012話ヨシ! 11ヶ月後(1)、兄のおみやげ
俺、アット=エセフドラは、頭を悩ませていた。
オーラの活用方法が今ひとつ解らないのだ。
ヒントとなるのは父が一度見せた、変身だ。
どこからか現れた黒い鎧に全身が覆われ、すごい速さで駆けだしていった。
アレが、オーラの完成形のひとつのはずだ。
しかし、自分で色々検証した結果は、オーラは肉体強化の能力っぽいという事。
では、あの鎧は何なのか?
オーラを何かすればそういう、武器防具みたいな形になるのか。
あるいは、鎧自体はオーラとは別の何かで、魔法的な技術で呼び出しているのか。
いくら父に聞いても、はぐらかされてしまう。
『アットくらいの子供にはまだ早い』
その一点張りだ。
オーラを一点集中して圧縮したり密度を高めてみたり、色々してみるが、うまくいかない。
そうんなこんなを考えていると、急に家の方が騒がしくなった。
「兄さん、おかえり」
「お兄ちゃん、おみあげー。
おみあげちょうだいっ」
姉や妹の声だ。
それに、ママやお婆ちゃんの声もする。
「まあシェッタったら。
しばらく会わないうちに、こんなに立派になってっ」
「もう、あれから1年経つのかねえ。
この年になると、時の流れも早いものじゃ」
どうも、輝士養成学校に行っていた兄が帰ってきたらしい。
そういえば、なんか朝食時に、両親がそんな事を言ってた気もする。
「うん……俺が手探りで答えを探すより、知ってる人に聞く方がはやいよな」
タイミングよく帰郷した事だし。
「にーちゃん、おかえりー。
がっこうの事きかせてー」
俺は、なるべく可愛げある弟な感じを出しながら、兄の元へと走っていた。
▲ ▽ ▲ ▽
久しぶりに家族が全員揃って昼食を食べた後。
「オーラの訓練方法を聞きたいって?」
近所の親戚に顔見せに行く兄についていきながら、そんな事を聞いてみる。
「うん!
ぼくもお兄ちゃんみたいに、カッコイイ輝士になりたーい」
と、上手くおだててみる。
「うーん、でもなぁ。
あんまり子供におしえちゃいけない事だから……」
そんな渋る兄に、俺は内心舌打ち。
オーラの機密保持、徹底しすぎじゃないか?
だが、諦める訳にはいかない。
押してダメなら引いてみろ、だ。
「……あ、そっか……」
「そうなんだよ、まだ、アットくらいの子には──」
「── そっか。
お兄ちゃん、オーラ使えないんだ……?」
「え……?」
「ご、ごめんね。
ぼく、変なこときいちゃった……」
「い、いや、使えるし!
オーラとか超よゆうだし!」
「でも、お兄ちゃんガンバリ屋さんだから。
きっと、すぐに使えるようになるとおもうよ!」
「いや、使えるって!
お兄ちゃん、オーラの実技は、クラスで成績トップだし!」
「じゃあ、パパみたいに変身できる?」
「いや……それは、まだ、父さんみたいには ──」
俺の追求に、兄は口ごもる。
ありゃ、本当にダメかなこれは。
俺は、諦め気味に、兄を気遣う。
「── うん……。
ごめんね。
ぼく、もう聞かないから……でも、ガンバってね?」
「いやいやいや!
父さんみたいに全身に輝甲は無理だけど!
ほら、右手とかだけなら、充分いけるから!」
「お兄ちゃん、大丈夫だよ。
ぼく、おうえんしてるから」
「ほら、アット、見ろ見ろ!
お兄ちゃん、オーラ使ってみせるからな!
ほらぁ!!」
兄は慌てて、右手にオーラを集中し始めた。
いや、すまん兄ちゃん。
俺、別に、そこまで追い詰めるつもりじゃなかったんだが……。
まあ、だけど考えてみれば、5つも年下の弟に気を遣われるとか、兄の沽券にかかわるもんな。
いつになく顔つきが真剣で、なおかつ必死だ。
「ほら、アット、見ろ!
きたきたきた……っ」
兄がそう言うと、彼の腕の周りに青い輝きがホタルのように舞い、やがて腕に巻き付くように収束していく。
10秒ほどで、兄の右腕には、青い輝きを持つ腕甲が作り出された。
え、マジ!
兄ちゃん、マジで出来る人だったの!?
「わー、すごーい!
お兄ちゃんカッコイイ!!」
「そ、そうだろ?
お兄ちゃんはすごいだろっ」
「うん、スゴイスゴイっ」
「はははっ そうかそうか」
ここぞとばかりに褒めておく。
『いやーお客様さすがお目が高い大変お似合いですよ素晴らしい』──とかなんとか。
心にもない台詞を乱発した、ブラックな飛び込み営業という前世の職歴経験がいきた。
営業成績は振るわなかったので、所詮は子ども欺しな営業トークだ。
しかし、11歳の兄を持ち上げるくらいは出来たらしい。
それはともかく、今は兄のオーラの籠手だ。
「お兄ちゃん!
それ、さわってみていいっ?」
「おお、いいぞっ
どーんとこい!」
兄の青い籠手部分に触った感触は、何か有機的な感触だった。
硬度は高いが、重量はあまりないようで、少し弾力もある。
手触りは、金属と言うよりも、木材か甲殻みたいな感触だ。
「すごーい。
アットも、お兄ちゃんみたいになりたーい」
「はははっ
でも、オーラの訓練は大変なんだぞ。
お兄ちゃんだって、何回も気分が悪くなって、寝込んだりしたし」
(ああ……その症状は、標準仕様なんだ……)
兄のちょっと苦い顔からすると、10歳になっても、オーラ使いすぎればゲロ吐いたりもするのかもしれない。
「この輝甲だって、クラスメイトの半分くらいは、まだ形にもならないからな」
「そんなにむずかしいの!
お兄ちゃんすごーい!」
「そうそう、お兄ちゃんは優等生なんだぞ?」
「ゆーとーせー、スゴーイ!
ところで、キコウって、なぁに?」
「輝甲ってのはな、オーラで作り出した、鎧の事なんだ。
これで全身を覆えるようになると、一人前の輝士って事なんだ」
「それ……どうやってやるのぉ?」
「ん~、それは本当は秘密なんだけどなぁ。
知りたいか?」
「しりたぁい!
アットもお兄ちゃんみたいに、ゆーとーせーになりたぁ~い」
そんなゴマすりの甲斐あって、兄の目尻は下がり、口も軽くなった。
「そうか、そうかっ
お兄ちゃんみたいになりたいか。
じゃあ、アットが大きくなった時のために、ちょっとだけコツを教えてやろうかなぁ」
「わーい、ありがとー。
アット、すごいお兄ちゃんがいて、うれしー」
「でも、父さんたちには秘密だからな?」
兄が、そうもったいぶって説明する内容は、シンプルだが意外な答えだった。
(更新予告)
では、また明日6時に。