23.到着
「この辺をあっちに行った。……そこまでしか分からないけど」
サラダを目撃した少年が案内してくれたのは、非常に微妙なところまでだった。
通路の途中で案内が終わってしまう。
ミリアムとて、仕方ないとは思っている。少年はサラダに同行していたわけではないのだから、最後まで分からないのは当然のことだ。少年に罪はない。ミリアムとしては、少しでも足取りが分かっただけで幸運だった。
「ここから、あっちへ進んでいったのね?」
「……うん。そういうこと」
「それより先は知らないのね?」
「うん。知らない」
「分かったわ。参考になったわ、ありがとう」
「……じゃあこれで」
少年は役割を果たし終えると素早く去っていく。
なぜなのかはミリアムには分からない。が、ミリアムたちと共に歩くことを彼は嬉しく思っていなかったみたいだ。
「こっちに行ってみましょう? スープ」
「そうすね」
少年と別れ、ミリアムとスープは歩き出す。
サラダを発見することを目標としたまま。
サラダを探して通路を歩いていたミリアムは、何やら騒々しい部屋があることにふと気づく。
そこは確かあまり使われていない部屋だったはず——ミリアムは違和感を覚える。
「ミリアムさん?」
彼女のほんの少し後方を歩いていたスープが戸惑いを露わにする。
「……あそこの部屋、何だか騒々しいわね」
ミリアムは眉間にしわを寄せながらそんなことを述べる。
一応スープの言葉に返したのだろうが、どちらかといえば独り言に近いような言い方だ。
「あの部屋使われてたんすねぇ」
「確か……以前は使われていなかったはずよね」
「そうっすね!」
「……気になるわ」
立ち止まっていたミリアムは、急に再び足を動かした。彼女が向かっていっているのはなぜか騒々しい部屋。その足取りに躊躇いはなかった。
ミリアムは廊下を迷いのない足取りで進み、何やら騒々しい部屋の前で立ち止まる。
その時、ミリアムは戦慄した。
男に絡まれるロゼットの姿が視界に入ったからだ。
ミリアムはロゼットに声をかけたかっただろう。だがすぐには動けなかった。動揺が瞳から全身へと波紋を広げてゆく。そのただなかで、彼女は言葉を発することも動くこともできなくなっていた。
そんな時だ、スープが声を発したのは。
「サラダ! ここにいたんすね!」
ミリアムはロゼットとそれを取り囲む男性たちの方へ意識が向いていた。だが、付近にはサラダの姿もあって、スープはそちらに意識を向けていた。
「探したんすよ! うーんっと困ってたんすよ!」
スープは大きい体を揺らしながらサラダに接近していく。
だが、サラダは温かく迎えなかった。
「……そこで止まって」
「へ? 今、何て?」
「止まってって言ってるの!」
強く言われたスープはショックを受けたような顔をする。
だが、スープがショックを受けるのも、まんざらおかしな話ではない。いつも向日葵のようだった少女が突然鋭い物言いをしてきたら、誰だって驚くとともに頭を殴られたような気分になるだろう。
「スープ、今はそれ以上こっちへ来ないで」
サラダは冷ややかに述べる。
その口調には、ミリアムもさすがに違和感を抱かずにはいられなかった。
「さ、サラダ? 一体何を言ってるんすか……?」
「邪魔しないで!」
「……わ、分かったっす……けど……」
スープはそこまでで唇を結ぶ。
続きが、まだ何か言いたいことがありそうだったが、彼はそれ以上言葉を発することはしなかった。
「サラダ。これは一体どういう状況なの?」
スープが一旦黙ったところで、ミリアムがサラダに話しかける。
ロゼットが手足を縄で縛られている。しかも、男性に取り囲まれ、威圧的な言葉をかけられたり睨まれたりしているのだ。さらに、今にも暴力行為に至りそうな者だっていた。
何がどうなってこんなことになっているのか、ミリアムには理解ができない。
「……ミリアムさん、貴女もわたしたちを騙していたんですね」
「え」
サラダの口から出た冷ややかな言葉に驚き、ミリアムはたいしたことは返せなかった。
「ロゼットさんは裏切り者だったんですよね」
「……裏切り、者?」
「彼から聞きました。銀の国の人間としてここに現れたと」
ミリアムはロゼットの事情を知っている。彼が銀の国から送り込まれた人間であったことも、本人から既に聞いた話だ。それゆえ、改めてサラダの口から聞かされても、そこまで衝撃を受けたりはしない。
「驚かないんですね。ミリアムさん」
ロゼットと銀の国の繋がりについて初めて聞いたスープはオロオロしている。
「……既に知っていたから、ですか?」
サラダのその彼女らしくない目つきにミリアムは困惑した。
彼女はこんな人だっただろうか、と、自身の中で何度も問いを繰り返す。
能力者をよく思わない人間はたくさんいて、けれども、サラダはそんな中でも比較的気さくに接してくれた。最初は遠慮がちではあったが、それでも、少しずつ親しくなって。ミリアムは、サラダとは友達のようになれていると思っていた。
でも違ったのか?
ミリアムは複雑な心境になる。
親しくなれたなんて幻想だった?
最初から仲良くなれるはずがなかった?
ミリアムの脳内は、今、そんな言葉に満たされている。考えたくなくても考えてしまうのだ、能力者と非能力者の間にある壁のことを。
「知っていたんですよね、ミリアムさんは。ロゼットさんがあちら側から来た人間だって」
「……えぇ。本人から少しだけ事情を聞いたわ」
今さら隠すことなんてできまい。それならば本当のことを言った方が良い。ミリアムはそう考えて、何も隠すことなくすべてを晒け出すことを決めた。
「でも、わたしたちには言わなかった! そうですよね」
「言う必要はないと思ったわ」
「貴女がわたしたちに一言でも伝えてくれたなら、もっと早くロゼットさんを追い出せました!」
「待って、サラダ。貴女は何を言っているの?」




