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忍びの少女、その3



「なんと……、眼の色が……」


「最初は驚きますよね、これが彼女の起動状態なんです、まぁ見ててください」



 メクルはピーシーから受け取ったコートを近くのロッカーへと掛けながら、なぜかお茶の準備を始めました。



「ネット接続開始、コール、接続完了、検索、現代語辞書、ヒット、ダウンロード開始」



 呟きと共に、ピーシーの瞳の奥で何かが瞬き、動いていました。



「うしし、アオメちゃんよう、ピーシーのインストはちょーっと刺激が強いぜ」



 アオメを羽交い締めにしたまま、ヒロは楽しげです。



「ダウンロード完了、フォーマット、完了、メクル、できた、繋ぐ?」


「うん、でもゆっくりね、一気に入れると焼き切れるよ、アオメ様の脳《HDD》が」


「な、なに!? お主今なんと言った? ま、まて、嫌な予感がする、放せ南蛮熊!」


「大丈夫大丈夫、痛くないから、先っちょだけだから」


「ヒロ、変態ぽい」



 もそもそとベッドへと上ったピーシーがアオメと見つめ合いました。

 青い瞳と青い瞳、ピーシーの瞳の色は少しだけ緑がかっています。



「な、なんだ……」


()()()()



 そのままピーシーはアオメの両肩を押さえると顔を近づけ、唇と唇を接続しました。



「んぼッっっ!?」


「ほい暴れるな暴れるな、ピーシー、噛まれるなよ」


「だひひょうふ」



 アオメの口の中へと舌先を這わせ、慌てて閉じようとする歯に気をつけながら丹念に接続し、そして侵略ハッキンングが始まりました。



「っ!? ッ――!! んっ……んあ……ん、あ……」



 暴れようとしていたアオメの力がダラリと抜け、今、ピーシーの支配下に入りました。


 ピーシーの能力、それはコードネームのまま、能力名『PC』


 パソコンにできる事は基本的に本人のメモリーとCPU次第で大体できます。


 従来のパソコンへのハッキングもお手の物、あらゆる現代機器を操作する……と、そこまでは高性能なノートパソコンと知識があれば誰にでもできます。


 ピーシーが委員会でも図書委員に席を置くのにはもっと特別な理由があります。


 接続を切ったピーシーが、今度はダラリと下がったアオメの頬を両手で包みました。



「…………侵略完了はっきんぐかんりょう、データインストール、終了、HDD内データログ参照……、メクル、この人……やっぱりすごく昔の人、あと、蘇生能力者レイズは、他にいる」



 能力『PC』はパソコンを自在に操る人間ではありません、


 人間をパソコンのように操る人間、それがピーシーです。



「じゃぁ本当に死者蘇生した、と……予想はしてたけど、やっぱりレイズは実在すると考えた方がよさそうだね」



 メクルの中で、これで確信へと至りました。



 死者蘇生能力者、レイズが存在する。



 そしてこれを報告した剣真の血の気が引いた顔と、キラリの楽しげな微笑みも思わずセットで浮かびます。



「それで……、レイズの正体は映ってた?」



 ピーシーは首を左右に振りながらアオメから離れます。



「まだ、データの欠損、多い、一部防壁有り、不可侵領域、この子、……たぶん能力者」


「やっぱそうだよね、身体能力フィジカル系?」



 昨日の動き、あの素早さを見れば人間の域でない事は既に分かっていたことです。

 問題は、



「おいおいてことは、御影学園ができるより前から能力者はいたって事かよ? まじもんの忍者も実在してたって話ならオイラわくわくするってばよ!」



 メクルが考えている事もそれでした、ヒロは好きな忍者漫画が実はノンフィクションになった事への喜びかもしれませんが。



「身体強化系、たぶん、違う……説明、難しい、あと、もう、疲れた」



 ボフンと、そのままピーシーはアオメのベッドへと倒れ込みました。


 パソコン同様に能力を使用すると体温が上昇し、電源の代わりにカロリーを消費するのが難点なこの能力、今ので熱くなったのか少し頬も赤らんで汗もかいています。



「おつかれさん、これで話が早くなるな」



 と、ヒロは未だ力が抜けきったアオメからコアラホールドを解くと、ピーシーを抱えて近くのソファーへと寝かしつけたところで、アオメが目を覚まし、起き上がりました。



「ん、んん、い、今のは一体……」


「おはようございます、アオメ様、大丈夫ですか?」


「まだ少し目が廻う感覚だ……」


「ちょっと用量の多いデータを脳に入れさせてもらったので、どうぞ、粗茶ですが」


「お、おお、すまんな」



 予め準備しておいた番茶の湯飲みを差し出すと、アオメはベッドの上で姿勢を一度正し、正座になるとお茶を受け取り、丁寧な仕草で一口飲んだ。



「……うむ、粗茶などと謙遜を言う、結構なお手前だ」


「ありがとうございます、時にアオメ様、これは何ですか?」



 と、メクルはボールペンをアオメに見せました。



「……()()()()()()だ」


「はい、じゃぁこれは?」



 と、今度は天井の照明を指さします。



()()()……なんだ、なんだこれはっ、なぜ分かる!?」



 アオメはベッドから飛び起きると、辺りを見回します。



「て、()()()()()()()()()()()()()()()()……ベッド、分かる、なぜか分かるぞ、なんだこれは、なにかの術か!?」



 ピーシーによって現代の生活に困らない程度の言葉を頭に焼き付けたので、頭では分かっていても心では良くわかっていないという、なんとも不可思議な感覚になるのはメクルも良くわかります。


 異世界に言っても、この方法で現地人から言語データを抜き、解析、翻訳し、それをさっきと同じように焼き付けて喋れるようにしているのですが、違和感になれることはなかなかありません。



「術、もしくは能力、チート、私達の時代ではそんな風に呼びます」


「ちー、と? 能力、わかる、はは、すごい、な、これは」


「それじゃぁ話を戻します、ここは御影学園にある総合病院の地下です、アオメ様は昨晩致命傷となる怪我をして、そこを私達が救出し、ここへと運び治療しました」


「学園、病院、治療……そうか、そうだった、私は御影の城で……あぁ」



 記憶を辿るようにアオメの視線がベッドへと落ちこむと、少しして両肩をブルブルと震わせだし、ベッドから飛び降りと同時に、





「す、すまなかった!! お主らは、私の命の恩人ではないか!!」





 額を地に着け、それは見事なジャンピング土下座でした。



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