じ幼年学校に入学だ。
たくさん友達ができるといいな」
ちがうよパパン、全然よかねえよ!
学校なんて、勉強とか宿題とかで、オーラの修行全然できねえじゃん!
そんな事をたどたどしく伝えると、ヒゲもじゃパパは困ったように笑う。
「アットはまだ小さいんだから、そんな事を気にしなくていいんだよ。
オーラは養成学校に入ってから鍛えれば大丈夫だから」
だからパパン、全然よかねえってばよ!
せっかく輝士の家系とか、勝ち組候補に生まれたのに!
俺TUEEEE!できないなんて意味ねえじゃん!
今度こそ!
と、揺るぎない意思を固める。
▲ ▽ ▲ ▽
かくして。
俺は、2年振りにオーラの修行を始めた。
今度こそは完遂するという、強い覚悟と共に ──
── そして、3日で挫折した。
何の進展もない、3日間だった。
(更新予告)
では、また2時間後に